てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 5
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ネコン
(
たこ(酢漬け)
)
投稿時刻 : 2014.08.02 21:11
字数 : 4242
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ネコン
たこ(酢漬け)
行方不明は猫を飼
っ
ている。だが猫はいない。何故猫がいないのかというとこの前にいなくな
っ
てしま
っ
たわけで、これは行方不明の猫が行方不明である状態と言える。
これはつまり置き換えると行方不明の行方不明が行方不明で、つまりは行方不明は行方不明ということになるのだが、そんなジ
ョ
ー
クはともかく行方不明は猫がいないと落ち着かない。
拾
っ
てきた猫である。また野良を求めて旅立
っ
たのであろうか。そんなことを行方は考えた。
そう思
っ
て一時はあきらめることも考えた。だがあきらめることができなか
っ
た。
幸運にも気まぐれに撮
っ
た猫の写真はあ
っ
た。その写真を使
っ
て猫探しの広告を作
っ
てみようと考えた。で、作
っ
てみた。
そのチラシをそこいらの電柱に張り付けてみたのだが、これはあまり効果は出なか
っ
た。それもそうである。猫など人が来れば逃げてしまう。目撃者など限られてしまう。居つくのなんてごく限られた場所だけだ。
ある日友人の行方知不が言
っ
てきた。
「猫なんてある日突然いなくな
っ
て、ある日突然帰
っ
てくるものさ。気長に待てよ」
知不はそう言
っ
た。
ちなみに知不と不明は共に行方姓であるが、これはただ単に二人の住んでいる地域に行方姓が多いだけの事であ
っ
て、それは全くの偶然である。他にも行方捜索さんや行方発見さんなどがいる。
行方不明は知不に言われたことにひとしきり思いを巡らせていた。それで、知不の言う通りしばらく猫の事を考えずに過ごしてみることにした。一日、一日と、不明は猫の事を考えずに毎日を過ごして行
っ
た。
それから一週間が経
っ
た。猫は帰
っ
て来なか
っ
た。
確かに知不の言うことにも一理あ
っ
たが、不明の心中には不安が呼び起され始めた。
「これはまさに家出である」「まさか私に愛想を尽かしてしま
っ
たのでは」「いやいや、ふら
っ
と帰
っ
てくるかもしれないだろ」「しかしどこかで事故にあ
っ
ていたりしたら?」
そんな言葉が行方不明の脳裏を駆け巡
っ
た。
いてもた
っ
てもいられず、行方は荷物をまとめ始めた。どこへ行くのかも分からずに。必要だと思われる荷物をできる限り放り込んだ。
だが、ハ
ッ
と我に返
っ
た。猫の行先など分からない。捜索範囲が広すぎて大海を小舟で行くようである。
無謀すぎた。うなだれる行方の前には荷物で膨らんだ鞄が鎮座していた。
ある雨の日だ
っ
た。行方不明が傘を差しながら歩いていると、一匹の猫がいた。その猫は電柱の根元の脇に座
っ
ていて、街路灯の光に照らされながら雨に打たれていた。
その猫はじ
っ
と行方の方を見てくるので、気にな
っ
て行方は近づいてみた。
確かに一瞬いなくな
っ
た飼い猫かと思いどきりとしたが、一瞥すれば違う猫だと分か
っ
た。
その猫は行方不明の目を見て「に
ゃ
あ」と鳴いた。そして行方の前方に少しだけ歩いて行
っ
て、振り返
っ
てから「に
ゃ
あ」と鳴いた。
行方不明は最初その行動の意味をうまく理解できなか
っ
たが、猫がまた少し歩いてから再び振り返
っ
て「に
ゃ
あ」と鳴くと、何となく意味をつかむことができた。
どうやらついて来いという意味なのかもしれない。行方が近づいていくと猫は逃げようともせず、再び前進してから、こちらの様子を伺うよう振り向いている。
行方が歩いて行くと、猫はまたてとてとてと前を歩いて行
っ
て、行方の方を振り向いた。
このまま歩いて行くと行方の家に着く。行方不明は自分の家にこの猫が来るのかと思
っ
ていたが、どうもそうでも無いらしか
っ
た。
行方不明の家の前に差し掛か
っ
たが、猫は行方の家を無視してとてとてと進んで行
っ
た。
行方が家の前でその猫について行くか迷
っ
て立ち往生していると、猫は立ち止ま
っ
てから振り返り、「に
ゃ
あ」と鳴いた。
どうやらまだついて来いという意味に受け取れる。仕方なく行方はその猫について行くことにした。
雨が降
っ
ているので行方は傘を差していたが、猫は雨に濡れたままだ
っ
た。猫としてはあまり気にしていないようだ
っ
たが。
そのままてとてとと歩く猫の後を行方不明はついて行
っ
た。猫は時折振り返
っ
ては行方がきちんとついてきているか確認している。
ずいぶん知能の高い猫だなと行方不明は思
っ
た。前に飼
っ
ていた猫では到底このようなことはしなか
っ
たと思う。
角を曲がり、通りを直進し、また角を曲がり、そんなことを何回か繰り返した。
