てきすとぽい
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第31回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動4周年記念〉
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〔 作品9 〕
おもひで
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2016.02.21 00:20
最終更新 : 2016.02.21 00:27
字数 : 1857
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2016/02/21 00:27:09
-
2016/02/21 00:20:28
おもひで
住谷 ねこ
みゆきさんは、洗濯物をせ
っ
せと手にと
っ
ては干していたが
急に動きをとめて、今手に取
っ
た洗濯物を凝視していた。
じ
っ
と手に持
っ
て、広げてみて
裏返してみて、伸ばしてみて
その洗濯物には、真ん中あたりに小さな穴が開いていた。
伸ばすと楕円に伸びる穴は手を離すと気が付かないくらいの小さなものだ。
のばしたり戻したりしているうちに穴は少しづつ大きくなる気がした。
白地に薄いピンクの縦じまの入
っ
たそれは、今年、小学校4年になる娘のパンツだ。
そのパンツの丁度、お尻のところ。
犬や猫だ
っ
たら尻尾を出すあたりのところ。
小さな穴。
いつ開いたのかな。
気が付いたからには捨てるのだけど
とりあえず干して乾かしてから捨てたものか
このまま処分したものか
……
みゆきさんは迷
っ
た挙句、それをい
っ
たん干した。
そしてまだ洗濯物を残したまま
部屋にもどり、押入れを開け
ランダムに詰め込まれた荷物をどんどん出し、押しのけ
ごそごそと奥の方から一冊のアルバムを取り出す。
みゆきさんの小学校の卒業アルバム。
結婚するときに、あなたの歴史なんだから持
っ
ていきなさいという母に
こんなものを持
っ
ていかなくてもいいのではないかと言
っ
たことを思い出す。
持
っ
てきておいてよか
っ
たのかな。
もう見ないと思
っ
たけど。もしなか
っ
たら今の私は実家に戻
っ
たかもしれない
そう思いながらそして自分のクラスのペー
ジを開く。
はしからひとりづつ目で追
っ
ていく。
真ん中あたりにいた。
クラスで一番かわいか
っ
た山本朱里ち
ゃ
ん。
そして、もう一人。
彼は当時、癇癪持ちですぐ泣きながら怒
っ
ては教室を飛び出していくような少年で
いじめにあ
っ
ていたというほどではなか
っ
たが結構からかわれていた男子で
松川ヒロムくんという。
どうでもいいことなのにその時の光景はいまも鮮明に思い出せる。
私の隣の席が松川くんで私の前に朱里ち
ゃ
んがいた。
朱里ち
ゃ
んが立ち上がり少し前かがみにな
っ
たとき
パンツが丸出しになり、それはただの白い木綿のパンツだ
っ
たんだけど
小さな穴があいていていた。
あ、穴が開いている。と思
っ
た瞬間
その穴を鉛筆がつついた。
松川くんだ
っ
た。
いきなりお尻に鉛筆をさされた朱里ち
ゃ
んはび
っ
くりして振り向き
えんぴつを持
っ
て固ま
っ
た松川くんを見た。
何が起きたかわか
っ
ていたのは私と鉛筆を突き立てた松川くんと被害者の朱里ち
ゃ
んだけだ。
異変に気が付いた先生がどうしたの?ときくと
朱里ち
ゃ
んは、松川くんを指さして「松川くんが私のおしりをえんぴつでつついたんです!」と
怒りをあらわに訴えた。
先生は、松川くんに「そうなの?本当なの?」ときく。
松川くんは、素直に「ごめんなさい」とあやま
っ
た。
罪を認めた松川くんに先生はさらにたたみかけるように聞いた。
「どうしてそんなことしたの?」
松川くんは答える。
「パンツに穴が開いてたから、さしてみたくな
っ
たんです」
クラス中が固ま
っ
た。
凍
っ
た空気をやぶ
っ
たのは朱里ち
ゃ
んの悲鳴のような声だ
っ
た。
「穴なんか開いてないもん
っ
」
そしてワ
ッ
とその場で泣き伏した。
先生は困
っ
たように、松川くん、いい加減なことを言うんじ
ゃ
ありませよと叱
っ
た。
それで黙ればよか
っ
たのかもしれないが、松川くんは
「本当に開いていた」と執拗に主張し始めたのだ。
もちろん、もう一度見せろというわけにもいかず
松川くんがいたずらをしたということで収束したが
その後も松川くんは、朱里ち
ゃ
んのパンツに穴が開いていたのだと
しつこく言い続けていた。
それはときどき思い出したように松川くんは呟いていた。
もちろん誰も相手にしないし、誰も信じなか
っ
たけれど。
卒業式の帰り道。
松川くんは私を追いかけてきてそして言
っ
た。
「みゆき、おまえ、ほんとは知
っ
てるだろ? お前も見たよな? 朱里のパンツの穴」
もちろんだよ。
みたよ。
し
っ
かりみた。
目も大きくて、髪も長くて綺麗な服をきたかわいいあかりち
ゃ
んの
くたびれて黄ばんだパンツとそこにあいた小さな穴。
でも 私はだま
っ
ていた。
松川くんは、自分の見たものにだんだん自信がなくな
っ
てきたのだろうか?
おまえもみたよな? あいていたよな?
私がひとこと あいていたよといえば彼は救われたのだろうか?
みゆきさんはしばらく、松川くんを指でなぞり、朱里ち
ゃ
んをなぞり
は
っ
と気が付いてアルバムをぱたりと閉じると
テー
プの巻き戻しのようにアルバムを奥にしまい出した荷物を
どんどん押入れにもどし、またベランダにでて続きの洗濯物を干した。
そしてい
っ
たん、部屋にもど
っ
たが
もういちどベランダにでて娘のパンツをはずすと
スー
パー
の袋にぽいと入れてそのままゴミ箱につ
っ
こんだ。
了
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