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しゃん様生誕祭 6月に祝日を作ろう大賞
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火星までスペースシャトルを
(
古川遥人
)
投稿時刻 : 2015.06.11 03:33
最終更新 : 2015.06.15 02:31
字数 : 2883
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2015/06/15 02:31:06
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2015/06/13 13:54:29
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2015/06/11 15:23:07
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2015/06/11 15:16:15
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2015/06/11 03:40:26
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2015/06/11 03:38:01
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2015/06/11 03:34:14
-
2015/06/11 03:33:40
火星までスペースシャトルを
古川遥人
君は宇宙でいちばん高貴な生命体を知
っ
ているかい? 僕は実際に彼に会
っ
たことがあるけれどね、彼はとてもユニー
クで気の良い奴なんだ。いささか自分の本性をユニー
クさに隠してしまうきらいはあるけれどね。
彼と出会
っ
たのは、地球にうんざりして火星にシ
ャ
トルを飛ばした時のことだ
っ
た。今では火星に飛ぶ奴なんてあんまりいないんだけれどさ、僕は火星が好きだ
っ
た。それは理屈じ
ゃ
なくてさ、感覚的に好きなんだよ。こういうの
っ
てあんまりわか
っ
てもらえないと思うんだけど、火星のしなびた感じとか、親しみやすさみたいなのが僕は好きなんだな。火星は表面がごつごつとした岩ばかりのすごく寂しい場所なんだけれど、地面に幾つかのハ
ッ
チが据え付けられていて、それを開けて地下に降りて行くと、最高に華々しい地下都市が広が
っ
ているんだ。もちろんタダで行けるわけではないよ。門番に十枚くらいの硬貨を渡して行くんだ。まあ、デ
ィ
ズニー
ランドみたいな感じで考えてもら
っ
たらいいのかな。そんな地下に僕が久しぶりに行
っ
た時、彼と初めて出会
っ
たんだ。彼の姿はね、そうだな、伝説の作家トー
ベ・ヤンソンが描きそうな、丸くて温かみのあるフ
ォ
ルムで、どことなくし自然に愛らしさを覚えち
ゃ
うような感じだ
っ
た。彼は町の中をウロウロ歩いていた。僕を見つけるとさ、彼はとことこ僕の後をついてきて、親しげに話しかけてきたんだ。
「おや、君は地球の人間かに
ゃ
ー
」
彼はケバブを食いながら、八本の足を器用に使
っ
て一人でトランプをしていた。何をや
っ
ているのかと訊いたら、一人でババ抜きをしてる
っ
て言うんだ。最高にクー
ルじ
ゃ
ないか。僕は一気に彼のことが好きにな
っ
た。
僕らは連れだ
っ
て、ドラゴンの涙で沸かしたコー
ヒー
が飲めるカフ
ェ
に入
っ
た。君はもしかしたら知らないかもしれないけれど、かつて火星にはドラゴンが住んでいた。今ではもう絶滅しち
ゃ
っ
ているけれどさ、ドラゴンの遺伝子を受け継いだ火星人は存在している。僕の行きつけのカフ
ェ
には、ドラゴンの遺伝子を受け継いだルジー
ナさんがいる。カフ
ェ
・ルジー
ナの店主で、カウンター
に立
っ
て僕らに飲み物を振舞
っ
てくれる。ドラゴン
っ
ていうとすごく凶暴な感じがしち
ゃ
うけど、ドラゴンにも凶暴な奴だけじ
ゃ
なく、穏やかな奴も存在していたんだ。ルジー
ナさんはそんな穏やかなドラゴンの子孫だ
っ
た。聞いた話によると、かつて何十万年も前に、歌うことが好きだ
っ
たドラゴンと、火星の表面にまだ国があ
っ
た時の王子が結婚して、二人の間には娘が生まれた。その子孫がルジー
ナさんらしいんだな。歌うことが好きなドラゴンの血を引いているからなのか、彼女もまた歌うことが好きだ
っ
た。それに僕ら客としても、なんだかルジー
