第4回 てきすとぽい杯
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不帰迷宮
投稿時刻 : 2013.04.13 23:28 最終更新 : 2013.04.13 23:34
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- 2013/04/13 23:34:36
- 2013/04/13 23:28:47
不帰迷宮
塩中 吉里


 闇の血が滴る地下迷宮に潜て早三日。女は一人暗闇の中を進んでいる。
 四日前、女はまだ外の世界にいた。三日前、女は炎の指を持ているという理由で、借金の形にこの迷宮へと送りこまれた。二日前、女と同じく迷宮の奥を目指していた探索隊は、残らずいなくなてしまた。
 暗闇の中にあては死ぬまで燃え続ける赤熱の指は重宝されるのだという。彼女はトーチという呼び名をつけられて、両脇を護衛に固められ、先の見えぬ迷宮の先導を強制されていた。探索隊の人数は総勢百名弱。大隊を編制していたものの、初日の、迷宮浅部で突如としてあぎとをひらいた地割れに半数を呑みこまれたのを皮切りに、影の魔物や、またぞろ地下へと続く奈落の穴が、勇敢な救国の勇者たちを帰らぬものと変えてしまた。女の現状のきかけは、国王の無慈悲な号令にさかのぼる。

 曇天の晴れぬ空がもうずと続いている。太陽の失われたこの国に、もう一度光を取り戻すのが汝ら探索隊の使命である――

 太陽は迷宮の奥底に封されている。国一番の占者が予言したたた一枚の図案のために、国中の屈強な男たちが集められた。それこそはこの国に古来より秘されてきた不帰の地下迷宮の地図。最奥に、双子の太陽の片割れがいる。女はたた一人になてしまた今でも、迷宮の最奥を目指しているのだた。

[※ここに挿絵]

 女は指先の炎が消えかかていることを知ていた。炎が消えた時、女は死ぬだろう。食料はほとんど尽きかけている。飢えと渇きが張り付いた体は、ともすれば正しい道順を忘れそうになる。間違えてはならぬ。最初の別れ道を右、次を左、次を右、最後にまた右に行けば、太陽は女を迎えてくれるはずなのだ。そして、女は既に三つの別れ道を越えてきた。女の炎の指を守ろうとして屍と成り果てた男たちを置き去りにして、とうとうここまでやてきたのだ。男たちの断末魔は、幻聴のように女にまとわりついた。皆口をそろえて必ず言た、おれの代わりに太陽を手に入れてくれと。
 ――そのとき、小さな水の音が聞こえた。
 女ははと身じろぎした。力の入らない腕を叱咤して指を前方に掲げた。暗く深い迷宮の最後の別れ道がそこにはあた。水音は、どうやら女から見て左の道から聞こえてくる。喉の奥からよだれがあふれてくる。女は唾を飲んだ。同時に、左の道から聞こえてくる水音も大きくなる。
 女の足は、ふらふらと左に吸い寄せられていた。果たして数刻の後、女の指は迷宮に不似合いな穏やかな水場を照らし出していた。乾ききていた女は、狂喜して水場に飛び込んだ。喉を鳴らして水を飲みこんだ瞬間、女の体は迷宮の壁面に引きずりこまれた。最期の瞬間、女は喉の奥に違和感を覚えていた。
 まるで自分を呑みこんだみたいな。
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