てきすとぽい
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第18回 てきすとぽい杯
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袋小路の楽園
(
【暁輝】-暁 舞輝-
)
投稿時刻 : 2014.06.14 23:39
最終更新 : 2014.06.14 23:45
字数 : 2703
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2014/06/14 23:45:01
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2014/06/14 23:39:25
袋小路の楽園
【暁輝】-暁 舞輝-
*
指先を噛み千切りたいくらい、愛しているの。
今日もシー
ツの海から私を見ているその二つの瞳は、き
っ
と私より野生の瞳をしているの。
やめてよ。どうぶつみたいな愛仕方は好きくないわ。
とは言うけれど、わたしの本性は違うわ。
今にもあなたの指を噛み千切りたい、それくらい愛しているの。
*
朝の日差しは間接が外れているみたい。そんなだるさを孕んでいるの。
でもね、そんな腕が伸びるみたいなだるさが吹き飛ぶ瞬間があるわ。
わたしの指を、ぺろぺろ、くち
ゃ
くち
ゃ
。舐めている子供みたいなあなたを見るとね。
ああ、わたしは今日もがんばれる。そう思う。
ねえ、仕事にいくのはやめてず
っ
と一緒にいろ。そう乱暴に言
っ
てよ。
そしたらわたしは鼻を高くして、気取るわ。ばかにしないでよ。
っ
て。
そうや
っ
て焦らすの、き
っ
と相手と長続きする秘訣かな、
っ
てあなたは笑うかもしれないわね。
でもわたし、そこまで考えているわけじ
ゃ
なくてね、ただ困
っ
たあなたの顔が見たいだけなのよ。
あなたが楽しそうに友達のことを喋
っ
て、話題が最高に高ま
っ
た時に。
わたしは貴方の横頬を叩きたいの。
泣き虫な赤ち
ゃ
んみたいに困惑の表情を浮かべるあなたを見たいの。
謝
っ
て、
っ
てひたすらに要求するから。
あなたはぼろぼろになる寸前の肺から精一杯声を振り絞
っ
て、ごめんと謝
っ
て。
そしたら抱きしめるわ。
かわいいひとね、と言いながら。
**
今日も私は仕事に励むの。
だ
っ
て貴方との時間を一緒に過ごすためにね。
朝の日差しに抱かれたあの空間をまだ忘れられないわ。
私の体の、右肩から足のつま先までが、ぴくぴくと電流を流したようにうずき出すの。
また課長がお茶を汲めと言うわ。
なんなの。そんなにまあるいお腹になるまで動かないなんて。
ほんとうに品がないわ。
臭いもキツいし、で
っ
ぷりとした腹だし、私のことをいろ目で見るし。
いやらしいわ。本当にいやらしい。
でもセクハラだなんて言
っ
たら会社のお勤めできなくなるから、言わないけど。
早く週末にならないかしら。あの人と会いたい。
こんな会社、潰れてしまえばいいのよ。
地震でもこないかな。
そんなゆめとうつつの世界に思案を向けていると、今日ももう終わ
っ
た。
でもそれでも何もかもが辻褄が合わない世界。
いうならぴ
っ
たり嵌らない世界。
だ
っ
て、家に帰
っ
たら嫌な亭主が待
っ
ているもの。
ああ、嫌。結婚なんて女の墓場よ。
なんでいずれ飽きると分か
っ
ているオトコと結婚したのかしら。
営みだ
っ
て同じことの繰り返し。料理には美味しい
っ
て言わない。おならは臭い。
キスするとタバコの臭いがお腹にまで広が
っ
た気分。だいきらいよ。
それでも、仕事帰りで足が棒くらい疲れていても、仕方ないから料理してあげるの。
私、優しいでし
ょ
。
ああ、はやく、会いたいな。貴方は今日はどんなことしてるんだろう。
*
もういや、やめて。
今日の夜はそういう気分じ
ゃ
ないの。
なんでいつも求めようとするの。
喧嘩して、夫と背中を向けながら寝るベ
ッ
ドの上。
