【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 6
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isn't she lovely
投稿時刻 : 2014.08.30 20:49 最終更新 : 2014.08.31 03:12
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isn't she lovely
木下季花


 妹の頭の中には、いつだて幻の恋人がいるんだよ。もちろん、生きている人間には大抵、それぞれの頭の中に理想の恋人像があたり、都合の良い妄想をしたりすることがあるのは分かるよ。けれどさ、僕の妹はまだ七歳なんだぜ? 七歳の女の子の頭の中にさ、常に幻の恋人がいて、そいつとばかりお喋りするだなんていうのは、少しおかしいて気もするんだよ。僕の言てることわかてもらえるかな。妹はさ、現実に存在する男の子とはほとんど話をしないんだ。まあ僕から見ても、彼女は七歳ながらに気難しい性格をした奴だから、そういう妄想に取りつかれてしまうのも分からないではないんだけれどね。彼女は、なにしろ細かいことにこだわる奴なんだ。例えばさ、君がバスに乗たとするだろ。そして君の隣に妹が座たとする。それは君の妹でもいいし僕の妹でもいい。とにかく妹的な存在がさ、バスの中で君の隣に座たとする。そしてその妹は、完全にブザーを押すタイミングというものをわかているんだ。彼女の中では、停車ブザーを押すためのタイミングと言うのが、完璧に決まてるんだよ。そして、僕だたり知らない親父なんかが、変なタイミングでブザーを押してしまうと彼女は相当に不機嫌になるんだ。以前なんか、僕は一回怒鳴られたことがあたね。彼女はアナウンスが流れている時にブザーを鳴らされることをひどく嫌うんだよ。次は、○○です。ご降車の際はお気をつけください――なんてアナウンスが流れている時に、僕がうかり馬鹿みたいにピンポーンなんてブザーを鳴らしちたりしたら、妹はたちまち機嫌を損ねちて、それから三日間ほど僕と口を聞いてくれなくなるんだ。妹はさ、そんな風に己の中に、ある種の独特なルールを持ちながら生きている人間なんだよね。彼女は彼女なりの考え方を持て生きているんだよ。もちろんその辺が、彼女の気難しさと捉えられてしまうんだけれど、しかし妹は優しい奴だた。例えば、くまのプーさんてキラクターがいるだろう。いつもハチミツを食て暮らしているあの熊の人形さ。僕としてはあの熊の人形がどうして働きもせずにハチミツなんかを食いながら生きているのか不思議な部分ではあるんだけどさ、妹としてはその辺は気にならないらしい。まあ僕としても、デズニーアニメで何が起ころうが、今更どうでもいいんだけれどね。そう、話が逸れてしまたね。ある日、妹がくまのプーさんのアニメを見ている時に、こう言たんだ。「彼が私のいる世界に来れたらよかたのに。そうしたら私は毎日ハチミツを分けてあげるのに」てね。妹は熊の人形をさ、この資本主義の国に呼ぼうとしたんだ。そしてその厳しい社会の中で、自らのハチミツを分けて与えてやろうとしているんだ。僕はこれを、彼女の優しさだと捉えるね。だて考えてもごらんよ。くまのプーはいつだて、自分の生活を描写され、金儲けの道具に使われて、わけのわからない哲学を喋らされる。「僕は何もしていないをしているんだ」だて? まあ僕はこの言葉が好きだけれどね。しかし妹はさ、そんな終わりのない苦しみの中にいるくまのプーを、その欺瞞的な楽園世界から解放して、自分のハチミツを分け与えながら、彼を養ていこうとしているんだぜ。これが優しさ以外の何だていうんだよ。妹はくまのプーを、ある意味では救おうとしているんだな。しかしそんな妹は、現実に存在する人間に優しさを向けることが少なかた。そこが問題ではあるんだな。そして妹の一番の重要な問題は、彼女が頭の中にいる幻の恋人とばかり会話をしてしまうてことにあるんだ。彼女の頭の中にはヨンシーと言う名前の男の子がいて、そいつが彼女の一番のお気に入りの恋人なんだ。他にも何人か恋人がいた気がするけど名前は忘れたね。だいたい僕といる時に現れるのはヨンシーたからさ。ヨンシーは金持ちの息子だた。だけれど、何と言うか、自分が金を持ていると言うことを恥じているような少年なんだ。自分の親がいかにくだらない人物かていうのが、彼にはしかりと分かているんだな。ヨンシーはだから、いつだて庶民的に見える服を着ていた。オールド・ネイビーとか、ホリスターとか、そう言たブランドの服をね。もちろん僕はそんな服を着ている彼を見たことがないんだけどさ。妹はヨンシーがそんな服ばかりを着ていると言うんだ。と言うかさ、七歳の女の子がそこまで頭の中の恋人の設定を煮詰めていることに、僕は驚いている。だて、普通、少なくとも僕が七歳ぐらいの時なんかは、もと曖昧模糊とした恋人像を思い浮かべていたはずだ。赤色のスカートを穿いたブロンド髪の女の子で、僕を草原に連れて行くとか、そんな風なね。でも妹の中にいるヨンシーの設定を聞いたら、多分君はぶ飛んじうだろうな。なにせ、誕生日から、血液型、口癖、好きな食べ物、好きなミジシン、お気に入りのチスの駒、テニスをするときにスライス回転ばかりを使う事、バスの中でいつも後ろの方の席に座る事、他人が口を付けた物には絶対に口を付けない事、炭酸飲料が飲めない事、電車の中にある金属製のポールを見ると頭が痛くなてしまう事、エトセトラ、実に二百を軽く超えるほどの設定をヨンシーは与えられているんだ。まあ、なにせ妹は、ヨンシーとばかりお話をしているんだからね。ヨンシーがどんな人間であるかについても、そりあ詳しく知りもするだろうさ。でもね、僕としては、もと妹にしかりと現実を見てほしいと思うんだよ。だて、もしそのまま幻の恋人に依存する女の子として育てしまたら、まず間違いなくこの現実社会でうまく生きてはいけないだろうからね。まあ、画家とか小説家とかさ、あんな感じのおかしなやつらになるならば話は別だろうけど、それにしたて才能と技術がいるんだぜ。妹がそんなものになれる保証なんて一切ないんだから。僕としてはもとまともに生きてほしいわけなんだな。そんなことを僕が親に言うと、妹はまだ七歳なんだから、これから小学校とかに入て友達が出来れば、おかしな妄想もだんだん収まていくさ、とかなんとか適当なことを言て誤魔化すんだな。妹のおかしな習性を気にもしていない様子でさ。大人て言うのは実に無責任でノリが軽いものなんだよ。僕の親は、僕たちの事を愛してくれてはいるけれど、どう見ても、真剣に考えてはくれていないみたいだた。なにせ彼らが買うドリンクはコーラとかそのあたりのどう見ても体に悪い飲料だたし、食事だてデブが食うような脂こいステーキやハンバーグやピザばかりだたのさ。僕たちの健康を疎かにしちているわけだね。自分の健康のことすら考えているか怪しいものだよ。現に僕のパパはデブだた。だからと言てもさ、僕のパパの悪口は言わないでくれよな。デブはただでさえ悪口を言われやすいんだからさ。僕のパパはデブであても、しかり社会生活が出来るデブなんだ。しかりと働き、家族を養い、休日には僕らを公園だとかに連れて行てくれるデブなんだ。いささか食べ過ぎだし、健康管理はなていないけれどね。そんなデブの子供である僕と妹は、運動することが好きだたから、今のところデブではなかた。そうだ、運動と言えば、僕らはよく公園でテニスをするんだ。公園でテニスをする場合には、だいたい僕と妹しかいないわけだから、シングルスになるわけだよね。まあ、たまに僕の友達とかが来て一緒にプレイすることはあるんだけれど、たいていの場合は、僕と妹だけでプレイをするんだ。しかし妹が言うには、自分の隣にはヨンシーがいるて言うんだよ。ダブルスだて言うんだよ。だから僕が「ハンデはいるかい?」なんて尋ねても、私たちはダブルスだからお兄ちんの方がハンデがいるんじなくて?みたいな事を言うんだな。そうだよ、妹は実にませた口調でお話しするんだな。何らかの漫画だとかアニメの影響だと思うよ。ジパニーズ・アニメのね。彼らの作るアニメて言うのは、実に可愛らしさに重点が置かれているんだ。可愛らしさとキラクター性が全てて言う感じだね。だて、あんなに馬鹿みたいな口調で喋る奴なんて現実に居るかよ、て僕なんかはいつも思てしまうんだ。やけにお嬢様ぽく喋たり、クラスメイトの男子に対して異常に攻撃性を帯びた喋り方をしたり、アニメに出てくる可愛らしい女の子て言うのはいつでも、精神病的な何かをを発症しているように僕には見えるね。そしてそういう女の子こそが称賛されているんだ。病んでいる子こそがね。だて彼女は見た目が可愛らしんだよ。どんな事を言ても可愛いから許されてしまうんだ。それこそまるで夢の世界だよな。そして妹はそんな夢の世界にいる女の子に夢中だた。ああ、もしかしたらヨンシーの設定と言うのも、何かのアニメから拝借したのかもしれないね。だて七歳の女の子が、ヨンシーのあの精神病的な設定が思いつけるとは思わないもの。十歳以上も年の離れた人の下着の香りを嗅ぐのが好きだとか、洗われていない衣類の臭いが好きだとか、そういう、なんだかおかしい感じの設定もヨンシーにはあるんだよ。まあそれだけ聞くとヨンシーが変態みたいに思えるだろうけどさ、ヨンシーは純粋に何かの匂いというのが好きらしいんだな。そのくせヨンシーは、臭いのキツイ食べ物は食べられないて言うんだから笑うよ。例えばチーズね。ヨンシーはチーズが大嫌いらしいんだ。