てきすとぽい
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第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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創造主の箱庭
(
kenrow
)
投稿時刻 : 2014.05.04 23:31
字数 : 1710
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創造主の箱庭
kenrow
現世で「お題」が発表されたことを知
っ
て、『嘆きの城のハンナ(仮題)』の主人公エミリアは狂喜の声をあげた。
「ついにわたしたちの出番が来たのね!」
ぎ
ょ
ろりとした目で満月を見上げたかと思うと、彼女は朽ち果てた屋敷を飛び出した。森を一直線に抜けて、今にも崩れ落ちそうなレンガ造りの古城へとたどり着く。
「ハンナ! ねえ起きて、ハンナ!」
「何よ、うるさいわね
ぇ
……
」と、寝ぼけ眼の城の主ハンナがて
っ
ぺんの窓から顔を出す。
「まだ夜の10時じ
ゃ
ない
……
もう少し寝かせて。あとハンナじ
ゃ
なくて王女と呼びなさいと何度言えば」
「この森はいつだ
っ
て10時じ
ゃ
ない! それともあなた、一生寝ているつもりなの?」
「そのつもりだけど何か?」開き直
っ
たようにハンナが胸を反らせた。
「いいじ
ゃ
ない。どうせわたしの人生は永久に行き止まりなんだから」
「それがね、風向きが変わ
っ
たみたいなの」
エミリアは幽霊の特権で宙をふわふわと浮かび、ハンナの部屋の窓へとたどり着く。ハンナの部屋はいつ見てもきらびやかだなと、エミリアは羨ましが
っ
ていた。当初のプロ
ッ
トでは物語の序盤でハンナが壮絶な死を遂げて、この部屋も血に染まる予定だ
っ
た。しかし物語が序盤にも達せず頓挫したおかげで、ハンナは生身の女王として生き続ける羽目にな
っ
てしま
っ
たのだ。
ハンナ所有の最新型PCで、ツイ
ッ
ター
のタイムラインをチ
ェ
ッ
クする。あるアカウントがつぶやいた〈今回のお題:「幽霊屋敷」〉という文字列を目にして、ハンナは人間の身体のままで、エミリアに負けないくらい高く跳びあが
っ
た。
「夢みたい! や
っ
とわたしたちの物語がはじまるのね!」
「そうよ! 3年前にどこかの誰かさんがプロ
ッ
トだけ組み立てて放り出した私たちの物語。それがようやく動きはじめるのよ!」
エミリアはハンナの背後へと回りこみ、そ
っ
と肩を抱き寄せた。
「ハンナ、あなたにもき
っ
と素敵なパー
トナー
が現れるに違いないわ」
「うれしい! エミリア、わたしず
っ
とあなたのことが
――
」
ガシ
ャ
ァ
ァ
ン!!
目の前を浮遊する少女にハンナが駆け寄ろうとした瞬間、窓を割
っ
て人影が飛び込んできた。
「ち
ょ
っ
と待
っ
た
ァ
!!」
「え、なに、誰なのあなた
……
?」
二人の視線の先で、ボクサー
パンツ一丁の男が仁王立ちしていた。
「俺は『ネイキ
ッ
ド・ベー
スボー
ル(仮題)』の主人公、名称未定だ! 今回のお題、この俺がもら
っ
た
ァ
!」
「どういうことよ! あなた幽霊でも何でもないじ
ゃ
ない。引
っ
こんでなさい!」
「俺はお前らよりも長い5年もの時を耐え抜いてきた。物語を語らないキ
ャ
ラクター
など死んでいるも同然。つまりな
ァ
、俺だ
っ
て幽霊同然
っ
てことだよ!」
「『屋敷』要素はどこにあるのよ
……
」
「学園が舞台だからな
ァ
! いわば学園が屋敷だ!!」
「無茶苦茶なこと言わないで! それと服を着なさいこの変態!」
エミリアがそう叫んだ瞬間、「「「ち
ょ
っ
と待
っ
た!」」」と、さらに別の声が3つ聞こえてきた。
二人と乱入者一人が割れた窓の外を見ると、城の前に3つの人影が立
っ
ていた。
「僕は『水中庭園(仮題)』の主人公、ウラシマ(仮)だ。名称未定くんの言うとおり、僕たちは幽霊みたいなものだ。お題は満たしていると確信する」
「わわ、わたしは『タイトル未定(学園ミステリ)』の主人公、名称未定子(中二♀)です
っ
! わたしもその、幽霊
っ
て設定で、もう4年半も放置されているんです
っ
。だから、その」
「フフフ、そして拙者は
――
」
「あー
っ
、もう
っ
! わか
っ
た! わか
っ
たから!」
エミリアがたまらず声をあげる。
「あなたたちの言い分はわか
っ
たわ。こうな
っ
たら最終手段。公平な手段で決めまし
ょ
う」
ハンナの部屋に全員を集め、エミリアは幽霊にでも話しかけるかのように、虚空を睨みつけながら言
っ
た。
「さあ、どれでもいいから今日こそはじめてち
ょ
うだい。わたしたちの物語は、あなたにしか創れないのだから」
幽霊が詰ま
っ
たフ
ォ
ルダから目を背け、再びツイ
ッ
ター
のタイムラインをチ
ェ
ッ
クする。
「追加お題は『大金』か
ぁ
、残念。今日こそは書けそうだと思
っ
たのに」
私はフ
ォ
ルダをそ
っ
と閉じて、艦隊の育成へと戻ることにした。
彼女たちの物語が、いつか日の目を見ることを夢見て
――
。
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