給食を食べようと思ったら、いつの間にか世界を救う羽目になっていた俺。
僕が給食のカレー
に手を付けようとしている時に、隣の席に座っている七波菜々美さんがいきなり僕の席までやってきて「あんたのカレー寄越しなさいよ」なんて言うとんでもないジャイニズムを発揮してきた。だけれど僕としてはそんな菜々美さんの顔を見て、どうすることも出来ずに俯くか、いっそ逃げてしまうくらいしか選択肢が残されていないような気がして、結局何も言い返さずに俯いた。と言うのは、クラス中の視線が何故か僕たちに集まっていて、そりゃもちろん菜々美さんはクラスのアイドル的ポジションで、薄桜色のぷるりとした唇に、ぱちりと開いた可愛らしい猫のような目、すらりと伸びた鼻に、オレンジ色に染められた綺麗にウェーブした髪、そしてつるりとした白い肌を持っていて、当たり前のように美人なのだから、そんな菜々美さんがなぜ僕なんかに話しかけたのか気になるところはあるだろう。僕だって菜々美さんの美しさに関しては認めるところはあるし、もっと言うのならば見惚れてしまうことだってあるのだけれど、問題は彼女の性格で、とんでもなく横暴と言うか、全ての男子が自分の言うことを聞くと思い込んでいる節があって、もちろん彼女みたいな美人にお願いされたら大抵の男子なんかは言うことを聞いちゃうんだろうけれど、しかし僕としては、菜々美さんが美人だからと言うだけで、彼女のお願いを聞くのは何か癪に思ってしまうわけなんだ。下心のある男子とかならホイホイいうことを聞くんだろうけれどね、僕にお願いをするなら、スカートの中に顔を突っ込ませるくらいはさせてほしいものだ、いや、もちろん僕だって男の子なわけだから、女子のスカートの中身は断然気になるわけだけれど、ましてや美人の菜々美さんのスカートの中なんて言ったら、男子の夢と希望が詰まったパラダイス銀河なわけだけれど、菜々美さんの柔らかそうな太ももに挟まれて頬をすりすりしてみたいとかも思ってしまうけれど。でもそんなお願いが出来るはずもないじゃないか。と言うか、何で菜々美さんは僕なんかにいちいち突っかかってくるのだろう、こんな冴えない僕なんかに、クラスのアイドルが。そう言えば、昨日は菜々美さんが日直の仕事で教材を運んでいる時に手伝ってあげたっけな。でもそんなことぐらいで女の子が人に惚れるものだろうか。なんて僕が思っていると、菜々美さんは僕のことをじろりと見ながら、「わ、私のサラダを半分あげるから、だからカレー寄越しなさいよ、そ、そうね! 交換するんだったら席をくっつけて一緒に食べなきゃね、じゃ、じゃあ私、席を持ってくるからあんたはここで待っていなさいよ」と一人で何事かを勝手に納得して、自分の席を持ってきて、僕の机とくっつけ始めた。そして菜々美さんは、友人である百乃萌々野さんを呼んで、勝手に僕の友達であるかのように席をくっつけて食べ始める、おいおい、何で僕に近寄ってくるんですかこの野郎、僕は一人で食事をしたいタイプだと言うのに。
「な、なにじろじろ見てるのよ」
「いや、顔にからあげくんが付いてた」
「付いてるわけないでしょ! 頭おかしいんじゃないの!」
「まあまあ、菜々美っち」
僕がくだらない事を言って彼女を怒らせると、菜々美さんの隣に座っていた百乃さんが宥め始める。
「そう怒んないのっ。ほら、この鮭の死体が入ったスープ美味しいよ」
「アンタは表現がいちいち怖いのよ!」
すかさず菜々美さんは突っ込む。
百乃さんは穏やかな子で、いつも横暴な菜々美さんを宥める役目なんだけれど、表現がユニークな所があって、時々よく分からない事を言ったりするなんだか不思議な人だった。それでもクラスの男子には密かに人気で、何と言ってもおっぱいが大きいんですよ! それはもう小学五年生だと言うのにCカップぐらいあるんじゃないかという、こちらもまた男子の夢と希望が詰まったような素敵なスタイルをされていて、僕なんかは興奮してしまう。
「な、なに萌々野に見惚れてるのよ!」
僕が百乃さんをじっと眺めていると、菜々美さんはそう言って、僕の両頬を掴んで自分の方に顔を向けさせようとしている……と、菜々美さんは勢い余ったのか身を乗り出し過ぎて、僕の唇と彼女の唇が接触し――
「ぎゃあああああああ」
「うわああああああああ」
僕らはキスをしてしまったのだった。僕は慌てて思わず逃れようと手をバタバタと動かすと――その手の先には何か柔らかい物があって……
「あらあら~っ」
その柔らかい物をもにょもにょと握りながらその手の先に視線を向けると、そこには百乃さんの胸があった。
「もう……触りたいなら言ってくれればいいのにっ! たくさんの餌を糧に溜めた脂肪の塊くらい好きに触らせてあげるよっ!」
僕が固まっていると、クラスの男子からたくさんの野次が飛んでくる。
「てんめえええええ! な、菜々美さんと! 憧れの菜々美さんとキスしてんじゃねえ!」
「俺のななみんの唇が汚れちまったじゃねえかああ!」
「しかも百乃さんのおっぱいをどさくさに紛れて触ってんじゃねえよぉ!」
「お前いつの間にそんなラッキースケベ界のエースストライカーになったんだよ!」
いやいや、僕としてもいい加減にしてほしい。これは事故なのだ。そう、僕が責められる謂れなんてないのだ。しかも自分からこの事故を起こしたわけではないし。そりゃあ、菜々美さんの唇は柔らかいし、百乃さんの胸はダウニーにも負けない素敵な柔らかさに包まれていたけど、仕方ないじゃないか!
「あ、あがが……」
僕がそんなことを考えていると、目の前の、僕とキスをしてしまった菜々美さんは固まって、ぶるぶると震えている。あ、なんかまずい気がする……。
「も、もうおうち帰る!」
唐突にそう叫びだしたかと思えば、菜々美さんは尻尾を踏まれた猫のように素早く逃げていった。
クラスの冷たい視線が僕に注がれる。
まったく給食くらいまともに食べたいのに……どうして僕はこうなるんだろう!
こうして僕の物語は始まりを告げた。
放課後になり、菜々美さんの家に百乃さんと共に謝りにいった時、実は菜々美さんが世界を救うために生まれた魔法少女だと言うことが判明し、そして僕の体の中には悪と戦うための最強の武器が眠っていて、僕とキスをするたびにその封印が解けていくことを説明され、僕は菜々美さんと光の契約をすることになり、舌を入れながらキスをした後で、僕の封印を解くためにこれからたくさんキスをしなければいけないことになり、菜々美さんは嫌がりながらも照れたように僕とキスをしたりして、そうして僕と彼女は恋人のふりをしながら隙を見つけてキスをしなければいけない立場になって(一日一回キスをしないといけないのだ)、そんな生活を送る中で、実は百乃さんが世界征服を狙う悪の親玉だと言うことが分かり、僕らはそんな複雑な三角関係に置かれながら、学校生活を楽しみ、ドタバタと百乃さんが引き起こすとんでもない問題に巻き込まれながら、菜々美さんとキスをし、僕の目覚め行く力で戦っていくと言うのはまた別のお話。