そうして、とある家の前にたどり着いた。窓からは橙色の光が漏れている。
猫はその家の玄関の前に座りみ
ゃ
おみ
ゃ
お鳴いた。どうやらここが目的地らしい。
猫の住処なのだろうか。飼い主はいるのだろうか。行方はインター
ホンを探したが無か
っ
たので戸を叩いてみることにした。
ノ
ッ
クしてみても、中から人が出てくる気配はしなか
っ
た。だが中からは明かりが漏れている。
猫の様子を見ると引き戸を収める戸枠の隅のところをカリカリクンクンしている。
行方は戸に手を掛けて開けてみた。すると鍵が掛か
っ
ていなか
っ
たようで戸はするすると開いた。
猫は玄関をくぐり、土間から縁へと飛び乗
っ
た。そして行方の方を振り向いて「に
ゃ
あ」と鳴いた。
どうやら「あがれ」という意味らしい。行方が靴を脱いで玄関を上がると、猫は奥へと歩いて行
っ
た。
戸口を跨いで中を覗くと、そこにはたくさんの猫が丸くな
っ
て寝ていた。どれも皆、すやすやと気持ちよさそうに寝ている。
そんな中で一匹の猫に目が行
っ
た。どうやら行方の飼
っ
ていた猫らしい。
らしいというのはその時は薄暗がりの中であ
っ
たし、行方もこんなところに自分の飼い猫がいるとは思
っ
ていなか
っ
たからだ。
だがその猫は、毛の色から、耳や尻尾の形、顔の形まで買
っ
ていた猫にそ
っ
くりで、多少の疑いはあ
っ
たものの、行方はその猫が自分の猫だと認識するに至
っ
た。
行方はその猫に近づき、そ
っ
と撫でてみた。行方が撫でてもその猫は気持ちよさそうに寝ていた。
撫でることができるということは、その猫は実在しているということで、不思議な光景を目の当たりにして気が動転していた行方がであ
っ
たが、この光景が現実と地続きにな
っ
ていると行方は感じられた。
だがしかし、だがしかしである。どこかおかしいところがあ
っ
た。違和感というのだろうか。確かに猫に触ることができたのだが、その感触は猫に伝わ
っ
ていないようであ
っ
た。行方は試しに少し激しく撫でてみたが、猫は目を覚まさなか
っ
た。
まるで、猫と行方の皮膚と皮膚の間で空間が断絶しているかのように。
そのせいで行方不明は激しい認知的不協和に襲われた。パニ
ッ
クにな
っ
たせいか、行方は自分の猫を取り戻そうと思
っ
た。
だが、猫を抱きかかえようとすると、ずしりと思い感触が伝わり、その重みはどんどん増えて行
っ
ているようで、なぜか猫は行方の抱えることができる重さを優に超えてしま
っ
ていた。
そしてその時、どこかから耳障りな猫のうなり声が聞こえた。
その声はどんどん行方の方に近づいてきて、気づけば行方の背後には金色の二つの目を光らせ、真
っ
赤な口を大きく開けた黒い影が立ちはだか
っ
ていた。
行方はその影に気づき、震えながら背後を見た。
金色の瞳と目があ
っ
た。
行方は一瞬の判断で走り出した。
黒い影の脇をすり抜け、急いで玄関から外へと出た。
靴を履くのも忘れて家から飛び出し、必死で走
っ
た。
まだ耳元で猫のうなり声が聞こえてくる。
振り向けばあの黒い影の姿が見えそうな気がした。
呼吸などほとんどしていない。行方の体を動かす原動力は恐怖心だ
っ
た。
何故か道に立ち並ぶ街灯は点滅しており、そのことがさらに行方の恐怖心を煽
っ
た。
気づけば行方をあの家まで導いた白猫が並走していたが、気にも留めず走り続けた。
息も切れ切れになりながら行方は自分の家へとたどり着いた。そのころにはもう猫のうなり声も聞こえなくな
っ
ていた。
溜飲を下げ、行方はその場にへたり込んだ。何が起きたのか、何が何だか分からなくな
っ
ていたが、とにかくそのことは忘れたか
っ
た。
最後の力を振り絞り、冷蔵庫のドアを開け、ウ
ィ
スキー
の瓶を取り出し、ラ
ッ
パ飲みをした。
そのまま行方は力尽きてしま
っ
た。
次の日の朝、目を覚ますと何事もない一日が始ま
っ
ているようだ
っ
た。昨夜の余韻が残
っ
ていて、行方は起き上が
っ
て周りを注意して見回した。
何も変わ
っ
てはいないようであ
っ
た。変わ
っ
てはいないようであ
っ
たが、一つだけ変わ
っ
ていることがあ
っ
た。
行方の数十センチ先、絨毯を敷いている床の上で昨夜行方を誘
っ
た猫が丸くな
っ
て寝ていたのである。
まるで嘘のように思えたが、嘘ではなか
っ
た。
行方は少し眩暈がしたが、眠
っ
ている猫をじ
っ
くりと眺めていた。
そうしていると、友人の行方知不が家にや
っ
てきた。
「お前、猫戻
っ
てきたのか?」
行方の視線の先にいる猫を見て行方がつぶやいた。
「いや、これは違う猫だよ。どこかから迷い込んできたんだ」
「ふ
ぅ
む。そう言うこともあるんだね。不思議なものだ」
「うむ。不思議だな」
二人の行方はそのようにつぶやいた。
一匹の猫がいなくなり、また一匹の猫がや
っ
てきた。それだけの事である。それだけの事であるのだが、行方は一夜の出来事が脳裏に色濃く刻まれていた。
問題の家がある場所へと行方は行
っ