しゃん様生誕祭 6月に祝日を作ろう大賞
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火星までスペースシャトルを
投稿時刻 : 2015.06.11 03:33 最終更新 : 2015.06.15 02:31
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火星までスペースシャトルを
古川遥人


 君は宇宙でいちばん高貴な生命体を知っているかい? 僕は実際に彼に会ったことがあるけれどね、彼はとてもユニークで気の良い奴なんだ。いささか自分の本性をユニークさに隠してしまうきらいはあるけれどね。
 彼と出会ったのは、地球にうんざりして火星にシャトルを飛ばした時のことだった。今では火星に飛ぶ奴なんてあんまりいないんだけれどさ、僕は火星が好きだった。それは理屈じゃなくてさ、感覚的に好きなんだよ。こういうのってあんまりわかってもらえないと思うんだけど、火星のしなびた感じとか、親しみやすさみたいなのが僕は好きなんだな。火星は表面がごつごつとした岩ばかりのすごく寂しい場所なんだけれど、地面に幾つかのハッチが据え付けられていて、それを開けて地下に降りて行くと、最高に華々しい地下都市が広がっているんだ。もちろんタダで行けるわけではないよ。門番に十枚くらいの硬貨を渡して行くんだ。まあ、ディズニーランドみたいな感じで考えてもらったらいいのかな。そんな地下に僕が久しぶりに行った時、彼と初めて出会ったんだ。彼の姿はね、そうだな、伝説の作家トーベ・ヤンソンが描きそうな、丸くて温かみのあるフォルムで、どことなくし自然に愛らしさを覚えちゃうような感じだった。彼は町の中をウロウロ歩いていた。僕を見つけるとさ、彼はとことこ僕の後をついてきて、親しげに話しかけてきたんだ。
「おや、君は地球の人間かにゃー」
 彼はケバブを食いながら、八本の足を器用に操って一人でトランプをしていた。何をやっているのかと訊いたら、一人でババ抜きをしてるって言うんだ。最高にクールじゃないか。僕は一気に彼のことが好きになった。
 僕らは連れだって、ドラゴンの涙で沸かしたコーヒーが飲めるカフェに入った。君はもしかしたら知らないかもしれないけれど、かつて火星にはドラゴンが住んでいた。今ではもう絶滅しちゃっているけれどさ、ドラゴンの遺伝子を受け継いだ火星人は存在している。僕の行きつけのカフェには、ドラゴンの遺伝子を受け継いだルジーナさんがいる。カフェ・ルジーナの店主で、カウンターに立って僕らに飲み物を振舞ってくれる。ドラゴンっていうとすごく凶暴な感じがしちゃうけど、ドラゴンにも凶暴な奴だけじゃなく、穏やかな奴も存在していたんだ。ルジーナさんはそんな穏やかなドラゴンの子孫だった。聞いた話によると、かつて何十万年も前に、歌うことが好きだったドラゴンと、火星の表面にまだ国があった時の王子が結婚して、二人の間には娘が生まれた。その子孫がルジーナさんらしいんだな。歌うことが好きなドラゴンの血を引いているからなのか、彼女もまた歌うことが好きだった。それに僕ら客としても、なんだかルジーナさんの歌を聴いていると癒される気持ちになるから、彼女の歌をリクエストしたりもするんだ。
 僕の後ろを歩く彼は、ケバブを食べながら、僕の隣の席に座った。
「こんにちは、しゃん」
「おう、ルジーナちん。こにゃにゃちわー」
 ルジーナさんは僕の隣にいる火星人に声を掛けた。どうやら彼の名前はしゃんって言うらしい。とても可愛らしいネーミングだと思う。
「彼もこの店の常連なの?」
 僕がそう訊くと、ルジーナさんは苦笑しながら「ええ。でもいつもお金を払ってくれないの」と言った。
「むははー高貴なる僕ちんはお金を払わずに食べてもいいのだー」
 彼はそう言って、カウンターの中に入り込んで、酒を飲み始める。普通ならこういう横暴な奴って許せないと思うんだけれど、なんだかしゃんがやると憎めないと言うか、まあいいかって気持ちになる。そこがしゃんの凄い所ではあるんだな。
 僕はカフェの中央でみたらし団子でジャグリングする人たちを見つめながら、ドラゴンの涙で沸かしたコーヒーを頼んだ。
「はい。ドラゴンコーヒーよ」
 僕の元に出された、見ていると吸い込まれそうな薄茶色の液体がドラゴンコーヒーだった。もちろん本当にドラゴンから零れ落ちる涙で沸かしているわけではなく、火星の地下にあるルーネス湖で取れる水が、ドラゴンの涙と呼ばれているんだ。かつて大昔にドラゴンが住んでいた土地であり、未だにドラゴンの涙のように透き通った水を湧かせているから、そう呼ばれているらしいね。
 僕としゃんはカフェでお互いの事を語りあった。語り合ったと言っても、彼は本当か嘘か分からないようなジョークともつかないことを語った。例えば、彼はビッグバンが起きた時からこの世界に生きていて、何億年もの間、この世界をさ迷い続け、様々なものを見てきたらしい。
 かつての水星で、蛙の一族が惑星を支配していた時代。彼らは様々な惑星に侵攻し、様々な生物たちを殺していった。そして仕舞いには同じ種族で殺し合いになって滅亡した。
 土星にはさまざまな樹が暮らす時代があって、彼らは妖精と共に、星を色とりどりの植物で彩った。そのせいで他の惑星の生物たちが美しい植物を奪いに来て、結局土星は荒れ果てた地になってしまった。土星を覆っている輪っかは、殺された彼らの魂がそれでもあの土地を守ろうとして輪になったものらしい。
 遥か遠くにあるガニメデ星では、テレビを付けろ! という言葉と共にしゃんが作動させたレールガンが、とある恒星を破壊した。これは宇宙の大ニュースとなって、宇宙警察に連行されたしゃんは、おかし代を月450円までとしなければいけない刑に処された。しゃんは三年間、月450円のおかし代で午後三時をやりくりしなければいけなかったので、お腹が減って仕方なかった。それで紫陽花のせいにしてパンを盗んだりした。紫陽花のせいにしても警察官はうそ発見器ver127(ベータ版)を持っていたので簡単に見破られてしまった。おかげで毎日牛乳を飲まなければいけない刑にも処されて、牛乳が苦手なしゃんはお腹を壊すことになった。
 僕らはお互いにくだらない事ばかりを話したけれど、それでもそれは何より楽しい時間だった。地球でのしがらみなんてあっという間に忘れる事が出来た。もう一度地球に帰って頑張ろうと思えた。
 しゃんは別れ際に「今日は宇宙でもっとも高貴な生命体であるボクちんが生まれた日なのだー。でも、あまりに高貴すぎて、政府は祝祭日を作ることさえ遠慮しているのであーる。そこで君に使命をあたえまーす。また六月に僕ちんの元にやって来て、僕ちんをお祝いしなければいけない刑に処すのであーる。これは絶対に守らなきゃいけにゃい!」
 そして僕は地球に帰って、また彼のいる火星に行くのを心待ちにした。

 きたる翌年の六月。
 明日は彼の誕生日だ。嘘か本当か分からない彼の誕生日に向けて書いた、くだらない小説を持って、僕は彼に会いに行く。まあ僕のプレゼントごときで彼が喜ぶとは思えないけれど、書いてしまったものは仕方ないし、別にいいんじゃないかな。彼はまたてきとーな言葉を言って、なんだかんだで励ましてくれるさ。
 そして僕は壊れたようなボロボロのシャトルに乗って、薄っぺらい地球を飛び出した。

 そして誕生日の彼の元には、愛情のこもった6文字の手紙やらなんやらが、たくさん送られてきたとかこないとか。
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