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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 3
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たったひとつのぼくを求めて
 投稿時刻 : 2014.05.25 07:55 最終更新 : 2014.05.25 21:48
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- 2014.05.25 21:48:14
- 2014.05.25 07:55:30
たったひとつのぼくを求めて
小伏史央


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 ビルに挟まれどこか閉塞感のあるような歩道橋を渡り、最近建てられた日本で最も高いというビルに入る。この七階の本屋に、ぼくは惚れ込んでいた。SFの本が豊富に置いてあるのだ。SFを贔屓している店だというわけでもなくて、とにかく欲しい本が揃ている。某社の学術文庫も揃ているというのだから驚きだ。手元に置いておきたかた古典SFをここで大人買いしたら、レジの女性店員さんにじと見つめられて気恥ずかしかた覚えがある。エスカレーターで七階に着き、書棚を眺める。特に買いたい本があて来たわけではなかたのだが、用もなく入てしまうのが本屋というものだ。相変わらず豊富に揃ているSFの棚を見て、気分を良くする。古典SFばかりではなくつい最近発売されたSFも取り揃えているのだから感心だ。他にもいろいろな棚を見て楽しむことができる。眺めているとふと、海外小説の棚で蒼い表紙が目についた。海のイラストだ。目に吸い込んでくるような、引きこんでくるような海。リチド・バクの小説だた。「かもめのジナサン」で有名なリチド・バクといえば空や飛行機を題材にすることが多い、というよりもそればかり書いている作家だが、やはりこの海のイラストも、空のお話なのだろうか。ぼくは本を手に取り、立ち読みを開始した。たちまちぼくは異世界へ飛ばされてしまた。
 そこには数人のぼくがいた。どのぼくもきと、ぼくと同じように異世界から飛ばされてきたぼくなのだろう。数えてみると四人いた。ぼくを合わせると五人だ。ぼくが五人もいる。ぼくたちがぼくの目の前に集合することで、ぼくは複数の鏡を合わせたような迷宮の入り口を覗いているような感覚にとらわれてくらくらした。これからなにが起こるのだろう。と思う余裕もないままに飛行機が地面に突込もうとしていた。でも時が止またみたいに、飛行機は地面に突込みながらも空気のクンに受け止められてぴくりとも動かない。時が止またみたいに、というか、実際に時が止まているのだ。景色はすべて沈黙していた。粒子さえも活動することを休止している。それならこの世界に光がなくなてしまうようなものだけれど、そういうこともなくて、ただいろいろな条件を無視しながらこの世界の時は止まている。あるいは、そうだ、この世界にはもともと時なんてものは存在しないのかもしれない。もとからないんだから、光は時を必要としない形で存在できているのだろうし、ぼくたちもこうやて、動くことができているのだろう。ぼくは腕を動かしてみる。きちんと動いた。だたらあの飛行機もやぱり動くはずなのに、動かないということは、もしかしたら他の理由があるのかもしれない。ぼくは一度、仔細に四人のぼくを眺めてみた。他の世界から来たというのだからなにか違いがあるのだろうけど、どこにも違いは見受けられない。でもやぱり、どこか違いがあるような気もする。その非常に曖昧なニアンスはぼく以外のぼくも感じ取ているみたいで、みんな目玉をきろきろさせている。ぼくたちは同じでありながら異なり、また異なていながらも同じなのだ。それがよくわかた。
