てきすとぽい
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第22回 てきすとぽい杯
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BLAZING MAKER
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2014.10.18 23:36
字数 : 3034
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BLAZING MAKER
犬子蓮木
なんでわたしはこんなことをしてるのだろう。
わたしは今、壁に右腕をのばしてついている。
わたしと壁の間には見知らぬ生徒が目を輝かせてはい
っ
ていた。
今日はわたしの通う女子校の文化祭。わたしのクラスでは壁ドン喫茶なるものをすることにな
っ
た。なにをするかといえば、ある人が壁に片手をついて、その隙間に別の人間がはいるというものだ。くだらないなー
と思いつつ、そんなのをやりたい人がいるのならば勝手にやればいいと反対してこなか
っ
た。
だ
っ
て、クラスの人間が壁との間に入る
っ
て聞いてたから。
「入
っ
たじ
ゃ
ん」
休憩の時間とな
っ
て裏にひ
っ
こんだわたしに友達の佐和が言
っ
た。
「あなたと壁の間にね」
「わたしが壁に手を付く側になるとか言
っ
てなか
っ
たでし
ょ
」
「そり
ゃ
言
っ
たら拒否されるじ
ゃ
ん」
はじめはお客さんが手を付く側だと説明されていたのだ。だから反対しなか
っ
た。ここは女子校で、そもそも文化祭でも男子は一部の保護者をはい
っ
てはこれない。だから学校の生徒同士で世間の流行に載
っ
たお遊びをするのだと思
っ
てた。だから反対しなか
っ
た。
「甘いんだよ、あんた。下級生から人気あるんだからだしにされることぐらい予想しないと」
まさかそんな風に騙されるとは思
っ
ていなか
っ
たわたしは、文化祭前日の準備終了のときに、いきなりこの役目だとおおせつか
っ
た。まじありえない。
「まあ、裏で仕切
っ
てたのはあたしだけど」佐和が笑
っ
た。
「おまえ、バカかよ!」
「大盛況なんだからいいじ
ゃ
ない。狙い通りさ」
つかみかか
っ
たわたしを軽く交わし、佐和は表へと逃げ出した。
わたしは背が高い。髪も長いのはう
っ
とおしく、短くしていた。そんな風で中学生時代はま
っ
たくモテたりはしなか
っ
たのだが、受験に失敗して女子校にはい
っ
てみたら、あら大変、もの凄くモテるようにな
っ
てしま
っ
たのである。同じ学校の女子どもに。
別にかわいいか
っ
こうをしたいとかな望みは昔に捨てたけど、こんな状況がうれしいかと言えば微妙である。ま
っ
たくどうしてこうな
っ
たのか。
「はい、休憩おわりー
。列すごいから急いで」
「わか
っ
たよ!」
表からの声にわたしはやけくそ気味に叫んで返す。その声がまた低くて嫌になる。
わたしは表にでて、あが
っ
た歓声に手をふ
っ
て所定の位置についた。ああ、壁よ。ベニヤ板で造られた白き壁よ。今日はず
っ
と君だけを見ているよ。もう知らない後輩どもの顔を見るのは飽きた。
「では、どうぞー
」
列を整理する人間の声がかかると、一番前に並んでいた女子がや
っ
てくる。
「すみません」
や
っ
てきた女の子が軽く頭をさげてからわたしと壁の間にはいる。
あやまるのならも
っ
と申し訳なさそうな顔をしたらどうなんだ。そんな目をきらきらさせてなにが楽しいんだ。バカか。
「なにが?」わたしは壁に手をついた。顔を近づける。「謝罪させてしまうようなことをして、こちらこそごめん」
女の子の頬が紅潮し、目がすばらしく輝く。
「はい、終了でー
す」
案内係の声で女の子はなごりおしそうにしながらも部屋の外へと消えていく。
これはわたしが男だ
っ
たら楽しいのだろうか。わたしがも
っ
と背が小さか
っ
たりして、かわいらしか
っ
たりして、される側なら楽しか
っ
たんだろうか。
意味わからん。
強く壁を突いた。
新しく間に入
っ
ていた女の子が一瞬怯える。
わたしはゆ
っ
くりと女の子の正面に顔を近づけて言
っ
た。
「ドキドキしてるね、わかるよ」
「終了でー
す」
次から次にベルトコンベアに載せられたように流れてくる女の子。壁を突くだけでなく、なんかセリフを言えと命じられているので必死に言葉を考えているわたし。あと何度繰り返せば、この悪夢は終わるのだろう。
「階段のところで折り返してください。ただいま四十分待ちです!」
廊下からおかしな声が聞こえてきた。ここは夢の国じ
ゃ
ないんだぞ!
