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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 5
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僕の部屋 ◆m03zzdT6fs氏
 投稿時刻 : 2014.08.02 17:02
 字数 : 1931
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僕の部屋 ◆m03zzdT6fs氏
作品感想転載くん


 気が付いた時、そこは白い部屋だた。と言ても、正確には白一色というわけではなく、ところどころくすんでいたり、あるいは輝いていたり、黒だたり、緑だたりする部屋だ。だから、幾何学模様と言た方が正しいのかもしれない。
「おはよう、目を覚ましたようだね」
 そして、僕に声を掛ける存在が一つ。何故か、そこに『僕』がいた。それでもその姿を見て、僕は驚くこともなく、すんなりと受け入れた。
 そして理解する。ああ、これは夢か何かなのだ、と。
「ああ、何も話さなくてもいい。『僕』は君で、君が考えたことは、手に取るようにわかる。それに、話したくても声は出ないだろう」
 『僕』はそう言た。試しに、口を開けてみる。空気の出入りはあるように思える。ただ、声は確かに出なかた。
「ところで、君に質問だけれど、もし今、君の世界が終るとしたらどうする?」
 『僕』は僕にそんな質問をした。言ている意味が理解できない。そう思ていると、
「理解は出来なくてもいい。ただ、訊いてみただけだからね」
 『僕』は自分で自己解決をしたように、少し微笑んだ。僕は問いかけようとする。しかし、声は出ない。
 だから、質問を思い浮かべることにした。『僕』が僕なら分かると、何の懸念も、何の躊躇いもなくそうした。それにさき、『僕』は言ていた。考えたことは手に取るようにわかる、と。
「なるほど、どうして僕はここにいるのか。そして『僕』は何なのか。そう言う事だね」
 『僕』はまた、少し微笑んで言う。
「この部屋は、実は『僕』の持ち物で、『僕』は君が生まれて今日にいたるまでの幾十年間、この部屋を君に貸していたんだ。そしてもうすぐ貸与年数の期限が来る。だから、『僕』が来たんだ」
 言ている意味は、理解できなかた。ただ、逆らうことはできない。この部屋を、返す必要があるんだ、そう思た。
「ねえ、僕。君は、自分自身の人生を振り返ることが出来るかい?」
 『僕』は、僕にそう尋ねた。そう言われて、僕は僕自身の人生を振り返る。
 三歳の時の、七五三。六歳の時の、入学式。十八歳の時の、卒業式。二十五歳の時の、結婚式。そんな節目の記憶から、両親に愛された日常、友達と遊んだ日々、彼女と過ごした生活まで、全て、走馬灯のように思い出すことが出来た。
「うん、思い出せたようだね。ほら、見てみるといいさ。この部屋の壁を」
 僕は、壁を見た。そして凝視する。真白な壁の、ところどころにある色やくすみ、輝き。それをじと見る。
 そしてそれが、僕の記憶だと知る。
「ああ、懐かしい記憶だ。そう言いたいようだね」
 『僕』は、少し笑た。その笑みの意味するところは、僕には分からなかた。
 『僕』は言た。
「さあ、その上で僕よ、尋ねよう。――君の人生、それは本当に君の物かい?」
 言われた意味が、理解できなかた。理解しようとも思わなかた。生憎、哲学的思考は得意ではない。
 だが、それを差し引いても何か、僕の思考を妨げる。そんな何かが働いていると、思た。
「君の人生の中に、君はしかりといたかい? 君の記憶に、君自身はいたかい? 君は君かい? 君は――誰だい?」
 『僕』がそう言た。僕は、誰。そんなこと、考える必要も、考える理由もなかた。けれど、今それを考えさせられている。
 僕は、誰だ。考えても、答えは出ない。
 少し、頭が痛い。頭の芯の奥、決して手の届かない場所で何かが脈を打ている。僕は、倒れ込むように傍にあた、ふかふかの白いベドへと横たわる。
 まるで、そうすることが決められていたかのように。
「僕。君は誰か、分かたかい? まあ、分かても、分からなくても、あまり違いはないよ。だから安心してほしい」
 『僕』の声が心地よい子守唄のように、耳をくすぐる。眠気など、かけらもなかたのに、静かに海へ沈むようかのように、僕の意識は薄れていく。
 それでも、僕は目を閉じなかた。最後まで、考えた。
 僕は、一体なんなのだろう。僕は一体、誰なのだろう。薄れゆく意識の中、思考は止めなかた。
「僕は、僕だ」
 子供が大人に逆らう様な、そんな幼稚な答え。それに、『僕』は返す。
「確かに、君は存在する。でも、それは僕なのか? 本当は僕なんて、どこにも存在しないんじないか?」
 もう、時間はないのだろう、と思う。だから、もう一度、思た。
「僕は、ここにいる。だから、僕だ」
 その答えに、『僕』は何も言わない。やがて、僕の目が閉じる。瞼越しに感じる、白い光。明るい、僕を照らす道しるべ。
「時間だ、僕」
 誰かに、抱き上げられる。そんな感覚がある。ドアの、開く音がした。
『おやすみ』
 『僕』の声が聞こえる。ぱちん、と何かを切る音が聞こえた。同時に、目の前の光が、ふと消えた。そして。
 ぱたん。
 そう、聞こえた気がした。
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