 ぼくはぼくに話しかけてみることにした。でもはたして言葉は通じるのだろうか。という不安は、実はさほど感じてはいなかた。なぜならばぼくは日本語しか使えないからだ。あ、でももしかしたらこのぼくは英語も達者かもしれない。それは羨ましいことだが、でもぼくのことだから日本語を使てもらわないと困る。ぼくはぼくのことを信用していたから、あまり不安を感じなかたのだ。ぼくは空を見上げる。飛行機が地面に衝突しそうでぼくは驚いてわと声を上げた。でも時が止まているのか飛行機が地面に実際に突込むことはない。まあ突込んでいたならここにいるぼくたちも巻き添えをくらうだろうから、時は永遠に止まていてくれていいのだけれど、でも考えてみるに、時が止まているのなら永遠というものはもはや存在せず、だというのに時が永遠に止まることができるというのは、いたいどういうことなのだろう。ああ、そういえばぼくはぼくに話しかけようと思ていたんだた。なんだか面倒なことが起こる予感がした。飛行機を背にしてぼくはぼくに話しかける。「やあおはよう」でも確かさき、書店に寄る前にオムライスを食べたのだた。美味しいオムライスだたし、オムライスを食べたということはつまり昼食であるはずだた。だからおはようと言うべきではなくこんにちはと言うべきだたんだ。でもそう気づいたからといて、相手のぼくが住んでいた世界にとてオムライスがイコールで昼食なのかといわれるともしかしたらそうではないかもしれないし、そもそも考えてみればぼくの世界でもオムライスを昼以外に食べてはいけないだなんて法律はない。ああでもだとしたらぼくは、さき昼食を食べたのだろうか。それとも朝食を食べたのだろうか。そうやて悩んでいるばかりのままそうして悩み続けていると目の前のぼくは問題なく「おはよう」と返事してきた。ああ良かた本当に言葉は通じるらしい。ぼくは安心してオムライスの味を忘れることができた。それから残りの三人も「おはよう」あるいは「こんにちは」もしかしたら「こんばんは」と返してきたような気がする。一件落着だ。一件落着だから、ぼくはぼくたちから離れて走て、それで走ると崖のようなものが見えたからそこまで息を弾ませて、それで飛び降りて自殺した。
 さきぼくがぼくに向かて「おはよう」と言てきたものだからぼくは咄嗟に「おはよう」と返すことにしたのだけれど、「おはよう」とはどういう意味だたのだろう。そうしたらぼくとそのぼく以外のぼくが「おはよう」とか「こんにちは」とか「こんばんは」とか難しい言葉を話すものだからぼくはこんがらがてしまてああそういえばこの世界には時がないのだたなと思いついた。なぜ思いついたのかは分からないけれど、発想とはそういうものだと思ている。発想とは常に躍動的なものだ。ではその失われた時を求めるためにはぼくはなにをしたらいいのだろう。と考えると、なぜそんなことを考えているのだろうとぼくはぼくを考えることもできるようになる。でもきとぼくは良い奴なのだろうなと思た。自画自賛した。そうだ、でもこうして自画自賛するのは不思議なことではない。それというのも、ぼくは今日書店に寄る前に、少し離れたところのビルの最上階付近にあるオムライス専門店でオムライスを食べたのだけれど、そのときも自分を褒めてやりたくなるようなことがあたのだ。ぼくはオムライスを食べている間、手が滑てスプーンを落としてしまい、ウイターがすぐさま新しいスプーンを持てきてくれたのだけれど、ぼくは良い奴なのだから洗う手間を省くために落としたスプーンをそのまま使うことにしたのだ。と、威張ている自分を諌めることができたのだからぼくは良い奴なのだ。ところでさき、ぼくが自殺してしまたらしい。それは一大事だしぼくは死にたくないなと漠然とだけど思ているものだから死にたくないのになんでぼくは死なないといけないんだろうと気分を落としていると、でもぼくはぼくが死んでいないことに気付いた。ぼくは生きている。でもぼくは自殺している。ああそうか分かたぞ、生きているぼくと、自殺したぼくは同一人物ではなかたのだ。そうだと分かるとぼくは嬉しくなて、安心して生き続けることができた。それはまた嬉しいことだ。ぼくはぼくが死んだというのにるんるんの気分でぼくが生きていることを喜んでいた。やぼくは生きている。けれどもぼくは死んでいる。やぼくは生きている。けれどもぼくは死んでいる。それでもぼくは生きている。
