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小説、それは革命であーる 第1回犬吠埼一介杯
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若さ∞
 投稿時刻 : 2015.08.29 15:08
 字数 : 4368
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若さ∞
永坂暖日


平成十一年七月二十四日(土)
 今日は、近くにすんでいる親せきのおじさんとおばさんとおねえちんがぼくの家にあそびにきました。みんなで夕ごはんを食べて、おねえちんといに花火をしました。
 ぼくはうち上げ花火がすきです。おねえちんは線こう花火がすきだと言たので、ぼくも線こう花火がすきになりました。

平成十一年八月六日(金)
 今日は、近くにすんでいる親せきのおじさんの家に一人でとまりました。親せきのおねえちんとトランプやオセロをしてあそびました。オセロはぼくがぜんぶかちました。おねえちんがすごくほめてくれました。

平成十一年八月十二日(木)
 今川くんと大手町くんと森松くんとプールに行きました。ウタースライダーが楽しかたです。
 明日からおじいちんの家に行くので、算数と国語のしくだいをしました。

平成十一年八月三十一日(火)
 しくだいがぜんぶおわりました。自ゆうけんきうもおわりました。読書かんそう文も書きした。絵もかきました。でも夏休みはおわてほしくないです。

    ●

 ぼくは仲村勇司。たん生日は平成四年六月六日。小学校二年生で、もうすぐ八才になる。
 ぼくのお父さんと小夏おねえちんのお父さんがいとこ同しで近くにすんでいるから、小夏おねえちんの家にしうあそびに行ている。小夏おねえちんたちの家ぞくがみんなでうちに来て、いにごはんを食べることもしうある。
 小夏おねえちんはぼくより十五才年上で、とてもきれいでやさしいおねえちんだ。いつもいにあそんでくれるし、小夏おねえちんの家にあそびに行くと、おかしを作てくれることもある。小夏おねえちんの作るおかしはとてもおいしくて、ぼくは大すきだ。
 ぼくがまだ赤ちんのころ、ぼくのおむつをかえたことがあると教えてくれたけど、なんだかぼくははずかしかた。
 小夏おねえちんとぼくは、それだけむかしからずといにいる。ぼくは小夏おねえちんが大すきで、大人になたら小夏おねえちんとけこんしたいと思ている。
 お母さんに、小夏おねえちんとけこんしたいと言たら、「そこはお母さんと結婚したい、て言うところじないの?」とわらた。それから、お母さんはちとまじめな顔になて、小夏おねえちんは九月にけこんするんだよ、と言た。
 お母さんはきとうそを言ているんだ。ぼくはすぐに小夏おねえちんの家に行た。土曜日だから、小夏おねえちんはしごとは休みのはずだた。でも、小夏おねえちんはいなかた。
「おばちん。小夏おねえちんがけこんするて本当なの?」
「あら、勇ちん、お母さんから聞いたの? 今度遊びに行たときに勇ちんにも教えようと思ていたのよ」
……本当なの?」
「本当なのよ。小夏は今日はね、結婚式で着るドレスを見に行ているわ。もうすぐ帰てくると思うから、勇ちん、ここで待とく?」
 ぼくは小夏おねえちんの家で、小夏おねえちんが帰てくるのをまていた。おばちんの言たとおり、小夏おねえちんはすぐに帰てきた。げんかんの前でまていたぼくは、小夏おねえちんが見たことのない車からおりてくるのを見た。お父さんやおじちんがもているワンボクスカーなくて、かこいい車だた。
「勇ちん、そんなところでどうしたの?」
 ぼくがいるのを見て、小夏おねえちんはおどろいたみたいだた。ぼくは小夏おねえちんにだきついた。小夏おねえちんは、どうしたの、と言いながらぼくをだこしてくれた。
「小夏おねえちん。けこんするて本当なの?」
「本当よ。今、お姉ちんを送てくれた人が旦那さんになる人なの。今度、勇ちんにも紹介するね?」
 小夏おねえちんはとてもうれしそうな顔だた。小夏おねえちんがそんなにうれしそうにしているのを、ぼくは見たことがなかた。
「そんなの、しなくていいよ!」
 ぼくは小夏おねえちんのうでの中からにげ出した。小夏おねえちんがよび止めたけど、ぼくは走て家に帰た。小夏おねえちんが知らない人とけこんするのがかなしくて、ぼくは家にかえてからもずとないていた。
 小夏おねえちんに会いたいけど、会いたくない。この間までしう小夏おねえちんの家にあそびに行ていたのに、ぼくはすかりいかなくなてしまた。
 でも、ぼくの八才のたん生日に、小夏おねえちんがぼくの家にケーキをもてやて来た。小夏おねえちんに会うのは三週間ぶりくらいで、小夏おねえちんに会うのはやぱりうれしかた。
「誕生日おめでとう、勇ちん」
……ありがとう」
 ひさしぶりに会うのはちぴりてれくさい。でもうれしくて、小夏おねえちんが作てくれたケーキのローソクをふきけすまで、ぼくは小夏おねえちんにだこしてもらた。
「小夏おねえちん、すごくおいしいよ」
「ありがとう。勇ちんのために、頑張て作たんだよ」
 小夏おねえちんが作てくれたケーキはおいしかた。お父さんもお母さんも、おいしいと言いながら食べていた。
「あのね、勇ちん。お願いがあるんだ」
 ケーキを食べおわたあと、小夏おねえちんがいた。
「うん。小夏おねえちんのおねがいなら、ぼく、なんでもするよ」
「ありがとう。あのね、お姉ちんの結婚式の時、勇ちんにドレスのベールを持てもらいたいの。できるかな?」
 したくなかた。小夏おねえちんがけこんするのもいやなのに。でも、小夏おねえちんのおねがいだから、ぼくは、うんて答えた。小夏おねえちんはとてもうれしそうだた。
 
