てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 3
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一本杉
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2014.05.26 20:40
字数 : 2508
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一本杉
茶屋
俺の部屋には窓が二つあ
っ
て、一つは南側、もう一つは西側についてる。南側は昼間は大抵カー
テンを開けておくんだけど、西側のカー
テンはなるべく開けないようにしてる。西日がきつい
っ
ていうのもあるんだけど、開けるとどうしても一本杉が見えち
ゃ
っ
て嫌なことを思い出しち
ゃ
うから。特に夕方の真
っ
赤な夕日を背にした一本杉を見ると今でも震えが止まらなくな
っ
ち
ゃ
うから。
俺の家の西側はだいぶ遠くまで田んぼが広が
っ
てて、山のすそ野にある町まで何も遮るものがない。一面の緑の意外は電柱と道路、時々農作業のトラクター
とかコンバインが見えるくらいで何の面白みもない。けれどその中でひ
ょ
ろ
っ
と一本だけた
っ
た杉の木が異様に目立つ。その杉は痩せた木で今にも枯れそうな雰囲気なのに台風で大きく揺れても折れる気配はない。まるでミイラかゾンビみたいな木だ。何度かその近辺を通り過ぎた事もあ
っ
たけど、そこだけ異様な空気が流れていてどろ
っ
とした冷たい何かに触れられるような感覚を通るたびに感じた。杉の木の下には今にも朽ち果てそうな小さな祠があるんだけどその戸は南京錠で閉められていて何を祀
っ
ているのかはわからなか
っ
た。
何なのかよくわからない一本杉についてはかすかながら噂もあ
っ
た。あの杉を切ろうとしたものは呪われて死んだだとか、配下に裏切られた戦国武将の首がその下に埋ま
っ
ていて今でも幽霊にな
っ
て現れるだとか、あるいはあそこでは何人も首を吊
っ
ているのだとか。確かにあの杉には奇妙に一本だけ横に突き出した枝があ
っ
て、高さとしても首を吊るのにち
ょ
うど良さそうだからそんな連想が生まれたのかもしれない。
そんな噂が立
っ
ていた当時、俺は高校生で、それなりにそういうオカルト的な話が好きだ
っ
た。友人と夜中に集ま
っ
て駄弁
っ
たりしていると夏なんかには自然と怪談話のほうに話が行
っ
たものだ。そんなある日友人のAが、肝試しに行こうなんて言い出した。その時は俺とA、Bの三人で未成年ながらアルコー
ル修行に励んでいて、変にテンシ
ョ
ンの上が
っ
た俺たちは善は急げとばかりにチ
ャ
リに乗
っ
て一本杉に向か
っ
たのである。茹だるような暑い夜だ
っ
たが、その暑さも一本杉に近づくに従いす
っ
と引いてい
っ
た。その代わり粘着質のある嫌な冷えのようなものが包み込んでくる。当時は自転車で風を切
っ
て走
っ
たから汗が冷えたのだろうぐらいにしか思わなか
っ
た。やけに静かで蝉も鳴いていなか
っ
たように思う。街灯などないのだが、月明かりがあ
っ
たのである程度のシルエ
ッ
トでAとBを識別することはできた。嫌な感覚と月明かりに立つ巨大な一本杉のシルエ
ッ
トは不気味さがあ
っ
たものの結局はそれだけ。肝試しとは言
っ
ても盛り上がるものは何もない。AとBで脅かし合
っ
たりしてみて少しははし
ゃ
いでみたもののすぐに飽きる。Aが言い出した時点で誰も想定していなか
っ
たのが不思議なくらい何もない。俺が、帰ろ
っ
