第18回 てきすとぽい杯
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いぬの傘
投稿時刻 : 2014.06.14 23:41
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いぬの傘
住谷 ねこ


 「またくなんだてこんなこと……
そう言て小母さんは 首から下げた白い布に包まれた箱を
ぽんぽんと叩く。

箱の中には従兄の卓巳が
小さくなて 細かくなて入ている。

「ほんとに」
遠くを見ながら今度はゆくりゆくり箱を撫でる。

コンビニで支払いをを済ませようとした卓巳は
入口の傘立てに自分のがないことに気が付いた。

そして少し先の角を曲がろうとする
自分の傘を見つけた。

あわてて追いかけて……
そこで どんなことがあたのか
角を曲がてからのことは
誰も見ていないのでわからない。

その時、一緒にいた卓巳の彼女は
あわてて卓巳の落とした買い物をひろて追いかけた。

彼女が角を曲がたとき、もう卓巳は雨の中に倒れていた。
なんの音も声も聞こえなかたという。

ただ 卓巳はそこで刺されて死んだ。

「傘なんかくれてやればいいのによ
「しかもその傘 女ものみたいに 絵が描いてあんだよ 犬の」

傘を盗た 盗らないの言い争いの顛末にしては
度を越しているんじないかと思うが
今の人たちは そんな風に切れたりするのは珍しくないんだろうか。
小母さんはそう言て、ぼろぼろと泣いた。

とにかく卓巳は めた刺しにあた。
刺し傷は頭といわず顔といわず 全身40所以上あたという。

私はかける言葉もなく、小母さんの小さく頼りない背中を
ポンポンと叩くしかなかた。

小母さんが白い箱をぽんぽん。
その小母さんの背中をぽんぽん。

卓巳の犬の傘。

黒地に白の線でビーグル犬がお座りしている絵が描いてあるんだ。
私のなの……たの。その傘。

その傘をくれたのは私の前に付き合てた人なの。
その人はものすごく乱暴で、ちとでも気に入らないと
すぐに私を殴た。

何も気に入らないことをしなくても
なにもないことにさえ腹をたてて殴た。

何度か別れようとしたけどうまくいかなくて。

だけどやと、卓巳の助けを借りて別れることができたんだ。
別れることていうかただ逃げたんだけどさ。

逃げたその夜。
雨が降ていて私はその犬の傘をさした。

彼は思たより私に執着せずそのままなし崩しに
別れられたようでもあた。

新しい生活を始めた私を心配してときどき卓巳が訪ねてきて
帰りに雨が降た時に傘をかした。

それがその犬の傘で、そのまま犬の傘は卓巳のところにあた。

小母さんはもう一度 「傘なんかくれてやればいいのによ」とつぶやく。

「その傘、もてるの?」と聞くと
小母さんはうつろな目をして私を見る。

「警察にある。そんなした傘だからさ、返してくれんのかと思たらさ
 犯人が、俺の傘だからていうんだてさ。
 だから、今は返せないんだてさ」

……

「そんなこと、あるんかね
 そんなこと、いうんかね

……

「あるんかね

おわり。
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