西京の森の化け鳥居 -地形カード-
西の都のその隅に、忘れさられた森がある。
もしそこへ近づく用事があるのならばご用心。近づいて最初に聞こえるのは楽しげな祭り囃子だ。薄暗い森の中、笛に太鼓に娘の嬌声。
祭り囃子に惹かれて森に足を踏み入れた時、あなたは後悔するだろう。入
った瞬間、天気は崩れて人を迷わす霧の雨。楽しげだった祭は気付けば陰気にはしゃぐ嫁入り行列。振り返ると森の入口は雨にふさがれて、前に進むしか逃れる術はない。
生き残りたければ道の向こうにうっすら白く煙る鳥居を目指して、真っ直ぐ進むことである。嫁入り行列に心惹かれてはならないし、振り返ってもならない。目の前に立つのはそれは赤い赤い見事な鳥居。ただし最後まで気を緩めてはならない。その鳥居こそがカードの主。鳥居に近づけば嫁入り行列は狐に変わって牙を剥く。
かつて鳥居は人であった。雨乞いの祭りで焼き殺された娘であったという。それを憐れんだ狐が反魂草の種を娘に飲ませた。100人の代価があれば娘は生き返る。鳥居をよくみれば、あちらこちらから細い双葉が芽吹いていることに気付かされるはずだ。それこそ反魂草の芽。命を吸えば、それはぶくぶく太りはじめる。
草はゆらゆら蠢いて、さあその命を寄越せと囁く。背中に迫るのは狐の嫁入り行列。折より降り続く雨のせいで身体はじっとり濡れて動きが取れない。芽はぬめりぬめりと頭を動かし、哀れな生け贄を食ってくれようと蠢き出す。
何とか鳥居を抜ければそこは晴天。振り返れば、白い雨の中で揺らめく鳥居の姿を見ることができるだろう。
……が。さて、くぐった鳥居は本物だったかどうか。顔を上げればまだまだ続く祭り囃子に雨の音。踊って近づくのは狐の影か。
そう。一回で抜けきれるとは誰も言っていない。さてもう一度、お祭り囃子の道のりをどうぞ。
もしあなたがこのカードを手に入れたなら、最強の手札となるはずだ。
このカードが持つのは狐の憐れみ娘の怒り。生き返りたいと嘆いて常に贄を求めている。あなたの相手がどれほどの特殊能力を持っていようと抜けきることは難しい。
しかし使い過ぎにもご用心。100人の命を飲み込んだとしても、鳥居はけして人にはならぬのである。人の命を欲しがってさらに貪欲にじわじわその森を広げはじめるのである。
あまり欲張ると、あなたのカードもこのカードの餌食になっている。
そこで気付いて手を引けば、まだ生き残る術もある。
何の話かって? それは、貴方の命の話である。