 ぼくは小夏おねえちんが大すきだ。ずとずと前から大すきで、おとなになたら小夏おねえちんとけこんしたかた。
 おぼんの時、お父さんのおじいちんの家にとまりに行た。おじいちんの家はほんけだから、小夏おねえちんたちやほかのいとこたちも来ていた。小夏おねえちんのけこんしきまであと一月くらいだから、その話でもちきりだた。
 夏休みがおわたら、小夏おねえちんがけこんしてしまう。けこんしたら、小夏おねえちんは家を出ると言ていた。となりの市に引こしてしまうから、今までみたいには会えなくなてしまう。小夏おねえちんがけこんするだけでもかなしいのに、今までみたいに会えなくなるなんて、もとかなしい。
 ずと夏休みのままだたらいいのに。そうすれば、ぼくはまいにち小夏おねえちんと会えるし、線こう花火もできるのに。
 おじいちんの家には、小夏おねえちんのだんなさんになる男の人もやて来た。お父さんやおじちんよりもせが高くて、クマみたいに大きかた。
「正博さん、この子が結婚式でお手伝いをしてくれる勇司くんよ」
「初めまして、勇司くん。前田正博です。お手伝い、ありがとうね」
 クマみたいな人はしがんでぼくの頭をなでようとした。ライバルにそんなことはされたくないから、ぼくはさとよけてやた。
「べつに、小夏おねえちんのおねがいだから手つだうだけだよ!」
 クマにあかんべーをして走てにげたら、あとからお母さんとお父さんにおこられた。でも、クマはぼくのてきだ。仲よくしてねて小夏おねえちんにも言われたけど、小夏おねえちんのおねがいでも、それだけはきけない。
「小夏おねえちん、どうしてあの人とけこんするの?」
 クマがかえたあと、ぼくは小夏おねえちんに聞いた。小夏おねえちんのタイプがクマみたいな人なら、ぼくもそうなるようにがんばるつもりだた。
「この人とならずと一緒にいたいなて思たからよ」
「ぼくとはいにいたくないの?」
 シクだた。クマみたいな人とは、二年前に知り合たらしい。ぼくはそれよりずと前から小夏おねえちんといにいるのに。
「そんなことないよ。でも、勇ちんと一緒にいるのと、正博さんと一緒にいるのは、ちと違うの。勇ちんも大きくなたら、分かるよ」
 ぼくには、どうちがうのか分からなかた。今のままでも、ぼくは小夏おねえちんとずといにいたい。大きくなても、それはぜたいにかわらない。

 けく、夏休みはおわてしまた。二学きがはじまて、すぐに小夏おねえちんのけこんしきの日になた。
 白いドレスをきた小夏おねえちんはとてもきれいだた。ぼくは、やぱり大人になたら小夏おねえちんとけこんしたいと思た。
 クマは一りうの会社ではたらいていて、スポーツ万のうで、みんなの人気ものらしい。小夏おねえちんがずといにいたいて思たなら、ぼくもクマみたいな大人になるよ。ぼくは、クマとちがてみ来があるんだ。だから、今からいぱいがんばれば、小夏おねえちんがクマよりもぼくといにいたいておもうようなおとなになれるんだ。

    ●

「子供の頃、本気でそう思たんだよなあ」
 俺は肩をすくめて笑た。
「まあ、本気で思たから、本気で頑張たけど」
 彼女を見て、遠い昔の記憶にある姿より綺麗だと思た。
「三つ子の魂百まで、てやつね」
 白いドレス姿の彼女が、どこか呆れたような顔で笑う。花嫁衣装だが、十六年前よりも落ち着いたデザインなのは、これが二度目の花嫁姿だからだ。
「いいや。子供の秘める可能性は無限大、てやつだよ、小夏」
 白いタキシードに包まれた胸を反らす。
 幼い頃の決意通り、俺はとにかく頑張た。勉強もスポーツも励み、友達付き合いもおろそかにしない。その結果、誰もが名前を知る会社に就職し、積年の思い人をとうとう射止めたのである。
 俺は初婚、彼女は二度目。結婚式といても身内だけのこぢんまりしたものだ。
「せめて小夏さんて呼んでよね」
「いいじん、夫婦になるんだから呼び捨てで」
 俺が、彼女を小夏おねえちんと呼ばなくなたのは高校生の時だ。小夏が、クマみたいな旦那と離婚したあとからだ。離婚は、クマの浮気が原因だた。
――まさか、おむつ換えたこともある子と結婚するなんて、人生何があるか分かんないわね」
「俺はあんまりそう思わないな。小夏と結婚するために、子供の頃から頑張てきたから」
 とはいえ、自分の思い描く未来を実現するのは容易ではなかた。小夏が俺のことをいつまでたても「親戚の子」と思ていたのがいちばん厄介だた。やれ赤ちんの頃から知ているから男として見られないだの、十五歳も年下だの、バツイチをからかうんじないだの、モテるんだからもと若い子の方がいいんじないのだの、一筋縄ではいかなかた。
 それでも、こうして結婚に漕ぎ着けたのだ。「親戚のおねえちん」と「親戚の子」という関係は大きく変わる。
 お時間です、と式場の人が呼びに来た。
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