てきすとぽい
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第21回 てきすとぽい杯
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アゲハとコオロギ
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2014.09.20 23:05
字数 : 1318
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アゲハとコオロギ
犬子蓮木
誰かの携帯電話が鳴
っ
た。
次に私のおなかが鳴
っ
た。
視線が私にあつま
っ
たかと思
っ
たけど、どうやら違
っ
ていて、みんなの視線を集めたのは隣の人のようだ
っ
た。隣の青年の携帯電話が鳴
っ
たのだ。
着信音はコオロギの鳴く声だ
っ
た。
今は初夏なのでコオロギはいない。だからこの続いている音は携帯電話の音だ。コオロギが泣き止む。
「もしもし」
青年が電話にでた。
「ああ、久しぶり
……
」
青年の声だけが響く。
こんなところで電話するなんてマナー
違反だなと思うけど、強くマナー
を指摘するほど私個人は携帯電話での会話に不快感を持
っ
てはない。周りの人もそれぞれなにかを思い、ち
ょ
っ
と嫌そうな顔をする人もいるけれど、結局、誰も注意はしない。
「うん、今度、顔見せるわ」
青年の電話は続く。
「あ、そういや、あれ知
っ
てた
っ
け? ああ、現場にいなか
っ
たんだ。すごか
っ
たんだ
っ
て。山口さんがさ、いきなりね。なんだ知
っ
てるのかよ。ああ、あいつが話したのか。どうせおもしろおかしく話したんだろうなー
。いや、そうだけど。伝え方とかあるわけじ
ゃ
ん? あいつはそういうところがダメなんだよ。なんというかいい人でいいんだけどね。いや、別に好きじ
ゃ
ねー
し。おい、ふざけるなよ。怒るよ。まじ、まじだ
っ
て。だ
っ
て顔こえー
じ
ゃ
ん。中と外が違う
っ
ていうか、も
っ
たいねー
な
っ
てだけだよ。ギ
ャ
ッ
プ萌え? ねー
よ。いや、ハスキー
が好きなのはでかいからで。言
っ
たかもしれないけど、おい、きるぞ。いや、まてきるな。ち
ゃ
んと言うから」
ふと顔をあげると目の前を横切るものがあ
っ
た。
蝶々だ。
アゲハチ
ョ
ウがひらひらと飛んでいる。
なんでこんなところに入
っ
てきたのだろう。
出られるのだろうか。
つかまえて出してあげようか。
アゲハチ
ョ
ウに気付いた数人の視線が、私と同じく、蝶の飛ぶ軌跡を辿
っ
た。ひらひらゆらゆら。きらきらちらちら。室内は風がないので、安定して飛んでいるように思える。
黄色と黒が少し怖いなと思
っ
た。
綺麗なのだけど、どこか怖さを持
っ
た美しさ。強さも感じる。雄だろうか雌だろうか。き
っ
とアンケー
トをと
っ
たら、半々にはならない。なぜ、綺麗なものに女性を感じてしまうのだろう。それが生まれつき持
っ
ている感覚なのか、それとも生きていく過程で身につくものなのか知りたいと感じた。
たとえば人間以外の生物には雄のほうが煌びやかなものがいる。
そうい
っ
たものにアンケー
トをと
っ
たら、人間とは別の結果が得られるのだろうか。
なぜ、私は人間に生まれたのだろう。
人間以外に生まれたら、ま
っ
たく別の考えを持てたかもしれないのに。
これはいくらかの人が持つ自らの国の人間ではなく、別の国の人間に生まれたか
っ
たという感情に近いだろうか。たとえば、異性に生まれたいという感情と似ているだろうか。特定のある人に生まれ変わ
っ
てみたいという感情は一緒だろうか。
世の中はわからないことしかないみたい。
「違う
っ
て。俺が好きなのはお前なの! 黙
っ
たな? 聞いてるか? ち
ゃ
んと聞いたよな。もう繰り返さないからな。なんでこんな電話でいわなくち
ゃ
いけないんだよ。ま
っ
たく
……
。言うな。返事は待
っ
て。その、お願いします
……
」
ぐ
ぅ
と私のおなかが二度目の催促をした。
ああ、おなかすいたなー
。 <了>
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