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第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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ちいさな石の話
大沢愛
 投稿時刻 : 2015.08.15 19:43
 字数 : 1000
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ちいさな石の話
大沢愛


 朝八時に出勤して、夕方六時上がり。
 仕事場所は会社の中庭。
 その人は七月になると現われて、九月になるといなくなる。
 一日中、庭の敷石に立たまま、目を閉じている。
 噂では、時給換算で社長よりも高給取りだそうだ。
 羨みつつも、じあ代るかと言われれば誰しも首を横に振る。

 その人と初めて話したのは七月中旬の朝だた。朝イチ納品のために一時間早く出勤した。入口横の非常口前に真黒に日焼けした作業服姿の男が立ていた。私に気づくと作業帽を脱いで一礼する。頭頂部に見覚えがあた。
「非常口が閉まていて、困てたんです」
 小さいけれども低くて意外に澄んだ声だた。暗証番号をプしてキークスを開け、ドアを解錠する。
「ありがとうございます。助かりました」
 そう言うと、その人は私のあとから社屋へと入た。途中で振り向くと、既に姿はなかた。
 
 次に会たのは夕方の退勤時だた。郵便局に寄るために塀に沿て歩き、角を曲がると作業服の背中を丸めて低く呻いていた。あの、大丈夫ですか。
「はい。ありがとうございます」
 飲みかけのミネラルウターをとさに差し出すと、首を振た。脱水症状ですよ、と言うと、いいんです、と返てくる。
「それが私の仕事ですから」
 
 その人、芳賀さんは毎日、中庭で直射日光に晒され、脱水状態になる。
「結石をね、作るためなんです」
 できやすい体質を見込まれてスカウトされた。毎日検査を受け結石の成長を確認する。自然排石させず数㎝に達したところで衝撃波破砕術を受ける。腎臓そのものにダメージが加わりしばらく血尿が止まらないという。
「そのデータをね、会社が買てるんです。生体実験と言われないよう、あくまでも中庭での作業員として」
 夏の終わりには破砕術や手術のために病院に送られるのだそうだ。
「でもね、そろそろお役御免かもしれません。腎機能が落ちてるんです。数えきれないくらい結石を作て、衝撃波や手術でボロボロにしちいましたからね。移植にも使えませんよ」
 そう言て静かに笑た。

 口止めされたので、それ以上のことは言えない。

 ほどなく、芳賀さんの姿は中庭から消え、入れ替わりに小太りの男性がやて来た。芳賀さんのように直立ではなく、椅子を持参して座たり、新聞紙を被て横たわたりした。
「楽な仕事だな。地獄だけど」
 誰かが言う。
 その通りだと思う。
 どこかしら痛む身体を抱えて、社屋の中を無数の人影が今日も歩き続ける。
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