第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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サトウ様
投稿時刻 : 2013.02.16 23:30 最終更新 : 2013.02.16 23:42
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- 2013/02/16 23:42:03
- 2013/02/16 23:30:29
サトウ様
長谷川 圭佑


 お客様の中に、サトウ様はいらいませんか?
 青年は、ワケが分からなかた。

 青年は、いつも利用しているレンタルビデオ店に映画を借りてきていた。あわせて三本。古いものと、そこそこ新しいものと、今日出たばかりの新作をそれぞれ一本ずつ。週末、彼は自宅でそれらの映画を観る以外には予定が無かた。ちなみに、“そういう”ビデオは借りなかた。彼はいつも、それはそれで、また別の店で借りることにしているのだた。
「会員証はお持ちですか?」
 彼は、毎度聞かされるその質問に、うんざりしていた。彼は、心のせまい、寂しい青年だた。だが、同時に小心者でもあた。
「はい、持ています」彼はいつも、律儀に答えながら会員証を出す。
「新作のご利用泊数はいかがなさいますか?」
「一泊で」
「スタンプカードはお持ちですか?」
「いいえ、持ていません」
「無料でお作り出来ますが、いかがなさいますか?」
「いいえ、結構です」
「では、お客様の中にサトウ様はいらいませんか?」
……え?」
 青年は、聞き間違いだと思た。青年の名前は、ハセガワだた。
……え、いいえ」それにしても、もし自分がサトウだたとして、〈――の中にサトウは――〉とはどういう意味なんだろう? 青年は不思議に思いながらも、何とかそう答えた。
「え?」レジの女性店員は、予想外の答えに驚いたように、言た。「サトウ様、いららないんですか? お客様の中に……
 青年は、わけがわからなかた。
「え……いえ、いませんよ。ちなみに、ぼくはハセガワですが……
 女性店員の顔が、みるみる青ざめていく。彼女は、あわてて、奥へと引込んだ。奥からは何か、男性の怒鳴り声が聞こえてきた。ほどなくして、スキンヘドのいかつい、エプロンのひどく似合わない男が出てきた。
「お客さん、ちとこちへ」そう言て腕をつかまれ、店の奥へと引ていかれた。
「どういうことなんです? お客さんの中に、サトウ様がいららないて」
「え、いえ、どういうこと……ぼくはハセガワで、サトウ様なんて……
「ちと、警察呼びます」
「え? ちと待てください。どういうことなんですか? わけがわかりませんよ。説明してください」
 しかし、青年の訴えは聞き入れられなかた。すぐに警官が二人、やて来た。
「きみ、本当にサトウ様がいららないの? 君のなか」
 青年は、先ほどと同じように否定を繰り返した。
 二人の警官は、参たな、というような顔を見合わせながら、何か小声で相談しあていた。
 やがて、一人の警官が意を決したように青年に手錠をかけ、もう一人が、彼の腰に縄をかけた。
 そうして、青年は連れて行かれた。
 青年が連れて行かれた先は、意外にも、取調室ではなく、病院だた。
「たぶんね、記憶違いだと思うんだ。思い込みていうかね。きみが自分の中にサトウ様がいないと言てるのは」
 白衣の若い男が、青年の顔をのぞきこむようにして言た。彼は、担架に縛り付けられ、身動きがとれないようにされていた。
 それから、青年は血を取られたり、脈をはかられたり、レントゲンを撮られたりした。
 すべての検査が終わて、白衣の男たちが何人か集まて、縛りつけられた青年の横で、レントゲン写真を見ながら、話し合ていた。
「おかしいな……本当にいないようだぞ」
「いや、……ここだ。背骨の影にぴたり重なてしまていたんだ」
「いやあ、慌てたなあ、サトウ様、本当にいなくなてしまたのかと思た」
 彼らは安心したように、談笑していた。
 突然、青年の腹部に、激痛が走た。白衣の男たちの間にどよめきが起こた。痛みは激しくなていた。内側から、何かが突き破て出てくるようだた。青年は、意識を失た。
 彼の身体は、担架に乗せられたまま、別の部屋へ移動させられた。看護師たちが集まて来た。白衣の男たちも青緑色の服に着替え、部屋へ駆け込んだ。
 やがて、青年の腹を内側から突き破て、何か、細長い身体の生物が出てきた。
 男たちのうちの一人が言た。
「よかた。サトウ様は無事だた」
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