 またくここはどこなのだろう。ぼくは辺りを見渡した。するとなんと、ぼくがぼくの他に四人もいる。つまりぼくを合わせて五人のぼくがいるのだ。ぼくは走て逃げてしまいたい衝動に駆られた。人間ならば誰しもそう思うだろう。しかしこういうときに走てしまうと、ぼくはマラソンランナーになて金メダルを獲得してしまうから、どうしても、ぼくは走ることが許されないのだ。少しは遠慮というものを覚えるべきだとぼくはいつかぼく以外の誰かに言われた覚えがあるから、その教えを忠実に守て、今回ぼくは走らないでおくことにしたのだ。それで走ることはぐとこらえて、ぼくはぼくのことを観察してみることにした。それぞれどこか、微妙に違うようで微妙に同じだ。つまり言葉で言い表すことはできないぐらいには似ていて、そして言葉で言い表すことはできないほどには違ていた。どこがどう違うのか、説明することができない。どこがどう似ているのかさえ説明ができない。だというのにあの四人のぼくが、ぼくではないことがとてもよく分かたのだ。あるいはそれは、ぼくがぼくという実感を認識しているからかもしれないが、それを抜きにしてもぼくよく分かたのだ。ところでぼくは、言葉で表現できないものなんてこの世には存在しないものだと思ている。言葉を信仰している。それはたぶんそんな良い小説作品たちと触れあてきたからだろう。でもぼくは浦島太郎の存在を失念していた。絵にも描けないくせに言葉には表せるのか、と聞かれると、ぼくはきと答えに窮したに違いない。でもぼくは浦島太郎なんて忘れていたからそんなことはどうでもよかた。ああそうだ、言葉で言い表すことができないのなら、言葉の代わりに映像や絵や音楽を使えばいいのだ。竜宮城だて映像で撮ればばちり説明することができる。ぼくはとても冴えていた。でもそれを実行する元気はなかたのでそのままにした。とにかく曖昧な、よく分からない差異がぼくとぼくとぼくとぼくとぼくにはあたのだ。それはたぶん、異なる世界に住んでいたから、環境がぼくに違いを与えたとか、そんな分かりやすいものではない。ところでそんなことを考えているうちにぼくのうちの誰かが「おはよう」と言てくる。そしてまたぼくのうちの他の誰かが、「おはよう」と言うのだ。ぼくは戸惑てしまた。そしてまたもう一人が、「おはよう」と言う。つまりいまここで「おはよう」と言えば許されるのだなとぼくは理解して、ぼくは「こんにちは」と発言した。それは自分の感覚に忠実に従た発言だた。最近は言葉狩りが激しいからもしかしたらこの発言も検閲にかかるかもしれない。ぼくは発言した後に戦慄した。でももはや一度口に出した言葉は取り消すことは不可能なのだ。ぼくは走り出したい欲求に駆られた。そうしている間に、ぼくではないぼくが、急に走り出した。ぼくの欲求を奪い取たみたいにそれは良い走りだた。きとぼくと同じ理由で走りたいと思いながらも、走るのをこらえていたのだろう。あの世界のぼくは、ぼくよりも忍耐強くないらしい。そう思うとぼくはぼくに勝た気がして誇らしくなたが、実に危ないところだた。ああ、忍耐強い、そして忍耐強くない。このふたつの表現によて今ぼくはぼくとの差異を言葉で説明することができたみたいだ。これはすごい進歩だた。それはともかく走ていたぼくが崖から飛び降りて死んでしまた。ぼくが死ぬ場面を見るというのはやぱりぼくとしては悲しいものだから、ぼくは涙を流した。するとふいに空が明るくなてくる。なにがあたのだろうと思い目の下を拭うと、あの飛行機のなかに乗ていたらしい男女が、ふいに消しゴムで消されたように消えていたのが見えた。あの男女はどうやら夫婦のようだた。その二人が消えると、ぼくたちもまた、他の世界へ飛ばされるのだた。


   4
 さてさてどうやらぼくたちのうちの一人が死んだことによりぼくたち生き残りの四人は他の世界に飛ばされたらしい。そう推理するのは容易だた。なぜならばぼくは天才だからだ。あるいはぼくがぼくを客観的に見ることに成功しているからだ。人間は自身を客観的に見ることで、自己プロデスを比較的能率的におこなうことができる。それは天才と同義だた。つまりぼくたちは今、ぼくが複数いるために本当の意味でぼくを客観的に見ることができるので、こうして鏡なしでも目で見ることができているので、ぼくを客観視することに成功していたのだ。だからどんなに慌てたとしてもぼくは冷静に物事をとらえることができた。