てきすとぽい
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第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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〕
_____と%$$
(
雨之森散策
)
投稿時刻 : 2013.02.16 23:34
最終更新 : 2013.02.16 23:44
字数 : 1669
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2013/02/16 23:44:13
-
2013/02/16 23:34:49
_____と%$$
雨之森散策
『お客様の中に_____はいら
っ
し
ゃ
いませんか?』
そのアナウンスを聴いた時、思わず俺は失笑してしま
っ
た。
「なんか、旅客機とかで急病人でも出たみたいなセリフだな」
そう言
っ
て彼女の同意を求めたくて隣を見やると俺とは違い彼女の方は妙に深刻な表情をしていた。
「
……
今、あの人なんて言
っ
たの?」
「さあ、ナントカはいませんか
っ
て」
「ナントカ
っ
て?」
「知らないよ」
俺のその言葉を聞く前に彼女はアナウンスの源である女性店員へと歩み寄
っ
ていた。
ここは日曜日のデパ地下であ
っ
て空中を飛ぶ旅客機とは訳が違う。急病人やけが人程度なら救急車やパトカー
を呼べば済む話だ。
『お客様の中に_____はいら
っ
し
ゃ
いませんか?』
また例のアナウンスだ。い
っ
たい何を必死にな
っ
ているのだろう。またしても肝心の部分を聴きそこねた俺は彼女の後ろ姿を見つけるとやれやれとい
っ
た態を装い近づいた。ち
ょ
っ
とした好奇心に刺激されてもいたがわざわざ彼女に告げる事もない。
「何て言
っ
てるか分か
っ
た?」
そう言
っ
て彼女の顔を伺
っ
て見たが、その表情はいつもと明らかに違
っ
たものだ
っ
た。頬は蒼白になり、かちかちと歯の鳴る音が聴こえる。
『お客様の中に_____はいら
っ
し
ゃ
いませんか?』
三度のアナウンスで俺はようやく違和感に気づいた。これだけのアナウンスをや
っ
ているのに女性店員の周りには彼女と俺を除き誰も集ま
っ
てはいないのだ。そして周辺には何らかの異変が起こ
っ
た様子もない。なのになぜ彼女はこんなにも顔を青くして震えているのだろう。
『お客様の中に_____はいら
っ
し
ゃ
いませんか?』
前髪をぱ
っ
つりと切
っ
た女性店員の佇まいはどこか人間味が薄く、まるでロボ
ッ
トのようだ。
「
――
私」
蒼白の彼女がようやく唇を開いた。ようやく俺は恐ろしくな
っ
てきた。
「私、*+=%$から来た「¥です」
彼女がそう呟いた途端、前髪ぱ
っ
つりの店員が強烈な反応を示した。
「*+=%$の? では間違いなく_____ですね」
この店員は相変わらず何を言
っ
ているのかが分からない。しかしなぜ彼女の言葉さえも俺は理解できないのだろう。
「
……
お前ら何や
っ
てんだよ」
悲鳴に似た声を上げた俺を二人は一瞥すると、
「「¥、こ
っ
ちへ」
「%”=
~
」
完全に無視した。彼女は店員の案内に従いカウンター
へ入るとシ
ョ
ウケー
スから大皿を引き出す。
「
……
まさか」
一瞬俺の理解できる日本語を発した彼女だ
っ
たが店員が何事かを吹き込むと火が着いたように泣き始めた。
「’&▲○まで! ;)¥!の%$$!」
もう何を言
っ
ているのか全然分からない。彼女は大皿を前に膝から崩れ落ちた。
「おい、このサラダが何だ
っ
て言うんだよ」
大皿に盛られていたのはどこにでもあるただの海鮮サラダだ
っ
た。マヨネー
ズベー
スと思われる白いドレ
ッ
シングが艶かしく光
っ
ていて思わず唾が込みあげてくる。
「%$$!」
店員が俺の理解できない事を叫んで睨んだ。背中に悪寒が走る。殺気というものがあるとしたら恐らくこういうものを言うのだろう。
「ねえ」
シ
ョ
ウケー
スの前でし
ゃ
がみこんでいた彼女がゆ
っ
くりと立ち上がる。蒼白と思われた顔は更に白くな
っ
ていた。
「それおいしそうに見える?」
俺の目を見た。彼女の目は金色に光
っ
ていた。比喩ではなく、本当に光
っ
ていたのだ。
「いや、全然
……
」
と
っ
さにそう言
っ
た。ウマそうだと言えば殺されると思
っ
たからだ。ず
っ
と俺の表情を伺
っ
ていた彼女に瞳の金色の光が、ふ
っ
と消えた。そして彼女は息を吸い込んだ。
「嘘つき」
それだけ言い残すと前髪ぱ
っ
つりの店員とともに彼女はぺらぺらと音を立てて消えた。
俺の前に残されたのは大皿の海鮮サラダ。そして店員と彼女、二人分の『皮』だ
っ
た。
白いドレ
ッ
シングは予想どおりマヨネー
ズベー
スだ
っ
た。野菜はし
ゃ
きし
ゃ
きしていてエビはぷりぷり、くらげの歯ごたえも堪らない。や
っ
ぱり舌は嘘をつけない。
その夜俺は消えた彼女の事を思いながら海鮮サラダを食べていた。食べれば今日あ
っ
た事を全部忘れられると思
っ
ていたが、そのうち塩味がきつくな
っ
てきて俺はトイレにかけこみ食べたものを全部吐いた。
終
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