第三回 てきすとぽい杯
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といかけ
さきは
投稿時刻 : 2013.03.16 23:30
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といかけ
さきは


「けいこうとなれどぎうごとなることなかれ」

そんなことを、どこかの誰かが言たという。

「その論理で言えば、だ」

買い物かごをさげて俺の前に立つ友人が、ぼんやりと、何も無い空間を見つめた。やがて、友人の目は焦点を結び、ゆくりと視線

をおろす。そして、正面から俺を見据えてきた。

「しぽのない牛の後を歩くことは可能か」
「可能だろ。それより、その問いを設定する意味がわからん」
「では、そもそもしぽとは何か」
「もふとするためのものだろ」
「いや。しぽとは、バランスをとるためのものだ」

ものすごく真剣な顔がこちらに向けられていた。友人は続ける。

「均衡を保てぬものの後を歩くことはできない。なぜなら、まともに歩めずにこけるからな」

まともに聞いているのも馬鹿らしくなたので、俺問いを投げてみた。

「じあ、しぽのない牛がいたら、おまえはどうするんだ?」
「盛大な焼肉パーを開催しておいしくいただく。それはもうありがたく」
「おまえ、呼ぶほど知り合いいないだろ」
「では、逆に聞くが。尾のない鶏の前を歩くことは可能か」
「その問いに、何か意味が?」
「しぽがなくとも、とりあえず、その牛は道をつくてくれている。歩みにくいかもしれないが。ふらふらした鶏の前を歩くよりは、足取りのおぼつかない鶏を気に掛けながら進むよりは、歩きやすいのかもしれないな。ならば、ふらふらしたものであても、前にいないよりはましか? その牛にしぽがあれば大歓迎?」

俺は顔をしかめた。

「おまえ、性格わるいな」

友人は口の端をもちあげた。

「心に刺さるのであれば事実なのだろうよ。認めたらどうだ、誰かにくついていく方が向いている、と」
「認めるさ。だがな!」

俺は声をあららげ、手にしたローズの香りと書いてあるビニールパクを友人につきつけた。

「どうして俺がお買い得柔軟剤現在増量中高級感あふるるフローラルな薔薇の香りを手に主婦に混ざてレジの長蛇の列に並ばねばならんのだ!」
「追従するのが好きなのだろう?」
「はなしをすりかえるな」
「すべては俺がひとりぐらしだからだ。対しておまえは実家暮らしだ。俺の生活費を浮かせる手伝いをしろと、ここに来るまで何度も言たじないか。大学生が単位とりつつバイトで生きていくのは大変なんだぞ。そこのところは了承済みじなかたのか?」
「知るか」
「人助けだ」
「どこが」
「とりあえず崇めてやる」
「拝むな恥ずかしい!」

てかかてみるも、友人は至極冷静だた。
そこに、おそるおそるといた調子の声が、かけられた。

「あのー

俺と友人の目が、同時に、声の主に移る。
周囲の奥様方の視線を集めていた俺達に、スーパーのレジの店員さんが、お会計の順番が回てきたことを告げた。
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