てきすとぽい
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第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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幽霊屋敷の一件
(
たこ(酢漬け)
)
投稿時刻 : 2014.05.04 23:47 最終更新 : 2014.05.06 23:43
字数 : 6812
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- 2014.05.06 23:43:34
-
2014.05.05 23:47:17
-
2014.05.04 23:47:32
幽霊屋敷の一件
たこ(酢漬け)
「き
ゃ
ああ」
夜の館で女性の悲鳴が響いた。それから雷鳴が轟き、雨が降り始めた。真
っ
暗な空から土砂降りの雨が降り始め、時折、天に雷光が走
っ
た。
数人の男女がその館の玄関から走り出てきた。
「おい、雨降
っ
てんじ
ゃ
ねー
か」
「そんなこと気にするな。それより、早く逃げるぞ」
「でも、一人置いてきて・・・」
「いいから。はやく」
そんなやり取りがなされ、その若い男女はワンボ
ッ
クスカー
に乗り込んだ。ワンボ
ッ
クスカー
はライトを点灯させ、タイヤをスリ
ッ
プさせながら方向転換し、急いで走り去
っ
て行
っ
た。
###
「また、何をや
っ
ていたんですか?」
先ほどの若い男女は交番にいた。びし
ょ
濡れにな
っ
た服を着たまま警察官の前にいる。警察官はというと、少しあきれた表情をしながら事情を聴取していた。
「ち
ょ
っ
と、肝試しを。大金が隠されている
っ
ていう噂で」
一人の男がそう言
っ
た。主に話をしているのはその男で、その男女の中には両肩を抱えたまま震えている女性もいる。
「あー
。確かにあそこは心霊スポ
ッ
ト
っ
て言われているからね。ここいらでも幽霊屋敷と言われて誰も近づかないよ。でも大金ね
ぇ
。で、それで?」
警察官に促され、また男がし
ゃ
べり始めた。
「見ち
ゃ
っ
たんですよ、幽霊を」
その一言を聞いて警察官は笑
っ
てしま
っ
た。
「いやでもね。君。何か見間違えたんじ
ゃ
ないの?」
「いやでも見たんですよ。てゆー
か、早く館に向か
っ
て下さいよ。実は一人置いてきち
ゃ
っ
て」
警察官はその一言を聞いて顔色を変えた。
「それは聞き捨てならないね。てことはまだあの館に一人いる
っ
てこと?」
「そう。そうなんだよ。だから早く」
男がそこまで行
っ
たところで警察官は男の話を遮
っ
た。それから電話の受話器を持ち、どこかへ電話し始めた。
「○○署です。ち
ょ
っ
と、事件めいたことがありまして。はい。夜の山荘に若い男女が侵入。それから、一人がけがをして館から動けない模様。はい。はい。至急応援を。はい」
そんな言葉が聞こえてきた。
「いま応援を頼んだからね。ち
ょ
っ
とその館へ向かわせてもらうよ」
警官はそう言
っ
て交番の奥へと入
っ
て行き、出てきたときにはレインコー
トを手に持
っ
ていた。
「悪いけど、君たちにもついてきてもらわなき
ゃ
いけないね。はいこれ。君たちの分」
そう言
っ
て警官は、そこにいた数人の男女にレインコー
トを手渡した。
「君、運転は大丈夫?」
「はい。何とか」
それからお互いは車の運転席に乗り込み、ワンボ
ッ
クスカー
に続いてパトカー
が走り出した。
###
「早いね」
館につくと、既にパトカー
が何台か館の前に止ま
っ
ていた。先ほど交番にいた警察官は
別の警察官と話し込んでいた。
「飛ばしてきたもんですから」
そう言う警官の後ろでは何人かの警官が現場鑑定やら何やらの準備をせこせこと進めていた。
「あ、こちら刑事さん」
警官が指示した方にはビニー
ル傘をさして、コー
トを着た初老の男性がいた。
「君たちも後で話を聞いてもらうからね」
警官はそう言
っ
た。若い男女は肩身を狭そうに、不安げな表情で立
っ
ていた。
「でも君、これは事故かもしれないんだろう?」
「それでも、仕事ですよ」
警官にそう言われると、刑事はとぼとぼと館の方へと歩いて行
っ
た。
「あ、僕は君たちの事見張
っ
てなき
ゃ
いけないから」
警官はそう言うと、レインコー
トの裾を直す仕草をした。そして懐中電灯で周囲を注意し始めたが、特に何もない様子であ
っ
た。
###
「見つかりました。血を流した女性が倒れています」
「息はあるか?」
「脈を確認していますが、脈拍確認できません」
「人口呼吸は?」
「や
っ
てみます」
館の中は騒がしい様子であ
っ
た。発せられる声は怒鳴り声に近いものがあ
っ
た。灯光器が設置され、屋敷の中は明るく照らされているが、照らしきれない箇所があ
っ
た。
「だめです。息ありません」
人工呼吸をしている救急隊員の声がして、現場には重苦しい空気が流れた。
「駄目だ
っ
たか」
刑事はそう言
っ
て煙草に火をつけようとしたが、現場内が禁煙であることを思い出し、すぐに煙草をしま
っ
た。
死体の体温はまだ温かく、死後間もないようであ
