第三回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2013.03.16 23:28 最終更新 : 2013.03.16 23:40
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- 2013/03/16 23:40:51
- 2013/03/16 23:37:34
- 2013/03/16 23:31:59
- 2013/03/16 23:28:46
散歩
たきてあまひか


 最近、毎朝シロの散歩をするようになた。
「まじめに連れて行ていてえらいわね。まるでシロがうちに来た頃みたいじない」
 母に褒められて、私は照れ笑いをする。
「じ、いてきます」
「気を付けてね」
 シロの首輪から鎖を外し、引き紐に繋ぎかえる。シロは散歩がうれしいのか、わあと前足を持ち上げて私に飛びついてくる。
「ちと、もう、おちつきなさい」
 毎朝のことなのに、どうしてこんなに嬉しそうなんだろう。母が散歩に連れて行ていたときも、こんなに喜んでいたのかな。跳ねるように私の周りをかけ、尻尾をぱたぱたと振りながら、シロは出発をせかす。
 自宅前の通りを道沿いに抜けて、芦刈川の堤防に突き当たり、堤防のサイクリングロードを川下方向に進んだあと、河川敷の広場でシロを少し放す。これがいつもの散歩コースだ。距離的にはそれほど長くないけれど、そのぶん広場でシロと遊ぶ時間をとるようにしている。
「ほらいくよ?とてこーい!」
 力任せに黄色いゴムまりを投げると、シロは猟犬みたいに駆け出して、ゴムまりを咥えて戻てくる。私の前にゴムまりをおくと、「さあ!さあもう一度!」という表情で私を見上げる。なんて楽しそうなんだろう。ものすごい勢いで尻尾を振ていて、まるでヘリコプターみたいだ。このままとてこいを続けたら、シロは飛んでしまうんじないかと思た。
「じあ、もう一度。とーてこーい!」
 何度かとてこいを繰り返しながら、もうそろそろかなあ、と思ている。
 まだかな、と思ている。
「おはよう、畑山さん」
、おはよう、石野くん」
 私はあいさつをしながらシロを呼び寄せて、首輪に引き紐をつけた。
「もういいのかい?」
「うん、充分遊ばせたから。はなしておくと、うちのシロ、チコちんにちかい出すからさあ」
 チコちんというのは、今目の前にいる石野くんが飼ている犬のことだ。小さくて、もじもじで、確か何かの血統書付きと聞いた。石野くんはクラスメイトで、バレー部で、得意科目が数学で、英語は苦手で、そして、毎朝チコちんの散歩でこの河川敷の広場にやてくる。
 私はシロがチコちんのほうに近づきすぎないように引き紐を引張りながら、少しだけ石野くんと会話をする。シロと来たらチコちんを目の前にして、また尻尾をぐるんぐるんと振ている。
「じあ、私行くね。そろそろ朝ご飯の時間だから」
「ああ、じあまた学校で」
「またね」
 シロが名残惜しそうにチコちんのほうを気にしていたけれど、私はそれを無視してぐいぐいと帰る。
 私にしぽがついていなくて本当に良かた。もしもついていたら、誰が見てもわかるくらいのすごい勢いで、しぽを振ていただろうから。
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