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第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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死の矢印
みお
 投稿時刻 : 2015.08.15 22:14
 字数 : 1000
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死の矢印
みお


 凄い作品ができたから見てほしい。と、大木が駆け込んできたのは、そろそろ店じまいをしようかとシターを下ろしかけた時のことである。

 子供のようにつやつや光る頬、汚れた眼鏡にだらしなく太た身体。そんな大木の顔を見て私は溜息を押し隠した。けして嫌な奴ではないのだが、突然押しかけて来るのが彼の悪いくせである。
 最も、私が相手をしてしまうのが彼を増長させている原因であろうが……
「店じまいの直前はやめてくれと、何度言たら分かるんだね」
「まあまあそう言わず。今回の発明品を見ておくれ、きと親さんも気に入るだろうからさ」
 大木は半分しまたシターの隙間から滑りこむ。そして机の上の領収書やら大事な書類を払いのけると、彼はそこに大きな眼鏡を置いた。
「これは?」
「聞いて驚くなよ。これは人の殺意を具現化する眼鏡さ」
「殺意?」
 突拍子の無い言葉に私の声は裏返る。大木はトンデモな発明品ばかり生み出す似非発明家である。だいたいはガラクタであるが、時々便利なものを発明することもある。それを買い取るのが私の仕事であた。
「どんな風に見えるんだね」
「まあお聞き。立派な発明にまず前口上が必要だ」
 大木は眼鏡を弄びながらにやにや笑う。
「これをかけると、人から寄せられている殺意が矢印になて見えるようになる。つまり、自分に向かてくる矢印があれば、誰かが自分を殺そうと思ているてこと……
「悪趣味だな」
 しかしそれが本当ならば事前に命の危機を防ぐ事ができるということだ。俄然、興味の湧いた私はそれを恐る恐ると掛けてみた。
……
 目前に見えたのは天からますぐに私を貫かんと降り落ちてくる、赤に黒に青の様々な矢印だ。私は驚きのあまり尻餅をついた。
「随分恨まれてるみたいだな」
「驚かしこなしだぜ」
 慌ててて眼鏡を外そうとした刹那である。大木の顔がぐにりと歪んだ。手に取ているのは彼が先ほど払いのけた書類の一枚。
「親さん、この発明。到底買えない三流品だて散々こき下ろして挙げ句、親さんの所で捨てられた……
 大木の顔が赤くなり青くなり、どす黒い色で覆われていく。
「なんでその特許がここに、あるんだ?」

 その時私は遅まきながら、この発明品の弱点を知た。
 ……つまり目前に差し迫た殺意に対しては、理解はすれども身体が動かない。急場はしのげない。
 赤く染まる巨大な矢印が私を貫く、同時に大木がナイフを掲げるのが見えた。
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