ただ泣きたいときがある。
　ただ寄り添いたいときがある。
　ただひとりになりたいときがある。
　そんな時に限って、うまくいかないのが世の常。

「髪切ったんだ」
　開口一番、目の前のポニーテールは言った。
　今日はキャミソールにふわふわのワンピースを着ている。
　うしろの尻尾をふりふりと、彼女が振り向く度にシャンプーの香りが撒き散らかされる。

　かかとの高いミュールなぞ履いてよくバランスがとれるなあとキラキラ輝く足元を見ながら思った。
「うん。夏だしね」
　耳より少し下に切り揃えられた毛先を左手で軽く持ち上げながら、不器用な笑顔で答える。
　まつげバサバサでアイラインのびしっと入った彼女の顔を直視するには、いつも少し勇気がいるのだ。
　まるでお人形のような整った顔立ちは同性でも見惚れてしまう魅力がある。
　と同時に、自分の自信のなさを毎度再確認してしまう。
「ますます幼くなったなあ。この童顔め」
「この、気にしてるんだぞ」
「可愛いねって誉め言葉だよ」
　横に並ぶとまるで姉妹。
　ヒールの効果でさらに背の高くなった彼女と並ぶと、とても同級生には見えない。
　童顔でチビのわたし。おとなっぽくてモデルばりの彼女。

　わたしが髪を切った理由を、彼女は特に聞かなかった。
　本当に夏だからという言い分で受け流してくれたんだろうか。
　こんな不釣り合いなわたしを友達だと言ってくれる彼女のすきなところは、この距離感だった。

「暑いね。スタバ行く？」
「行く行く。今ならグランデでもすぐ飲みきれそう」
　わたしは置いて行かれないように彼女のちょっとだけ後ろを歩く。
　決して前には行かない。
　彼女は笑いながら颯爽と風を味方につけていた。
　ああ、なんてかっこいいひとなんだろう。

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