そんなことはどうでもいいからぼくはサカーがしたかた。ここは競技場なのだ。いや、競技場そのものではない。世界が競技場の形をしていたのだ。楕円の形をして競技場くらいの広さしかない世界だた。それでどうやて世界が成り立ているんだろうと思たけれど、ああそうか、つまりここは空間が不足している世界なんだ。さきの世界は時が完全に失われていたけど、ここは少しではあれど空間が確保されているのだなと思うと、なんだか空間を贔屓目に見て時を差別しているような不快感をいだいた。でもそういえばあの世界でぼくたちは動くことができたのだし、もしかしたら完全に時がなかたわけではなかたのかもしれない。だから光が存在することができたり、あの飛行機が止またりできたのかもしれない。ぼくはもうなにも文句を言うわけにはいかなかた。でも文句を言う立場にいなくても文句を言うのがクレーマーの役目というものだろうから、ぼくは大声で文句を言おうとしたのだがところでつまり誰かが死ねばまた他の世界に移動できるのだということにぼくは気づいてしまた。すぐに口をつむぐ。世界を移動していけばあの書店にも帰れるかもしれない。そうだだたらぼくを殺していけばいいんだ。これからぼくとぼくとぼくとぼくによるバトルロイヤルが開始される、とでも思たけどそうではなくて、ぼくたちは平和主義だからこれから話し合て仲良く手を取り合て解決策を見つけようじないかと思うはずがないからぼくは殺されてしまた。
 どうやらこのように一人が死ぬと景色がリセトされるらしい。いや、つまり景色が変わるということはまた異世界に飛ばされたということか。あまり実感は湧かなかたがそういうことなのだろう。ぼくはようやく自分のほぺたをつねてみることにした。痛い。痛いからこれは夢ではないらしい。でも考えてみるに、痛いと感じることが、どうして夢でないことの証明になるのだろう。おかしいじないか。たとえばぼくの体は実際には存在しなくて存在するのはぼくの脳だけでぼくの脳は水槽に入ていてそれで水槽の脳がぼくの体が存在していると錯覚しているのかもしれない。ぼくの体を認識しているだけでぼくの体があるとは限らない。そしてぼくの体があるくせにあるとは限らないということは、痛いと感じるくせに痛いと感じていないとも限らないということだ。脳だけの肉体であるのならいくら走ても平気なはずなのに、脳が勝手に疲れたと感じたら疲れたと感じてしまう。マラソンしているときだて、極力口は開けないように心がけるのがいいとよく言う。口を開けると酸素をたくさん取り入れる形になるから、体が酸素を求めている体勢になて、脳が勝手に自分は疲れていると錯覚してしまうのだ。現実にもそういうことがあるのだから、脳が実在しない肉体を錯覚するくらい、造作もないことのはずだ。ところでこんなことを考えていると眠たくなてきてしまた。そういえばぼくは難しかたり簡単だたりすることを考えると眠たくなるタチなのだた。これはいかんいますぐにでも難しくも簡単でもないことを考えないとほんとうにぼくは眠てしまう。そうしたらここらへんのぼくのことだろうからぼくの寝首を掻てしまうだろう。ぼくはジンプしてステプしてホプしてみたけれどそうするとなんだかこの狭い競技場が不甲斐なくてでもそれくらいのことをするのには充分な広さがあるはずだた。それにこの競技場にはぼくら四人の他に誰もいないのだ。だとしたらここは、ぼくらが来る前は無人島ならぬ無人世界だたのかもしれないし、そもそもさきのはホプステプジンプが正しいのであて逆にやるというのは難しいと思う。でももしかしたらこのほうが楽しいかもしれないと思うのはぼくが運動の得意な奴ではないからなのかもしれない。どちらにせよぼくに実践する元気はなかた。でもさき死んだぼくに至ては崖から飛び降りるくらいの身体能力はあたみたいだから、やはり、ぼくもそれくらいのことはできるのかもしれないと思てジンプステプホプをやてみた。もしここに崖があたならぼくは死んでいただろうけど競技場に崖はない。命拾いをした。それくらいには飛ぶことができて満足した。そうしている間にぼくではないぼくが殺されていた。