っ
た。倒れている女性の後頭部からは血が流れており、後頭部を強打したことが死因であることが伺われる。
遺体は階段の傍に倒れていた。刑事が懐中電灯でそちらを照らすと、階段が一段踏み抜かれている跡があ
っ
た。
さらに周囲を探索すると、一枚の板が転が
っ
ているのが見つか
っ
た。
「これは、結構な・・・」
板は激しく腐食しており、人力でも板の表面を剥くことができるようなものであ
っ
た。
「折れ跡は、一致するか?」
刑事はその場で、階段を踏み抜いた場所に板を当ててみた。大体一致するようであ
っ
たが、正確に知るは鑑識に頼まなければいけないだろう。
「おー
い。ここ頼む」
刑事がそう言うと、鑑識がや
っ
てきて、その場の写真を撮り始めた。
「どうやら、事故の可能性が高い、か」
そう言
っ
て刑事は死亡現場から離れて行
っ
た。その場に居合わせたであろう男女に話を聞くためだ。
###
屋敷の外はまだ雨が降
っ
ていた。刑事は玄関の脇に立てかけておいた傘を指し、ワンボ
ッ
クスの中で待
っ
ている男女の方へと歩き始めた。車の傍には、連絡をくれた警官が立
っ
ていた。
「ち
ょ
っ
と話を聞いてもいいかね?」
刑事がそう聞くと、警官はコクリと頷いた。そして車のウ
ィ
ンドウをノ
ッ
クした。
後部座席横のスライドドアが開かれ、中には男女の姿が見えた。
「なんすか?刑事さん」
「いや、どうやら階段を踏み外した衝撃で死んでいるようなんだがね、その時の事何か見てない?」
「死んでる・・・」
メンバー
の間に戦慄が走り、第一声を発した男も下を向いてしま
っ
た。
「ま
ぁ
、つらいのは分かるんだがね。当時の状況を知りたいんだ」
刑事がそう言
っ
てから、しばらくすると、また若い男が話し始めた。このメンバー
のリー
ダー
格なのだろうか。
「いや、俺たち二階に上が
っ
て行
っ
たんだよ。結構ひどい有様だ
っ
たね。荒れ果てて。最初は大金はどこだー
っ
て感じだ
っ
たんだけど、なんか奥に行くにつれてどんどんやばい雰囲気がしてさ、それで、ちら
っ
と懐中電灯を向けた先に、いたわけよ」
「いた?」
「いや、幽霊だよ」
刑事はその言葉を聞いて顎をさす
っ
た。
「君たち薬はや
っ
ていないよな?」
「当たり前だぜ」
男がそう言うと、周囲のメンバー
も頷いた。
「どんな姿の幽霊だ
っ
た?」
「え
っ
と、髪の長い、女だ
っ
たかな。やべ
ぇ
。思い出すだけでも」
そう言
っ
て男はぶる
っ
と武者震いをした。
「それからみんな必死で走り出してよ、無我夢中で、真
っ
暗ん中」
「それで、最後にあの階段を踏みしめたあの子が命を落としたわけか」
刑事はそう言
っ
た。
「君たち全員幽霊を見たの?」
そう聞くと、全員がうなずいた。
「そんなには
っ
きり?」
また全員がうなずいた。
###
刑事は再び館の方へと歩き始めた。あと何回この往復をするだろうか。実況見分の状況を聞かなければ。刑事は館の方へと歩みを速めた。
幽霊の謎は、おそらくのところ、死体の傷跡と、館の中をくまなく探し回れば解けるのではないだろうか。
とりあえず、事故か他殺なのかを、も
っ
と詳しく調べねば。
「しかし、どうしたものかな」
簡単にばれそうな嘘をつくものだろうか。いや、分からない。確かにここは薄気味悪くて誰も近づかないような場所だ。
だが幽霊など。
刑事はその眼光を光らせた。
###
刑事は屋敷へと戻り、今度は二階へと昇
っ
て行
っ
た。若者たちの証言から得られた「幽霊」の正体を調べに行こうと思
っ
たのだ。
刑事は手摺につかまりながら、階段を上
っ
て行
っ
た。階段はぎしぎし音を立てていて、この館が古いことを伺わせる。
階段の一部が腐
っ
ていたのだろうか。そうだとすればあの女の子は運がなか
っ
たことになる。他の助か
っ
た少年たちの事も考えると刑事は何とも言えない気持ちにな
っ
た。
二階には部屋が三つあ
っ
た。そのうち二つは寝室のようだ
っ
た。そして、もう一つの部屋は箪笥や本棚が置かれていたが、ベ
ッ
ドは置かれてはいなか
っ
た。家具はどれも埃をかぶ
っ
ていて、何年もそのままにされている様子であ
っ
た。
「しかし、家主は一体何をや
っ
ているんだ」
刑事はそんな愚痴をつぶやきながら部屋の捜索を始めた。そして、部屋の中に一枚の肖像画が掛けられているのを発見した。
「これは・・・」
刑事は暗闇でその絵画を見て驚いてしま
っ
た。
「また、こんなものを部屋の中に」
その絵画には一人の少年の姿が描かれていた。髪はよく櫛が通
っ
ていて、白いシ
ャ
ツにベストを着ている少年だ
っ
た。
刑事はその絵画を見て、この屋敷に人が寄り付かなくな
っ
た噂を思い出した。確かにこの家には裕福な家族が暮らしていたのだが、ある日、事故で息子が死んでしま
っ
た。それからというもの、家族全員が気を病んでしまい、主人が営んでいた事業も倒産してしまい、いつの間にか一家離散してしま
っ
たというものだ。
その後、この建物は不動産競売に掛けられたが買い手が見つからず、そのまま荒れ放題にな
っ
てしま
っ
たそうだ。
その話に尾ひれがついたものが、この屋敷が幽霊屋敷と呼ばれるようにな
っ