間接照明がただ薄らと光るの。
き
っ
と今日、あの人のことを考えたからね。
あなたは今、どんなことしてるのかしら、なんて考えたから。
夫じ
ゃ
相手にならないの。もう嫌なの。
無口な人で、寡黙な人。そんな人より、あなたに会いたい。
明るくて、未来に溢れてて、楽しく一日を過ごす。
本当に魅惑的なの。あなたに舐められた指が今日も、ぴりぴり
っ
てうずく。
会いたいわ。会いたいの。
なんとなく指についたベ
ッ
ドの柵を、思い切り噛んだらわたしの歯が軋んだみたい。
口紅で汚れたベ
ッ
ド柵を見て、窓から照らす月灯が頬を照らした時、わたしは静かに涙を流した。
身体が熱くな
っ
た。
ただ意味もわけもわからない涙がただ流れたの。
**
何もない朝。ただスー
ツを着て今日も会社に行くだけ。
今日はキツめの口紅で、アイシ
ャ
ドウまでば
っ
ちり入れるわ。
美容室の予約は明日。明日が楽しみ。
ようやく週末だわ。何よあの豚上司。
今日は君、いつもより綺麗じ
ゃ
ないか。です
っ
て。
ふざけんじ
ゃ
ないわ。あんたに褒められたくないし。
なんなの、私をそんな目で見ないでよ。
いろ目を使
っ
ていいのはあの人だけ。
ち
ょ
っ
と若いから
っ
て私に手を伸ばそうとなんかしないで。
あんたなんて奥さんとマンネリ化して毎日を垂れ流してればいいじ
ゃ
ない。
普通の恋愛をできるのは、顔が普通以上の人だけよ。
あんたなんてキ
ャ
バクラでもなんでも行
っ
てくればいいのよ。
こんなところで人より多く体からよく出る油売
っ
てないでね。
花の金曜日だから一緒に遊びに行かないか、です
っ
て。
お断りよ。あんたみたいな若いだけのスポー
ツマンみたいな人となんて飲みたくないわ。
筋肉がある人
っ
て、力強く抱けばいい
っ
て思
っ
てるわ。
言葉が聴きたいの。チ
ョ
コレー
トみたいな言葉を耳から入れて欲しいの。
脳味噌の辺りであ
っ
たかいキスをしてホ
ッ
トチ
ョ
コが口から蕩け出す。
それを吐息と呼ぶ
っ
てこと、理解しているかしら。
多くの男は理解していない。最低よ。
だから貴方に会いたい。貴方は全部理解しているわ。
私、貴方に会いたくて仕方ないの。
だから今日は、ほんとうにほんとうに。胸がわくわくしているわ。
*
どこにも行く当てがない。いいえ、行くことができない。
深夜のネオンが行
っ
たり来たりするのを見下ろした。
高速道路の奇妙な橙色と怪しく踊る白とかくすんだベー
ジ
ュ
を放つヘ
ッ
ドライト。
今日を終えた人たちが、哀れな顔して歩いていく。
そんな景色が袋小路の楽園から見えるの。
ただ、あの人たちは幸せよ。行く場所があるのだから。
わたしたちにはもう行く場所なんてないの。
袋小路の楽園で、ただ身体を重ねて吐息を吐き出す。
どうぶつみたい、とわたしが言うと、あなたは笑
っ
てキスをする。
けものみたいでし
ょ
、とあなたが笑う。
ああ、貴方の局部を、四肢を撫でる指は綺麗。
わたしの肌の上でフ
ィ
ギ
ュ
アスケー
トしてるみたい。
腕をあなたの頭に回した。
やさしくして。
ただ耳元で、あなたがわたしに囁いた。
今度はわたしの番だから。
あなたの柔らかい身体をまさぐるの。
あなた、や
っ
ぱり素敵な女性ね。
わたしもあなたみたいに可愛い女性だ
っ
たらよか
っ
たのに。
ううん、でもよか
っ
たわ。
わたしたちが同じ悩みを抱えて、同じ苦しみを分かち合えたから。
今、わたしたちはこういう関係でいられるの。
ねえ、あなたの綺麗な薬指、噛み千切
っ
ていいかしら。
なんで? 貴方、いつも指を噛みたがるわね。
仕方ないでし
ょ
。その指輪が収まる指、気にくわないから。
だ
っ
たら私も、貴方の指を食べたいわ。
結局、わたしたちは愚かだ。
どこへも行けない。それに行こうともしない。
今日もこの都会の週末で、家を無くした少女のようにわたしたちは袋小路に迷い込む。
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