 ああ驚いたとぼくは独り言を呟いたけれど他の三人はぼくの独り言に気付いていなかたようで寂しい。誰もぼくのほうに顔を向けることをしなかたものだからもしかしたらぼくは無視されているのかもしれないという被害妄想が放出した。ぼくは無視されているのかもしれない。ぼくは無視されているのかもしれない。また独り言をしてみたら、今度もまた誰も反応しなかた。ぼくはもしかしたら無視されているのかもしれないと思いぼくは無視されていると思う。
 落としたスプーンを使たからといて、ウイターが顔をしかめることはなかた。なぜかというと、ぼくがウイターに気付かれないように使たからだ。それは言い換えるなら、実際のところぼくは落としたスプーンを使わなかたということなのだ。ぼくは綺麗なスプーンを使てオムライスを食べていた。でもそれだと前提から間違ている。ぼくは良い奴なのに。でもそもそも人間の思考なんてものは間違いだらけだし間違ていることを責めるわけにはいかないよ。そういう寛大な心を持つことが良い奴になるコツなのさ。と思たけれど人間の思考なんてものは欠陥だらけだからさきのこの思考もまた間違ているのかもしれない。というこの注釈が間違ている可能性もある。というこの。人間の思考も捨てたもんじないなとぼくはふいに褒めてみた。隣で独り言が聞こえてきたが声が小さすぎてなんと言ているのかは分からなかた。なぜこんなにも声が小さいのだろう、と思えばそうだ、あのぼくはぼくに殺されるのを恐れて、自ら無意識的に存在を隠そうとしているのだ。あははそんなことしても無駄なのに、とも思うけれど、良い奴であるぼくは、それに付き合てぼくを無視してあげた。ぼくはなんて良い奴なんだ。そういえば最近推理小説読んでないなと思て書店の推理小説棚に行こうとしている自分の光景をふと思い出した。ぼくはなにも考えることができないときは昔の記憶を思い出すのが癖らしい。ところでなぜ急にぼくはなにも考えなくなたのだろうと思えば、そうだ、無視したからだ。何事も、無視をするとはつまり思考を停止するというのと同義だ。だからぼくは考えるのをやめて、元の世界にいたときの自分の行動を思い起こしているのだろう。ぼくは新本格推理小説を読みたくて新本格棚を探してみたのだけれど、さすがにそういう分類までして陳列しているわけではないようだた。本格も新本格も同じように推理小説の棚に並んでいる。予備知識はあまりないけどただ新本格系のを読みたいなと思ていたところのこの惨事なのだから、王冠を被た王様が言うにはカエルがぐえーと鳴いたからには帰たほうがいいということだた。ぼくは書店を出ようと思てでもちと棚に目をやたら、あの小説があたものだからわりと好きな作家なものだから手に取たりして、それで気づいたら異世界に飛ばされていた。ような気がするけれど実際のところどうだたか、詳しくは覚えていない。人間の記憶というものは時間が経つごとに褪せていくものだけれどさき時のない世界にいたことで記憶の褪せることに堰がとめられて、それでこの競技場に飛ばされたときに一気に大洪水が起きたのだろう。大洪水に恐れおののいている間にぼくが近づいてきてぼくを殴り殺そうとするものだからぼくは慌てて避けてついでにその殴り殺そうとする拳を真剣白刃取りしたら鳥が飛んでくるくーと心地よいさえずりを鳴らしてぼくは襲いかかてきたそのぼくを殺してしまた。ぼくは生き延びたしゴールを決めた。


   3
 世界。再度。変わる。生きる。目的。果たす。条件。ぼく。他人。ぼく。死ぬ。達成。仮定。生きる。ここ。世界。空間。時間。両者。虚弱。思考。断続。疲労。加速。混乱。頭。脳内。シナプス。ぐるぐる。吐血。ぼく。条件。果たす。ない。ぼく。ぐるぐる。死ぬ。ぼく。死ぬ。
 ここ(の)世界(は)どうやら助詞(や)助動詞以外(の)単語(を)ひとつずつ(でないと)使用する(ことが)できない世界(のようだ)(からつまりどういうことかというと)時空(が)虚弱(であるために)思考(電流が)低下(しているといえるのであろうから)ここ(で)(もし:仮定)単純(な)思考(だけしようものなら)急速(に)脳(の)機能(が)低下(し最終的には)死(に)陥る(と考えて良いのだろうし)実際(に)ぼく(つまりぼくではないぼくが)ひとり(死んで)いる。
