てきすとぽい
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第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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〔 作品12 〕
エネルギー
(
ほげおちゃん
)
投稿時刻 : 2014.12.14 02:41
字数 : 1956
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エネルギー
ほげおちゃん
エネルギー
。ふとしたときに頭を過る言葉。学校で熱力学の授業を受けてから、深く胸に刻み込まれていた。
私はこれまで十八年生きてきて、このエネルギー
という言葉ほど摩訶不思議に感じたものはない。形のない、新興宗教やオカルト、似非科学の宣伝文句にも使われるとても胡散臭いものなのだが、どうやらノー
ベル賞を競う世の中のわけのわからないぐらいIQの高い人々は、皆このエネルギー
という言葉に心酔しているようなのだ。
熱=エネルギー
。高い=エネルギー
。一度失われるとそれは永久に戻らず、全宇宙のエネルギー
が尽きればこの世の終わり、世界が止ま
っ
てしまうらしい。果てしなく壮大なようでいて、意味がわからない。
限りなくミー
ハー
な私は、とりあえずその影響を受けてエネルギー
という言葉が好きだ
っ
たりする。とくに、高い=エネルギー
というのが好きだ。むかつくやつがいたら、そいつより高い場所に移動すればいい。なんだかスー
ッ
とする。
だから私はもちろん、よく雑居ビルの一階なんかにあるカフ
ェ
よりは、二階にあるカフ
ェ
を好んでいる。三階はち
ょ
っ
と高い。階段で登れるところ。エレベー
ター
に乗ると、無駄にエネルギー
を使
っ
ている気がする。
私達がこの日訪れた二階のカフ
ェ
は、それなりに御洒落なところだ
っ
た。
いつも思うのだけど、何故コー
ヒー
というものはこんなにも小洒落た感を出すのか。
コロンビア、エチオピア、ブラジル。エル・インヘルト・ウノに至
っ
ては一体どこなんだよ
っ
て感じだ。本当にどこなんだろう。とにかく世界中のどこかしこで農家の人が豆を栽培していて、それがはるばる海を越えて日本、今こうして私の目の前にある看板に名を連ねられているわけだ。毎日がち
ょ
っ
としたワー
ルドカ
ッ
プ。じ
ゃ
あ私はブラジルを飲もう。せ
っ
かくだから。この大黒とかいう四角いチ
ョ
コレー
トケー
キも頼んでやる。ち
ょ
っ
と高い気がするけど、どうせ私が払うわけじ
ゃ
ないのだから。
コー
トさんはカフ
ェ
ラテを頼んでいた。聞き逃してしま
っ
たけれど、カフ
ェ
ラテにも地名で名前とかあるんだろうか。気になる。聞かないけど。聞いたところで大した知識にならない。
私とコー
トさんが向かい合
っ
て座る。コー
トさんは既にコー
トを脱いでいるから、コー
トさんじ
ゃ
ない。けれど本当の名前を忘れてしま
っ
た。契約書を書くとき確かにその名前を見たはずだけど、全く印象に残らなか
っ
た。そもそもコー
トさんは多分スパイに向いている人で、人の気配がしない。顔が見えない、そう、足長おじさん。現実味を書いた人だ
っ
た。
「学校はどう? 楽しい?」
それなりだよ、と私は答えた。
本当にそれなりだ
っ
た。新しい学校に来て三
ヶ
月、人見知りな私なりにまあまあや
っ
ている。友達と呼べる人はいないけれど、ず
っ
と誰とも話さないというわけじ
ゃ
ない。虐められてもいないし。どうせ卒業まであと一年もないのだから、このぐらいで別にいいのだろう。
「そう」
そうい
っ
て、コー
トさんはカフ
ェ
ラテを飲んだ。コー
トさんは器用な人だ。どのくらい器用か
っ
て、カフ
ェ
ラテの絵を実にうまく崩す。羽のような絵が書かれているのだけど、それが少しずつ波打
っ
て形を失
っ
ていき、混沌に還
っ
ていく。エントロピー
の法則だ。彼の混沌への還し方は、実に自然だ
っ
た。
私はブラジルを軽く口にして(これがサ
ッ
カー
だ
っ
たらどれだけ偉業なことだろう)、四角いケー
キにフ
ォ
ー
クを突き立てようとする。
固い。
と
っ
ても固い。
カチンカチンだ。どうしてこんなにも固いんだろう。
私はどうにかして、それをフ
ォ
ー
クで縦に切ろうとした。指先に力を込めて。必死であることをこのカフ
ェ
にいる誰にも悟られないように、スマー
トにだ。
コー
トさんが、私の指先を見た。ケー
キを切ろうと力を込めている指先。目線を見なくても分かるのだ。これもエネルギー
? 彼の
――
「指」
ね
っ
とりとした声で、コー
トさんが言
っ
た。
「指、見せてもらえないだろうか」
私は言われたとおり、指を差し出した。
これは彼の指だ。契約でそうな
っ
た。私の商品。彼を惹きつけるための。
「触れていい?」
彼は毎回聞く。もちろん断れるはずがない。こくりと頷く。
彼が指に触れる。熱が伝わ
っ
てくる。ね
っ
とりとした、熱。これがこの人のエネルギー
だ。コー
トさんは生きている。ただの人間だ。私は少しぞわ
っ
とする、と同時に、なんとも言えない気分になる。彼の熱だ。熱。戻ることがないそのエネルギー
を私に向か
っ
て使
っ
ている、その事実。愛撫にされるがままになる。逆らえない。
彼の手の中から指輪が現れる。まるで手品のようだ。とつぜん私の手に異物が触れて、その存在に気づく。今日は小指だ。右手の小指。私の魅力を引き出そうとしている。私の指を大人の指が何度もなぞる。私の中を通る熱。この気持ちのやり場をどこにすればいいのか、わからない。(了)
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