ナさんの歌を聴いていると癒される気持ちになるから、彼女の歌をリクエストしたりもするんだ。
僕の後ろを歩く彼は、ケバブを食べながら、僕の隣の席に座
っ
た。
「こんにちは、し
ゃ
ん」
「おう、ルジー
ナちん。こに
ゃ
に
ゃ
ちわー
」
ルジー
ナさんは僕の隣にいる火星人に声を掛けた。どうやら彼の名前はし
ゃ
ん
っ
て言うらしい。とても可愛らしいネー
ミングだと思う。
「彼もこの店の常連なの?」
僕がそう訊くと、ルジー
ナさんは苦笑しながら「ええ。でもいつもお金を払
っ
てくれないの」と言
っ
た。
「むははー
高貴なる僕ちんはお金を払わずに食べてもいいのだー
」
彼はそう言
っ
て、カウンター
の中に入り込んで、酒を飲み始める。普通ならこういう横暴な奴
っ
て許せないと思うんだけれど、なんだかし
ゃ
んがやると憎めないと言うか、まあいいか
っ
て気持ちになる。そこがし
ゃ
んの凄い所ではあるんだな。
僕はカフ
ェ
の中央でみたらし団子でジ
ャ
グリングする人たちを見つめながら、ドラゴンの涙で沸かしたコー
ヒー
を頼んだ。
「はい。ドラゴンコー
ヒー
よ」
僕の元に出された、見ていると吸い込まれそうな薄茶色の液体がドラゴンコー
ヒー
だ
っ
た。もちろん本当にドラゴンから零れ落ちる涙で沸かしているわけではなく、火星の地下にあるルー
ネス湖で取れる水が、ドラゴンの涙と呼ばれているんだ。かつて大昔にドラゴンが住んでいた土地であり、未だにドラゴンの涙のように透き通
っ
た水を湧かせているから、そう呼ばれているらしいね。
僕とし
ゃ
んはカフ
ェ
でお互いの事を語りあ
っ
た。語り合
っ
たと言
っ
ても、彼は本当か嘘か分からないようなジ
ョ
ー
クともつかないことを語
っ
た。例えば、彼はビ
ッ
グバンが起きた時からこの世界に生きていて、何億年もの間、この世界をさ迷い続け、様々なものを見てきたらしい。
かつての水星で、蛙の一族が惑星を支配していた時代。彼らは様々な惑星に侵攻し、様々な生物たちを殺してい
っ
た。そして仕舞いには同じ種族で殺し合いにな
っ
て滅亡した。
土星にはさまざまな樹が暮らす時代があ
っ
て、彼らは妖精と共に、星を色とりどりの植物で彩
っ
た。そのせいで他の惑星の生物たちが美しい植物を奪いに来て、結局土星は荒れ果てた地にな
っ
てしま
っ
た。土星を覆
っ
ている輪
っ
かは、殺された彼らの魂がそれでもあの土地を守ろうとして輪にな
っ
たものらしい。
遥か遠くにあるガニメデ星では、テレビを付けろ! という言葉と共にし
ゃ
んが作動させたレー
ルガンが、とある恒星を破壊した。これは宇宙の大ニ
ュ
ー
スとな
っ
て、宇宙警察に連行されたし
ゃ
んは、おかし代を月450円までとしなければいけない刑に処された。し
ゃ
んは三年間、月450円のおかし代で午後三時をやりくりしなければいけなか
っ
たので、お腹が減
っ
て仕方なか
っ
た。それで紫陽花のせいにしてパンを盗んだりした。紫陽花のせいにしても警察官はうそ発見器ver127(ベー
タ版)を持
っ
ていたので簡単に見破られてしま
っ
た。おかげで毎日牛乳を飲まなければいけない刑にも処されて、牛乳が苦手なし
ゃ
んはお腹を壊すことにな
っ
た。
僕らはお互いにくだらない事ばかりを話したけれど、それでもそれは何より楽しい時間だ
っ
た。地球でのしがらみなんてあ
っ
という間に忘れる事が出来た。もう一度地球に帰
っ
て頑張ろうと思えた。
し
ゃ
んは別れ際に「今日は宇宙でも
っ
とも高貴な生命体であるボクちんが生まれた日なのだー
。でも、あまりに高貴すぎて、政府は祝祭日を作ることさえ遠慮しているのであー
る。そこで君に使命をあたえまー
す。また六月に僕ちんの元にや
っ
て来て、僕ちんをお祝いしなければいけない刑に処すのであー
る。これは絶対に守らなき
ゃ
いけに
ゃ
い!」
そして僕は地球に帰
っ
て、また彼のいる火星に行くのを心待ちにした。
きたる翌年の六月。
明日は彼の誕生日だ。嘘か本当か分からない彼の誕生日に向けて書いた、くだらない小説を持
っ
て、僕は彼に会いに行く。まあ僕のプレゼントごときで彼が喜ぶとは思えないけれど、書いてしま
っ
たものは仕方ないし、別にいいんじ
ゃ
ないかな。彼はまたてきとー
な言葉を言
っ
て、なんだかんだで励ましてくれるさ。
そして僕は壊れたようなボロボロのシ
ャ
トルに乗
っ
て、薄
っ
ぺらい地球を飛び出した。
そして誕生日の彼の元には、愛情のこも
っ
た6文字の手紙やらなんやらが、たくさん送られてきたとかこないとか。
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