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第20回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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脳食いの一振り
 投稿時刻 : 2014.08.17 13:46
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脳食いの一振り
フィンディル


 長年使われた物には魂が宿る。その年月は決まていないが多くの場合、愛情・恨みを問わず感情を込めて使われ続けてきた物にはより早く魂が宿るという。そして魂の宿た物は自我を持ち、果てには自らの意思で動き出す。
 その一振りはとある侍に大事に使われてきた。愛情をもて手入れをされ、戦場においては相棒と呼ばれ死線を共に越えてきた。侍と年を数えるうちに、その一振りには魂が宿り始めていた。
 そんな折、侍が死んだ。病気だた。一振りは共に戦場に沈むことなく、遺族によて売り払われた。
 芽生え始めの魂は赤子なようなもので、侍を失た喪失感を抱くことはなかた。それに代わり赤子は純粋に成長を望んだ。自らに宿た魂はまだ不完全で、自我を持つまでには至ていない。自我を持ち、いつかは自らで動けるように。
 しかし物に魂が宿る為には、感情を込めて長年使われなければならない。あの侍のように、相棒とまで呼ばれて愛されることなどはまずない。ならば、どうするか。見知らぬ男に買われ、その腰に差されながら一振りは、残酷とも言える術を本能的に編み出した。
 魂の宿た道具は多くの場合、同時に怪奇を得る。それはこの一振りも同じであた。
 男が一振りの柄に手を掛け鞘から抜いた瞬間、脳を食た。腕を通り首を通り顔を通り、脳を犯された男は容易く全てを一振りに明け渡した。男の脳を食た一振りは、休むことなく男に自らを振らせた。長年使われた道具には魂が宿るのだ。
 脳を食た一振りはしかし、脳のある一部分だけを食わずに残していた。大脳辺縁系、つまり感情を司る器官である。大脳辺縁系のみを残された男は、自らを思うが儘に操られるどす黒い絶望のみを表出した。そしてそれを吸い、一振りの魂はより効率的な成長を狙た。
 脳を食われ身体を操られ刀を振り続け絶望を湧き出し続け、男は死んだ。男の手の離れた一振りは、更なる成長を望み、次の獲物を探す。

 如何なる超人の能力を有する者といえども、この一振りを手にした途端に全てを操られる。脆弱なる味方に持たせればその者の人格と引き換えに、一振りの能力を。強大な敵に持たせれば戦力を大幅に削ることが出来るだろう。

 一振りの残酷さを動かす原動力は悪意ではなく、純粋な成長欲である。赤子は乳を飲む為に母の疲労に構わず泣き続ける。郭公の雛は托卵された鶯の巣の卵を一つ残らず食べる。それは狡猾や無慈悲ではなく、生が根源に持つ本能である。
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