 ふはははとぼくは笑いださずにはいられなかた。というのはこの世界はぼくの住んでいた元いた世界なのだ。いや確かに、時間も空間も弱弱しくしか存在していないこの世界には、書店などありはしない。もともとあの書店があた世界というのも、実はぼくにとては本来いるべき世界ではなかたということなのだ。ふはははは。ぼくは実はこの物語の犯人であり画策した当本人でありラスボスなのである。つまり四人のぼくを集めたのはぼくなのだ。ぼくは四人のぼくを他の世界から集めることで世界を移動する手段を得てそしてこのようにぼくを死なせていくことでその世界におけるぼくを占領することができる。つまりぼくは世界におけるぼくを吸収しているのだ。このようにして。ぼくはぼくを飲み込むことによて世界を手に入れている。まあ全部うそだけど。でもこの世界がぼくの元いた世界というのは本当のことだ。ぼくは世界を渡り歩くことでぼくを死に導き最終的にぼくのなかに取り入れてしまうのだが(ところで(これは(うそ(だ)しかし困たことに移動先の世界を自分で選択することはできないのだた。だからぼくはたびたびこのようにして世界を移動しいつかこの世界に帰てこれるときを心待ちにしていた。いまそれが果たされたのだ。充足感に満ち溢れる。本来この世界では満足に思考もできないようになているのだが、やはりここが故郷であるぼくは違う。こうやて*自*由*自*在*に認識を垂れ流すことができた。ふはははは。……おい、え、あれれ。ついにこの世界の思考制限にやられて一人死んでしまた。だめだそうしたらまた異世界に飛ばされてしまう。せかく帰てきたというのに。おいやめてくれ死ぬな死んではならないやめろやめてくれああ。


   2
 あああなんということだぼくはまたぼくを何人も集めてあの世界を渡り歩かねばならないということなのかなんという絶望だせかく帰てこれたと思たのになんという仕打ちだなにをそんなに怒ているんだいとぼくはその怒ているぼくに向かて話しかけたあたりかまわず喚き散らして怒りを表現しているとぼくがなにをそんなに怒ているんだいと話しかけてきたなんだいこのぼくはぼくを慰めるつもりなのかいいい度胸じないかこれからぼくはぼくに殺されるということも露も知らずにそうだ犯人はぼくなのだとぼくは口に出して大声で言たなんだ怒ていたと思たら急に自分が犯人なのだとこのぼくは言い始めた推理小説の真似ごとだろうかそれにしてはトリクも動機ももろもろも感じられないしそもそも事件てなんのことだろうなんというチープな小説だそんなぼくは古典SFなり読んでいたらいいんだそうだそうだそう罵倒しようものかそれとも心のうちに秘めておくべきか迷ている間にぼくはぼくを血走た眼で見てくるぼくはもうささと目の前のぼくを殺して次の世界に行てやろうと考えたきとぼくからしたらぼくは血走た充血した目の殺人鬼に見えているかもしれないが実際にぼくは何人ものぼくを殺してきたのだそういえばぼくは目薬を持ていたんだたぼくは内ポケトから目薬を出してそれをぼくに差し出したするとぼくは案外あさりとそれを受け取るものだからもしかしたら案外冷静でいるのかもなと思たぼくが突然目薬なんて取り出してくるから驚いたが有り難く受け取ることにした確かにぼくの眼は赤くなているようだたから目薬をさしておく必要もあるだろうなと思たしそれにぼくからの親切心を無碍にできるほどぼくは人間ができてはいないしそういえばさきほどからなにか違和感があるのかと思えばぼくとぼくの思考が同時的に進行されているこれはつまりこの世界では実体というものが存在せずそれこそ本当に水槽の脳のようないやそれよりもタチが悪いそうだこれは文字だ言葉だぼくたちは言葉という存在に落とし込められて一段落に押し込まれようとしているなんだてそれは大変だいたいぼくたちはどうしたらいいんだいそうだなひとまずおまえが死ねばぼくひとりになるから一段落につきひとりというルールを結果的に守り通すことができるんじないかえーなにを言ているんだいぼくが死ねるわけないじないかそれになんできみはさきぼくのことをおまえと言うんだい同じぼくだというのにいまおまえもぼくのことをきみと言たじないか同じことじないかそうかこうやてぼくたちは今までは客観的に自分たちを見ることでむしろぼくと呼べるだけの近さがあたのに今こうして同じ段落に入てつまりすごく近い距離にまで入たらむしろ嫌悪感や自分とは異なる点が露