「では、どうぞー
」
また次の人。
「よろしくお願いします」
丁寧な言葉。
「え
っ
」
わたしは思わず声をもらした。
目の前にいたのは憧れの珠紀先生だ
っ
たのだ。いつも聡明で、厳しい珠紀先生。わたしみたいにがさつで男勝りということではなく、女性としての強さを持
っ
ている私の一番好きな先生だ
っ
たのだ。
「どうしたのかしら?」珠紀先生が眼鏡を直す。
「いや、先生が参加されるんですか?」
わたしのドキドキが高ま
っ
ていくのがわかる。顔が赤くな
っ
ていないだろうか。焦
っ
てパニ
ッ
クな
っ
ている自分がいる。こんなことの参加する先生だ
っ
たのか。そり
ゃ
バカみたいに真面目
っ
てわけではなく、普段はやさしいところもあるけど、でも、こうい
っ
た騒ぎにや
っ
てくるイメー
ジはなか
っ
た。
「いや?」
「そ、そんなことは」
「では、ドキドキさせてください」珠紀先生がにこやかに言
っ
た。「せ
っ
かくの文化祭ですから」
「わ、わかりました。それでは、壁ドンさせて頂きます」
えー
い、ままよ。わたしは右手で壁を突いた。先生の黒い髪が揺れる。
さ
っ
きまでと一緒だ。もう何十回とや
っ
てきたのと同じだ。顔を近づける。目を見るな。壁を見ろ。それからなにかそれ
っ
ぽいことを言え。よしさ
っ
き言
っ
たのを使い回して「心の美しさが瞳の輝きにでているね」と言おう。お祭りだそれぐらい許してくれる。
「あなた、綺麗な目をしているのね」珠紀先生が言
っ
た。
その言葉で眼鏡の奥の珠紀先生の目を見てしま
っ
た。当然、視線が合う。
綺麗な瞳。
そう思
っ
た。
そしてセリフが飛んでしま
っ
た。それでもどうしてもあわてんぼうの口が止まらない。
「君の瞳もビー
玉みたいで舐めてみたいよ」
頭がフル回転して過去の履歴を探した結果、いろいろなものがまざ
っ
た言葉が発せられた。
「そう」珠紀先生が微笑んだ。「私の瞳は甘いかしら」
「甘いと思います」
なにを言
っ
ているんだわたし。
「終了でー
す!」
案内係の声が響く。壁から手を離し、今にも倒れそうな足に力をいれてふんばんる。
「では、またね」珠紀先生が教室から出て行
っ
た。
しばしの沈黙。そしてわたしは、は
っ
として言
っ
た。
「休憩! 休憩!」
並んでいた人からは残念がる声があが
っ
たが、平常心を取り戻すまでもう立
っ
ていられる自信がない。わたしは了解もえずに裏側に飛び込んでそのまま地面にへたり込んだ。
「どうだ
っ
た?」
立
っ
ている佐和がわたしを見おろしている。
「なんで珠紀先生が来るの。意味わかんない」
「あたしが頼んだ!」友人のドヤ顔。
「はあ、ふざけんな! なにしてんだよ!」
「一日大変な苦労をする親友になにかご褒美がないとかわいそうかなと思
っ
て。ドキドキしたでし
ょ
?」
したさ。ああ、したさ。め
っ
ち
ゃ
したさ。
「みんなそんな気持ちを味わいたくて並んでるわけよ。だからまあ、今日一日精一杯、壁ドンにつとめてくださいな」
反論できない。なにが楽しいんだ、と思
っ
てバカにしてたものに逆側とは言えドキドキさせられてしま
っ
たのだ。
「わ
っ
たよ! やるよ! やればいいんでし
ょ
!」
「おうよ、そのいき。あ、列がついに一時間待ちを超えたらしい
っ
て」
わたしはもう完全に力が抜けて地面に同化しそうだ
っ
た。それでもどうにかこうにか立ち上が
っ
て、友人を軽く押した、そして佐和をはさんでおもい
っ
きり壁に手を突いた。
「わたしは素敵な友人を持
っ
たみたい」
これで少しは驚け。
「でし
ょ
」
佐和が頭突きを返してきた。顎にあた
っ
てマジ痛い。わたしはまた地面に倒れる。そしてし
ゃ
がみこんだまま見上げたわたしの横の壁に佐和が手を突いた。
「一年のときから友達じ
ゃ
ない。あなたのことなんてよくわか
っ
てるよ」
ほんとうに恐ろしい友人を持
っ
たものだ
……
。 <了>
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