第19回 てきすとぽい杯〈日昼開催〉
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茶屋
投稿時刻 : 2014.07.13 15:56
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茶屋


 捜し物は首です。
 奇妙なお話かもしれませんが、事実なのですから仕方が御座いません。
 朝起きたら、首が無くなていたのです。
 朝になて鏡を見てみると、首が無くなていたのです。
 勿論、目というものは首から上についていて、首というのは首だけではなくて、首から上の頭も含んでいるところを意味するものでありますから、その目も当然無くなていたわけでございますが、何故か「見え」てはおりました。目以外の何を持てして、ものを「見る」ことが可能だたのかという点は、甚だ不思議なところではありますが、それを言てしまえば脳もなく、どうやて考えているのかということも不可解といえるところで御座いましう。
 そもそも私は今の何かを考えているのかと問われれば、果たしてどうかとも思てしまうわけですが、そもそも首を失う以前の私がものを考えていたのかどうかということすら怪しく思えてきたものです。
 さてそんな風ですから少し考えて逡巡したあとに、人まずはと思い、朝食を済ませた後に、部屋中を探しまわてみたのです。夜寝る前に箪笥の中へでも片付けてしまたものかと箪笥の中の衣装ケースやダンボールやらを引掻き回したものの、それらしきものは一向に見当たりません。
 はてな。これはもしや盗まれたのではあるまいか。しかし、深夜に人の入た形跡もなく、首を盗む泥棒などあろうものかとも思います。
 ふと、昨日は休日ということもあて居酒屋で酒を浴びるほど呑んでも酔いも良いほどにまわて二軒、三軒と千鳥足でまわりもはや人事不省の体で布団に潜り込んだことを思い出しました。
 よもや、昨晩、酔た道中に首を何処かへ置いてきてしまたのではあるまいか。
 そんなわけですからは昨日の飲み屋の番号を調べると、手当たりしだいに首は落ちていなかたかと問い合わせてみました。けれどもどこの店員も気の毒そうに首の忘れ物など無いことを告げるのです。中には右腕の落し物ならあたと教えてくれる店員もいたのですが、首の代わりに腕をつけたところで仕方ありませんし、他人の腕を勝手に拝借するわけにも参りません。
 仕方なしに昨日歩いたと思われる経路を逆向きに辿てみたりするのです。
 けれども、一向に首はみつかりません。
 道行く人に
「私の首を見かけませんでしたか」
 と訪ねてみるのですが、道行く人は気の毒そうに首を振るだけで誰も首を見た人はおりませんでした。
 首が見つからない。もしかしたらどこかでゴミとして処分されてしまたか、野良犬にでも食われてしまたのかもしれない。
 私は茫然自失となて公園のベンチに座りました。
「どうかされたのですか?」
 ふと声をかけられたので、横を向いてみるとそこには人はいませんでした。
 はて? と思ていると、
「ここです。あ、下の方です」
 という声がしました。先程は呆然として気が付きませんでしたが、私の座ている横に、ひとつの首が置いてあたのです。
 一瞬、やとみつかたと思た私ですが、よくよく見たら私の首ではありません。
 誰かの首が話しかけていたのです。
「いえ、ちと首をなくしてしまて」
 そう言うと首はさも心配そうな顔をしたあとに、にこと笑た。
「奇遇ですね。私も体がどこかへ行てしまたのです」
「それは、お互い大変ですね」
 私は自分のことも忘れて隣にいる首を不憫そうに見た。首だけになてしまては体を探すのは一苦労だろう。
「空、綺麗ですね」
 お互い疲れているのか、ふと沈黙が漂た時、そんな風に首が言た。
 その日初めて、空を眺めたような気がした。
 雲ひとつ無い、快晴だ。
「ああ、本当だ」

 結局、首は今も見つかていない。
 あのあと一緒になて首と体を探しまわたのだけれど、痕跡すらつかむことは出来なかた。
 私の首は一体どこへ行てしまたのだろう。
 きと、遠くへ、どこか遠くへ行てしまたのだろう。
 私は大切なモノを失てしまた。
 けれども、あの日、私は大切な人と出会えた。
 首は失てしまたけれど、今は幸せだ。
 首を失うことがなかたらきと今の幸せもなかたのだろうと思うと、何だか不思議だ。
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