出してきて相手を他者として認識するようになるんだななるほどつまり人間が家族に対してと他人に対してで態度を変えるのはそういう理由があたためなのだなつまり人間は家族であれば家族であるほど消し去りたいと思いながら消えることなく生きている生き物なのだただしその家族という存在がすぐ近くにいる場合に限り喉がかわいたおいそこのぼくちん飲み物を買て来いよそこの自動販売機でなにを言ているんだいこのあたりに自動販売機なんてないよそれに今度はまたぼくに呼称が戻たと思たらちんがついているじないか残念なことにぼくはぼく娘ではないんだそういうテンシンのお話ではないんだよではどういうテンシンのときに女は一人称をぼくにするというんだそんなこと知らないけどきとそういうテンシンだてあるだろう男が私て言うみたいにてそれはあたりまえに使うことじないかそんなでも急になんでこんな話をしなきならないんだ無駄話ばかりしやがてささと死にやがれなにをするんだ眼が真赤だぞ病院行たほうがいいんじないか違うこれは故郷を離れたときのあの離別の涙だ充血だそれはなんとも文学的なことだけどぼくは死ぬわけにはいかないよぼくはまだやりたいことがたくさん残ているんだぼくだてそうに決まているだろう故郷に帰て安息の日々を過ごしたいそれは誰しも思うことだろういやぼくは故郷じなくてもいいこの都会でもいいんだそれよりもぼくはこれからももとたくさん本を読んでいたいしオムライスを食べていたいしかわいい店員さんに見つめられていたいんだ三番目のが真理だねだから死ぬわけにはいかないんだなんだそれちの理由で理由なんてどうでもいいよ生きたいと思うのは人間の道理だろうでもそれはぼくの思ていることでもあるのだろうねだからぼくを殺そうとしているのだろうねだからぼくはぼくに向かて死ねとは言わないよでもぼくだて死にたくはないだから共存の道を今こそ切り開いて平和に解決しよう手を取り合てといてもまさかぼくがそんな話に乗るわけがないからここはひとつ契約といこうじないかぼくがぼくと契約を交わすというのはなんともシルなことだけれども契約としてはなんの問題もなく成立するはずだろうぼくはぼくが元の世界に戻ることができるよう支援しようなにを言ているんだそんなことぼくにできるわけがないだろう虫が良すぎるいいやぼくは知ているんだよ具体的になにをするのかといえばぼくは元の世界に戻る方法を実は知ているなんでぼくが知ているていうんだ知ているんだよだてぼくはぼくだからねなにを言てるんだぼくたちは気づいていたはずさ本を開いたときに異世界に飛ばされたことや助詞や助動詞の制限が加わたこともあたしぼくたちは気づいていたはずだし気づいていたのに無視をしていたんだそれは思考停止と同じことだと思わなかたのかいぼくたちは元の世界に戻る方法を知ているんだよそれを今ぼくはぼくに気付かせているだからそれを交換条件につまりぼくが元の世界に戻ると同時に僕もまた元の世界に戻ればいや同時にというのは同じタイミングとかそういう意味ではなく深い意味はないのだけれどだからだからぼくたちは、知ていたはずさ、ぼくたちはいつでも元の世界に戻れるんだ、分かるだろう、逆に言えばぼくたちは、いつだて異世界の扉を開くことができる、そう、いまこそ本を閉じるときだ。了。


   1
 ぼくはハと我に返た。
 白昼夢でも見ていたのだろうか。本を立ち読みしながら、どこか遠くへ行ていたような気がする。
 なんとぼくは知らぬ間に本を最後まで読んでいた。飛行機が急上昇する。三百ページ以上あるこの本を、立ち読みで読み切たというのか。にわかには信じられなかた。
 ぼくはなんだか居たたまれなくなて、その本を買うことにした。レジに持ていく。いつもの店員さんに本を差し出した。
 差し出しながら、本を眺める。蒼い海の表紙は、読み終えた後に再度眺めるとまた違た意味合いが感じられて面白い。ぼくは微笑を漏らした。店員さんの視線を感じる。
 カバーをかけるかと言われて、もう少しその表紙を見ていたかたぼくは、いいえと答えた。
 海のイラストには、大きな文字でタイトルが記されている。
 ――「ONE」というタイトルが。
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