かと言いかけた時、Bがある提案をした。
「祠、開けてみようぜ」
祠とはあの南京錠で閉じられた祠のことだ。
「お、いいねー
」
俺は物を壊すという行為が犯罪ではないかという事が頭によぎり正直あまり賛同したくはなか
っ
たけれど、怖気づいたと思われるのが嫌だ
っ
たから黙
っ
ていることにした。
「あ」
拍子抜けしたようなBの声とともに南京錠はいとも簡単に外れた。南京錠が開いたというよりは南京錠が嵌
っ
ていた金具ごととれたのだ。
「御開帳ー
」
ぎ
ぃ
っ
という軋むような音とともに扉が開かれる。暗くてよく見えなか
っ
たので三人とも目を凝らして覗き込んだ。
「げ
っ
」
Aが小さく悲鳴を上げて飛び退くと俺たちもつられて飛びのいた。
「なんだよ!」
「蛇じ
ゃ
ん!」
「は?」
「中身!蛇!」
祠の中身が蛇だとAが主張するのでBは再び祠を覗き込むとおもむろに手を突
っ
込んだ。そして何やら細長いものを取り出す。
「縄じ
ゃ
ん。これ」
「縄?」
確かにそれは蛇ではなくて縄だ
っ
た。思わず笑いがこみあげてくる。さ
っ
きのAの動作はネタにできると思
っ
たのだ。
「縄
……
?そ
っ
か、貸してみて
……
」
AはそういうとBから縄を受け取
っ
て何やら検分している様子だ
っ
た。
「でもなんで縄なんか祀
っ
てんだ?」
「泥棒が盗んで置いて
っ
たんじ
ゃ
ね?なんか適当に代わりのもの
っ
て感じで」
「でも変な形だな、何つうかカウボー
イとかが持
っ
てるやつ」
「投げ輪だ
っ
け?あとは首吊りの
……
」
Bと縄があ
っ
た理由について話している間、Aは縄を投げるような動作をして、それが枝に引
っ
かかると幹に縄を巻き始めた。
そして徐に幹を登り始めたかと思うと、縄の輪の中に首を通してぶら下が
っ
た。
ぎ
ょ
っ
という不気味な音が響き、俺たちは唖然とした。
Bが首を吊
っ
た。
「やばい!くそ!何や
っ
てんだ」
「持ち上げるぞ!」
俺たちは胴体を持ち上げて息ができるようにしようとしたが、じたばた暴れてどうにもならなか
っ
た。
「くそ落ち着けB!」
「落ち着いてられ
っ
かよ!」
「え?」
Bの声が横からした?下にいる?じ
ゃ
あ首を吊
っ
たのは?
「し
っ
かりしろA!」
「ああもう畜生救急車呼ぶか!?」
Aの声も聞こえる。
「おいち
ょ
っ
と待てよ
……
」
「あ?待つ
っ
て」
「A、B」
「おう!」「何だよ!」
「首吊
っ
てんの誰だよ」
その瞬間、何もかもが止ま
っ
た。もがいていた首吊りも急にピタリと止ま
っ
た。
俺たちは恐る恐る上を見上げる。
ほとんど影しか見えないはずなのにやけにく
っ
きりと見える。白い眼が二つ見開かれ、こちらをじ
っ
と見ている。
ぬち
ゃ
っ
と音がして口が開かれるのが分か
っ
た。
アア゛アア゛ア゛ア
ァ
゛アア
ァ
と不気味な音がそいつの喉から鳴り響く。
俺たちは走
っ
て逃げようとしたのだが、いつの間にか縄が足に絡みついている。
終わ
っ
た。お仕舞だ。
そう思
っ
た瞬間、光が目を覆
っ
た。
「危ないところだ
っ
たな」
変なヘルメ
ッ
トをかぶ
っ
た人たちが大勢や
っ
てきて、首吊りに向か
っ
て光線銃を撃
っ
ている。
ああ、助か
っ
た、と俺は思う。
彼らが来てくれたんだ。
通称、ONE。正式名称はO-おばけ-N-なんか-E-Execute!。
政府が設立した対心霊現象特別部隊だ。
もう安心だ。幽霊は見事に爆発している。
こうして俺は助か
っ
た。
ちなみにAとBは爆発に巻き込まれて死んだ。
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