聞け、この秋鳥取には
東京の人は島根と鳥取の区別がつかないと言われているが、そんなの嘘に決ま
っていると思っていた。だってそうだろ、日本の都道府県なんて小学校の時に習わないか? 世の中に九九の7の段が言えない人間がいるように、島根と鳥取の区別がつかない人間がいても不思議はない。しかし、そんなのは非常識だし、数は至って少ないはずだ。実際に東京に出て来るまで、僕はそう信じて疑わなかった。
大学への進学を機に上京したまではよかったが、鳥取出身であることを告げると、「島根?」と聞き返されたり、「砂漠のあるところ?」と真顔で尋ねられたりする。「鳥取って、ほらこういう食べ物ある?」と言いながら、カツカレーを見せびらかされたこともある。一体、何なんだ、こいつら?
中には、「二十世紀梨はすばらしい」とか、「鳥取砂丘ではラクダに乗れるらしいが、日本でラクダに実際に乗れるのはまれだ」とか、「鳥取でラジオを聞くと、韓国の放送ばかり入るので韓国語の勉強にはもってこいだ」などと無理矢理にでも褒めてくれる人もおり、それを聞くと僕だってまんざらではなかった。特に僕が一目惚れしてしまったYさんなんて、自分も秋田出身なのに、「鳥取には雪が降るのね。素敵」などと言ってくれる。
しかし反面、とことん鳥取をバカにして来るやつもいた。島根出身のKである。一体、何の恨みがあるのやら、Kはことあるごとに鳥取をけなしにかかるのだ。「鳥取にはろくな新聞や銀行、テレビ局がなく、島根県頼みだ」とか、「米子市民の憧れの職業は島根県庁に勤めることだ」などといつもうるさい。「島根の方が広島とつながりが深い」って、おい、それは自慢になるのか。そして極めつけはこれ。
「鳥取にはセブンイレブンがないもんな」
僕は下宿に帰り、布団をかぶって泣いた。島根と鳥取はテレビ局がかぶっているので、セブンイレブンのCMは流れる。しかし、Kの言う通り、鳥取にはセブンイレブンがない。
ついさっきの話だ。Yさんと話をしていたら、いつものようにKが割り込んできた「鳥取にはセイブンイレブンが」と言い始めた。すると隣で聞いていたYさんが自分のスマホを取り出し、何やら操作したあと、画面をKの鼻先に突き付けた。途端にKの顔が青ざめる。気になって僕もそのスマホの画面を覗き込んだ。[※ここに挿絵]お父さん、お母さん。鳥取に産んでくれてありがとう! 鳥取バンザイ! この秋、鳥取にもとうとうセブンイレブンがオープンするのだ!