第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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Haunted Horizon
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
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Haunted Horizon
木野目理兵衛


 その現象が何時頃から始またのか、はきり知る者は居なか――より正確に言えば、そもそも“者”自体が殆ど残ていない訳だから、当然と言えば当然だが。
 逆に言えば、だからこそ始また現象と言えなくも無い――意地汚く残骸を晒す構造物が時折ひこり顔を出している以外は、塵芥と金屑に覆われた荒野が何処までも広がる荒野に復興の兆し等有りはせず、生き残た人々の誰もが熟練の探索者として日々の糧を探し、廻り、掘り起こす――それが、そんなものが日常面をして蔓延していれば、何も知らぬまま眠りに付いた者達をむざむざ起こす気になんてなる筈が無く――いいや、いやいや、人目なんぞ絶えて久しいのだから、もと素直に腹を割てしまえ。そんな生活で巡り会いたいのは、お目に掛かりたいのは、疲弊した御頭にも理解出来る揺るぎ無い価値であり、長く退屈な労働に見合うだけの正当な報酬であり――衣食住。並びの程は如何様に、だけれど、まつまりは、そういう事だ。“物”と変えても良いかもしれないが。
 そう、だからこそ、だ。
 幽霊屋敷――いいや、いやいや、幽霊が居る屋敷の事では無い、等というのは言うまでも無かろうが念には念を、幽霊なる屋敷、或いは、屋敷なる幽霊――より正確に言えば、屋敷に限らない構造物が、有り得る筈も無い損害具合、即ち、何一つ傷付いていない具合と、時折を頭から外した形でひこり顔を出し始めたのは、まだからこそに違いない。
 時節としても丁度良い頃合いだろう――災厄の日、火と変えても良い未曾有の大異変が起きて、多分恐らく十数年余り。過去が熟し、都合良く実り出したとて、何が悪かろう。
それがもし仮に違たとしても悪かたとしても――実物はとうの昔に灰になているであろう安葉巻の紫煙が、毒の香りも香ばしく、ゆらりと立ち昇る――生き残た人々のその多く、その一人であるウリアム・キニングにとては、何の問題も無かた。
 よしんば、最初の疑問すら、だ――何処までも広がる荒野を当て所無く歩き、歩き、彷徨い歩いた末に目の前に聳え建ていた高層集合住宅。その壁面の頼もしげに黒い色艶が、一歩また一歩と両脚へと応える廊下の、階段の堅牢さが、誰彼がしかりと暮らしている風なのに、誰一人として暮らしていない部屋部家が、今、この瞬間、確かに有ると感じられるならば、何時の、そして何処の、更には何故かの解答等必要無い。
 幽き葉巻――仮定としての――を幽き煙に、幽き灰に――いいや、いやいや、もう呼ぶまい――変えながら、ウルはそう朧気に思案する――恨みがましい視線が、傍らに横たわり、もう二度と起きる事の無い、と半ば証明されている競争者の死体から向けられるのを華麗に無視しつつ、流れる様に向かうのは、安らぐ程に大きい冷蔵庫のその中身、そこから想定出来る今日の晩飯の題目であり――喉元を伝う肉汁に、彼はごくりと生唾を飲み干した。
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