てきすとぽい
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第21回 てきすとぽい杯
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誰がために腹は鳴る
(
伝説の企画屋しゃん
)
投稿時刻 : 2014.09.20 23:41
字数 : 1150
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誰がために腹は鳴る
伝説の企画屋しゃん
誰かの携帯電話が鳴
っ
た。
秋の訪れた街並みは、どこか切なげで、それでいて穏やかだ。
ふだんは自宅にこもりがちな僕だ
っ
たが、その日は原宿を歩いていた。
すれちがう人のなにげない電話の会話、そしてにぎやかな雑踏。
人ごみは好きじ
ゃ
ない。
お腹がき
ゅ
っ
と痛み、またかと僕は思う。
き
っ
と朝食べた照り焼きバー
ガー
がいけなか
っ
たのだ。
目指すのは、明治通り沿いにあるベトナム料理屋。
フ
ォ
ー
をメインにするその店で、僕はこれからあることを試すのだ。
自分が何者なのか知るために、とめどない人の群れをかきわける。
以前、カ
ッ
プ麺を食べただけでトイレにこも
っ
たことがある。
それならば、理屈としてはフ
ォ
ー
だ
っ
て同じ目に遭うだろう。
でも、もしちが
っ
たら?
それは、き
っ
とあの医者の話が正しいということだ。
数日前、僕は内科で診断を受けた。
風邪気味で具合が悪か
っ
ただけなのだけど、恒常的にお腹の具合が悪いのだと、う
っ
かり話してしま
っ
たのが悪か
っ
た。
ともかく365日24時間は大袈裟だとしても、326日12時間くらい僕のお腹はぺいんぺいんだ。
それもそのはず、医者が言うには、そもそも僕の身体は和食に合わないのだという。
「あなたは、どうやらベトナムの人のようです。ほら、あそこ
っ
てフランス文化も混ざ
っ
ていて、意外と舌が肥えているんですよ。日本人以上に繊細な味覚の持ち主とい
っ
たら、ベトナム以外にないと思いますね」
味覚の話なんてしていなか
っ
たが、一つだけ思い当たる節がある。
それは幼い頃から、好奇心で潜り込んだ飛行機が、日本の基地に着陸する夢を見ること。
思えば、僕が生まれ育
っ
た街には基地があ
っ
た。
ああ、そういうことか。
胸の奥から湧いてくる納得という言葉を必死で抑え込む。
店に着き、牛肉のフ
ォ
ー
を平らげた。
テー
ブルに座
っ
たまま、コンデンスミルクの入
っ
たコー
ヒー
を飲みながら反応を待つ。
10分、20分・・・?
来た・・・いつもの、ぺいんぺいんがや
っ
て来た。
あのやぶ医者め、と呪いの言葉をつぶやきながら、僕はトイレに駆け込んだ。
一体、誰がベトナム人だ?
が、用を済ませた後で押し寄せたのは、腹痛ではなく後悔だ
っ
た。
トイレの壁には、一枚のポスター
。
そこには、信じられない光景が写
っ
ていた。
男性と思しき手の平の上に、4本脚で立つバンビのような小動物。
まさに手乗り鹿と呼ぶにふさわしい生き物が、そのポスター
には使われていた。
もふもふを超越したその愛らしさ。
僕はテー
ブルに戻ると、決意した。
フ
ォ
ー
の追加注文だ。
ベトナム料理に免疫をつければ、僕は医学的にベトナム人であると保証されるにちがいない。
男には勝負をする瞬間が、いつかは訪れる。
すべては手乗り鹿を飼うために。
「メニ
ュ
ー
の品、全部持
っ
てこいやー
」
僕は叫びつづけた。
Wordで言えば、72pボルドー
くらいの大きさで。
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