第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
 1  4  5 «〔 作品6 〕» 7  20 
is this world your normal?
投稿時刻 : 2015.02.14 23:33
字数 : 2818
5
投票しない
is this world your normal?
犬子蓮木


「ごめん、お前は友達だけど、そういう風には見れない。好きな人がいるんだ」
 俺の好きな人は、そう言うと笑顔を作て、また明日からは普通にしよう、と言てくれた。
「そうだよな。ありがとう。じあ、また」
 俺はその場から逃げ出すようにして走り去た。逃げながら最低だな、と思た。呼び出しておいて、ダメだたらすぐ逃げ出しなんて。でも、もうあの場でどうしていいかわからなかた。もと別の想像を、幸せな未来ばかり考えていて、そり不安もあたけど、成功と失敗の両方を考えていたけど、だからてやぱりダメになるなんて実際その場までちんと感じられてはいなかた。
「ただいま!」
 家に逃げ帰てきて、そのまま部屋へ。ベドに倒れ込んで、泣いた。高校生にもなて、体はずと大きくなたのに、どうにも強くなれない。
 好きなあいつの顔を思い出していた。
 もうダメになたのに。
 あいつとはずと友達だた。
 それが友達以上だと意識したのはあのときだ。
 体育の授業のサカーで俺の出したパスをかこよく決めていた。
 それだけ。
 なんかすごい普通なんだけど、すごいかこよくて、もと近づきたいと思た。
 すごい仲良いと思てたんだけどなー。俺だけだたのかな。
「風呂はいりな」部屋の外から母さんの声が聞こえた。
 俺は、泣いているのがバレないように気をつけて、返事をした。そのまま風呂場へ行て、服をぬいで、湯船につかる。ざぶん、と頭から一度もぐた。暖かかた。
 明日からどうしようか。
 また普通に、てできるんだろうか。
 あいつはそれができるから言たのかな。
 風呂からあがて、リビングへ、食事が用意されていて、二人の母さんが俺を待ていた。別に待てなくてもいいのに。
「今日、どうかしたの?」
「別に」
「ふられたんだ」とひとりが笑う。
「ちげーよ!」
 なんでこのふたりはこんなに違う性格で結婚してやていけるのだろうか、と思う。全然似てなくて、片方はやさしすぎ、片方は粗雑。共通点なんて、目と口の数が同じ数で、ふたりとも女というところぐらいだ。男の俺にはわからないことなのか、そんなの関係なくて、ただなにかふたりだけの結びつきがあるのかもしれない。そんな気がしたから、俺もそういたものがほしいな、と思たのに、あいつともと親しくなりたかたのにダメだた。
「ごちそうさま」
 心配も失礼な物言いもどちらも嫌だたので、ささと食事を部屋に戻た。明日も学校だ。どんな顔をしてあいつに会おう、ああ、こんなことなら金曜日にすればよかた。でも、昨日はいける気がしたんだ。

 朝。起きて、洗面所へ。寝癖をさと直す。鏡を見て、昨日のことを思い出した。昨日はもと髪の毛をいじていたけれど、なんか今日はもうどうでもいいかと思た。ひげ剃りもさぼることにした。
 着替えてカバンを持て玄関へ。外で働いているほうの母さんと一緒になた。
「車乗てく?」
「いい」
 家を出ると近所のおばさんがゴミ捨てに出ていた。母さんが「おはようございます」と大きな声で挨拶をしている。おばさんが旦那さんの愚痴をうちの母さんにしはじめたらしい。つかまると話が長いんだこのおばさん。付き合う必要はないと思たので、母さんを犠牲にして学校へいくことにした。
 駅。電車に乗る。時間が少し遅いので、もう満員というほどは込んではいない。
 うちの学校の制服を着ている人間が多くいる。カプルらしき楽しげなふたり組も見えた。あんな風になりたかたんだよな、と思う。ただの友達としてふたりでいるのとはなにが違うのだろうか、と考えた。答えはわからないけれど、なにか空気が違うのだ。異性でも同性のカプルでも距離が近い。
「おはよう」
 背後から声をかけられたので、振り返るとあいつだた。びくりしてすぐに声を出せない。
……お、おはよう」
 隣に少し離れて並んで窓の外を眺めながら電車にゆられる。俺より高い背、低いけれど落ち着いて綺麗な声。会話はできなかた。いままでだたらなんかどうでもいいことを話せたはずなのに。
 こいつはどうして声をかけてきたんだろう。気まずさとかないんだろうか。じぶんだたら、たぶん隠れていると思う。立場の違いが逆でもたぶん。
 電車が揺れた。隣に立ていたあいつがバランスを崩して寄りかかてきた。驚きといろいろな感情でドキドキする。
「ごめん」体勢を戻してから言た。
「いいよ」それだけしか言えなかた。
 電車が駅について、俺たちは学校へ向かう。生徒がたくさん、学校へ向かて歩いていた。
 こいつの好きな奴て誰だろう。
 目の前のたくさんの人を見て、そんな疑問を持た。この中にいるかもしれない。いないかもしれないけど。どこかにはいるんだ。
「好きな人て誰?」俺は聞いて見た。やぶれかぶれになてるかもしれない。
「ち、いきなり聞くなよ」とてもあわてている。そんな顔が見れてうれしいと思てるじぶんがいる。
「応援するよ」
 なにか迷ているようだた。まあ、そりそうだろう。気軽にいうものではない。俺だて、誰にも話したりはしなかた。
「友達だろ」
 その言葉は下品だなと思た。じぶんが知りたいがために、利用しているから。
「男子? 女子?」
……誰にも言うなよ」
 俺はうなずく。
 そと顔を近づけてきて、こいつは小さな声で言た。それは生徒ではなかた。先生の名前だた。
「まじかよ」
 顔をほのかに赤くしてうなずいている。
 先生か、と思う。たしかに綺麗でかこいいんだけど、なんというか範囲の外だと思ていた。じぶんたちは子供で、あこがれとかはあても、先生のような大人たちは別の世界なんだて。でも、こいつは違たらしい。
 はずかしさからか、少し早歩きになていたのでそれに合わせてスピードをはやめる。前をゆくりあるいていた女子を抜いて言たら、そこに出勤中の先生がいた。
「いるな」
「いるね……
 どうするんだろう、と思たが、
「おはようございます」
「うん、おはよう」と先生。
 挨拶だけして、通り過ぎ、そのままさらにスピードをあげた。なんかもう校門の前を通り過ぎるんじないかていうぐらいで。
 顔を見るとなんか目が輝いているようだた。
 それから、ふられちえばいいのにな、と考えた。そうすれば俺がなぐさめてやるのに。
「どうするの? 告る?」
「どうせダメだろ、先生となんて」投げやりな言葉、表情も落ち込み気味。
「なんかで読んだけど、先生て元生徒と結婚すること多いんだてよ。出会いがねーからて」
 そんな俺の言葉に友人はわずかに勇気を取り戻したらしい。言てしまて、複雑な気持ち。
 好きな人が幸せになてほしいという気持ちもあるし、不幸になる姿をみたいとも思てしまう。幸せにするのが俺だたいいのに。
「応援するよ」
 また言た。そうやてたきつけて。ささとふられてしまえばいいなて。
 だて大人とか、勝ち目ねーん。
 そと心の中でつぶやいた。                            <了>
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない