第27回 てきすとぽい杯
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まれによくある
投稿時刻 : 2015.06.20 23:40 最終更新 : 2015.06.20 23:43
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- 2015/06/20 23:43:59
- 2015/06/20 23:40:28
まれによくある
雨之森散策


「どうしてこうなたんだ」
 僕は思わずそう呻き、頭を抱えた。全く予想外の出来事だた。
 大事な商品はきちんと乾燥し、保存しておかねばならなかた。
 そのため、なるべく熱源の近くに配置していた。それなのにどういう理由でかは分からないが、いつの間にか水浸しになていたのだ。
 水濡れ厳禁、と製造元の説明書には記されていたが、水に濡れたらどうなるかまで僕は預かり知らない。
 無理やり乾かせばいいかとも思たが、手を加えたのが落札者にバレた時が怖い。
 とりあえず、僕は急ぎこの商品を落札した男に連絡を取り事態の報告をしなければならなかた。とうぜん、管理する僕のミスとして。
 注文はキンセル、むろん製造元への返品も効かないから僕にとては損でしかない。
 しかし僕の説明を聞いた落札元の男は僕の予想を裏切て随分と鷹揚だた。
「まあ、まれによくあることだから」
 わけの分からないことを言て僕の謝罪を軽く受け流すと、加えて男はその水浸しになた商品を落札価格のまま買い取りたいと言てきた。
「いいんですか? 濡れてますけど」
 すでに商品価値のなくなた代物なのだが、相手はそれでも構わないと言う。
 思わぬ幸運に僕があわてて取引の日取りをメモすると、その反応に満足したのか相手は返事もなく一方的に連絡を断た。
 けく、僕はその男と取引きする日までその台無しになたはずの商品の管理を続けることになた。
 とは言ても、遠目に眺めるだけでいい簡単な仕事だ。小さな石ころひとつを眺めるだけの。
 何日か過ぎ、男と取引するその当日になた。
 僕はあの水浸しの商品をもう一度近くで確認し、慌てて虫眼鏡を机から引張りだした。
 商品価値のなくなたあの水びたしの石ころの表面には、微細な白いカビのようなものがびしりと覆ていた。傷を付けないようそと虫眼鏡を使い表面を覗きこむと、カビに見えた白い物体は意図的に建設された都市のようなものの集合体だた。より度の強い虫眼鏡を使うとどうやら極々微小の生物が作り上げたものらしい。
 水濡れ厳禁がなぜ、こうなたのか。僕は暫く虫眼鏡に目をへばりつかせながら、商品価値のないこの石を即座に買い取りたいと言た男のことを思い返した。
『まれによくあることだから』
 落札者のあの男はこうなる事を知ていたのだろうか。彼にとてはきと安い買い物だただろう。
 もう決められた取引を覆すわけには行かないが、僕はどうにも彼が羨ましくなてしまた。
 きと明日にでも僕は水濡れ厳禁のあの石を並べて、全部びし濡れにしてしまうだろう。
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