第4回 てきすとぽい杯
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羽ばたく季節
投稿時刻 : 2013.04.13 23:35 最終更新 : 2013.04.13 23:41
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- 2013/04/13 23:41:51
- 2013/04/13 23:35:55
羽ばたく季節
おぢさんプリン10億円


「アキラ、わたしわかた」
 カオリが上機嫌で微笑みかけてきた。彼女はあどけない顔とは裏腹に、この学園始まて以来の天才と言われている。
 よく課題を手伝てもらうけど、決して答えそのものを教えてはくれない。
 僕に問題の本質を理解させてくれるんだ。だから僕は彼女に頭が上がらない。
 それにカオリの話は面白いし、僕の方までウキウキした気分になて彼女の話に乗てみた。
「何がわかたの? 天才のお話うかがいましう」
「それでこそアキラ!」
 カオリは一枚の紙を取り出した。紙には黒い線で大雑把な樹木らしいものが描かれていた。
 枝の先には星やハート、月といた抽象的ともいえるシンボルが付いている。
 僕には意味がわからない。
「何かの系統樹?」
「ある意味そう! やぱりアキラは飲み込みが早いね」
 放課後の教室、僕の机の上にイラストを置き、カオリはいくぶん興奮したように続ける。
「まず、一番下の線、これがカオスね。なんでもあてなんでもない原初の状態よ」
「ふん?」
「そして星々が形作られた。最初の幹が出てるでし?」
「なるほど」
「そこから枝分かれしてハートが出てるのも意味があるの。星が形作られてから人が誕生して、心が生まれた……
「人までの生物は無視?」
「そこよ! 聞いて欲しかたのは!」
 カオリは興奮した様子で身を乗り出してきた。
「見て! 残りのシンボル、月、涙、そして唯一神は……
「え? 一番上て太陽じないの?」
 カオリはちと気落ちしたような表情を見せて言た。
「太陽は星でし? 続きを聞いて」
「う、うん……
 唯一神なんてどこから出てくるのかわからないけど、ここはカオリの話を聞いておこう。
「で、残りのシンボルはみんなハートの枝から枝分かれしてるでし? ここがポイント。星を月と呼ぶのも、涙を流す対象が存在するのも、唯一神が力を持ていられるのも、みんな人の心が概念を形成しているからなの!」
「ほ、ほう……
「これがどういう意味か、わかる?」
 カオリの目はいつの間にか血走ていた。僕は心を落ち着かせながら、率直な意見を述べる。
「言てる意味はわかるけど、なぜカオリがそんな話をするのかわからない」
「まあいいわ。世界のほとんどは人の心が作ているということよ……。そこでこれ」
 カオリは右手を背後に回した。衣擦れのような音がしたと思た直後、僕の左肩に大きなナタが振り下ろされていた。
 目にも止まらぬ素早さで。ナタはもちろんカオリの右手に握られていた。
 心理的な衝撃で、まだ痛みを感じない。
 僕はろれつのまわらない舌でなんとか言た。
「な、なんで……
 カオリは凄絶な微笑みを僕に向ける。
「人を消せば、宇宙のほとんどは消えるてことよ。それがわたしの発見。じ、アキラ」
 カオリは湿た音を立てながら、僕の肩からナタを引き上げる。
 そして僕が抵抗の動きを取るよりも早く、何度もナタを振り下ろした。哄笑を上げながら。
 激痛に包まれ、もう自分の身体の位置もわからず、視界は黒く失われた。
 ただ彼女の悲鳴じみた叫びだけが聞こえる。
「神を殺す! 神を殺す! 次は星を潰す!」
 それから突如、大きな翼の羽ばたきのような音が聞こえた。
 僕が最後に知覚できたものはそれだた。
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