チーズの香りが強い食べ物は、どんなに好物と組み合わされていようが食べる事が出来ない。もし彼にドリアンなんかを嗅がせたら、宇宙の果てまでゲロをブ飛ばして失神するだろうな。僕がそんなことを妹に対して言うと、妹は妹ではこう言い返すのさ。ヨンシーはドリアンの臭いがきついことを知ているから、決して近づかないのよ、てね。ヨンシー君は実に賢いんだ。まるで餌を嗅ぎ分けられる犬並みに賢いんだよ、これが。もちろんそんなこと妹に言わなかたけれどさ。言たら百年も口をきいてくれなくなるだろうな。真面目な話ね。けれどさ、僕としては時に妹のことが怖くなるのさ。彼女の幻の恋人がどんどん現実味やら人間味を帯びてきていることについて、わりと怖いところでもあるんだな。これは一週間前の話なんだけれどさ、妹が風邪をひいて熱を出しちたんだよ。わりと高い熱を出しちてね、苦しんでいたのさ。普段はズボラな両親なんかも、この時ばかりは大慌てで、病院なんかに連れていたりして、薬をもらて帰て来た後には、親戚中に電話をかけまくたりしていた。うちの両親てさ、わりと馬鹿なんだよ。良い人ではあるんだけどね。それでさ、妹は一週間ばかり寝込んじまうことになた。でも、寝込んでいる時でもさ、大抵は幻の恋人とお話ししているんだ。そういうところは便利だよな。幻の恋人てのはさ。なにせ電話で呼んだり、くだらないメールを送たりしなくても、いつだて側に居てほしい時には居てくれて、都合の良い時にお話を聞いてくれたりするのさ。僕だて一人くらいはそういう存在が欲しいと思うくらいにね。薬を呑みながら一週間ばかりを過せば、妹の熱は下がていた。ある日、僕と共同の二階の部屋からリビングまで降りてきて、お腹が空いたて言てすかり元気を取り戻した様子を見せたんだ。もうフラフラもしていなかたし、顔から赤みも引いていた。目の焦点もしかりしているようだた。ママは、空腹の妹にコーンフレークを食べさせた。妹はそれをしかり食べた。そして食べ終わた後に、妹はこう言たんだな。「ジネスが死んだ」て。詳しく話を聞いてみると、彼女の恋人である内の一人、ジネスと言う名前の少年が死んだらしい。ジネスは妹が寝込んでいる間に、勝手に家から飛び出して、ヘロインを吸ている男にピストルで撃たれて死んだのだと妹は説明した。ママは、まだ熱のせいでおかしなこと言ているのね。と言た。でも僕は、妹が正気であることを知ていた。妹は風邪をひいた所為で、幻の恋人の一人を殺したのだ。ジネスのことはあまり聞いたことがなかたけれど、妹の中に確かに存在していたんだろう。例えばアニメの中に存在する、くまのプーとか、ミキーマウスとか、トトロみたいな感じでさ。あるキラクター性を与えられて、現実世界とは違う場所に存在させられていたんだ。しかしジネスが死んでも、妹はへらな顔をしていた。まるで何事も起きていないかのような顔をしていたのさ。僕は驚いてしまたね。だて普通、恋人が死んでしまたら、もと何らかの感情の爆発が起きてもおかしくないんだから。でも、妹はそこまで情緒とやらが育ていないのだろうね。彼女の中に存在する幻の恋人とやらも、彼女の中で上映されるアニメのようなものなのだろう。だからそれは恋人と言うよりも、恋人と言う設定を与えられたキラクターであるわけなんだな。だから、ジネスが死んでしまうのも、妹の中では予定調和だたのだろう。だて妹は監督なのだから。幻の恋人を作り出した監督なのだから。彼を殺すも生かすも自由なのだ。だから初めから予定されていることに悲しんだりはしない。それに、ジネスは妹が願えば、生き返る可能性だてあるのだ。僕はジネス君がどんなキラクターなのか知らないけどさ。
 僕は今から妹がどんな大人になるのか、楽しみで仕方ないね。でも僕が予想するところによればさ、彼女は壮絶な悪魔になるだろうね。相手の男に、自分が望むキラクターでいてくれることを求めるのさ。そして都合よく死んでくれる存在を求めるのさ。自分が熱を出して苦しんでいれば、それ以上の苦しみで死んでくれる男を求めるのさ。もちろん、そんな幼稚性を持たまま大人になるとは思えないけれど、しかし人間の本質と言うのは、幼いころからずと変わらないものなのだと僕は思うね。だから妹は、頭の中にいる幻の恋人をこれからも飼い続けて、それを現実の男にも求める事だろうな。そしていつかは、彼女の中に幻の兄貴が生まれて、僕と幻の兄貴像とのギプに彼女は落胆し、アニメの中の女の子みたいに、僕に攻撃性を帯びた物言いなんかをするようになるんだろうな。またく、妹て言うのはこれだから手強い。アニメの中の現実の妹も。いつだて精神病的におかしなことを考えたりしているのさ。
 
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