第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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理想の彼氏
(大沢愛)
投稿時刻 : 2015.08.15 17:04
字数 : 1000
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理想の彼氏
大沢愛


 女子会で「理想の彼氏の身長」が話題になった。
 好き勝手に言い合ううちに、私の隣に座った真由が言った。
「40㎝高いひとがいいー」
 真由の身長は165㎝だった。微妙な空気に気づかないのかにこにこ笑っている。ちょっと舌足らずの口調で女の子からはいつも陰口を言われる。私に縋って来るうち妹分として認知されてしまった。
「アンタ、それ本気で言ってるの?」
 うん、と笑う。また反撥を食う。あることを思いつく。
「じゃ、いい方法教えてあげるよ。部屋の壁にね、理想の彼氏の条件を紙に書いて貼るの。毎日見ているうちにいつの間にかゲットできるらしいよ」
 周囲の失笑の中、真由は何度も頷く。
「壁に書いて毎日見るんだよ。いい?」
 念を押すと、真由は屈託なく笑った。

 私は170㎝で彼氏の知典は169㎝だった。軽く背伸びしながらキスしてくる顔が可愛くてつい抱き締めてしまう。
「女の子はちょっと長身くらいがいいよ」
 さらっと言うところも好きだった。
 たまに真由と三人で遊ぶときも私と真由を自然に均等に扱ってみせる。
 40㎝の話をすると「あと36㎝あればよかったね」と笑った。

 ある日、私の部屋で知典がシャワーを浴びているとき、知典のスマホが鳴った。何気なく取り上げる。画面には「まゆちゃん」とあった。
 湯気の立つ知典を問い詰めた。覚悟を決めたのか案外、素直に話した。半月前、真由に呼び出されて告られ、そのまま付き合い始めたそうだ。

 部屋に知典を残して、真由のマンションへと向かった。
 ベルを鳴らす。無言の真由に招き入れられた。
 ソファに座らされ、真由はキッチンに消えた。部屋の中を見回す。壁の一部分にかすかにB4の痕がある。
 カップを二つ乗せたお盆を手に、真由が戻ってきた。ダージリンの香りが鼻孔の手前で堰き止められる。お盆をお腹の前に抱えて、真向かいに腰を下ろす。
 しばらく沈黙が続いたあと、真由は意外にはっきりした声で言った。
「私、愛莉みたいに見る目ないから」
 カップを掴み上げて叩きつけなかったのは奇蹟だ。
「だからって人の彼氏を盗っていいのかよ。そこの壁に貼ってたんだろ、205㎝の男、って」
 真由の視線が一瞬、泳ぐ。立ち上がり、制止を振り切ってゴミ箱を取り上げる。畳んだ紙が差し込まれていた。そっと広げる。

〈愛莉の彼氏の知典くん〉

 油性マッキーの太字が容赦なく目に飛び込む。
 おそるおそる振り向く。
 お盆を抱えてうなだれた真由は、かすかに笑っているようにさえ見えた。
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