てきすとぽい
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お題リレー小説
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…
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6
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〔 作品8 〕
ちかみち
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2016.04.10 16:20
最終更新 : 2016.04.10 16:25
字数 : 5383
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2016/04/10 16:25:46
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2016/04/10 16:23:32
-
2016/04/10 16:20:32
-
2016/04/10 16:20:01
ちかみち
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
ユー
キくんはいつまでもあたしの隣にいてくれるんだと思
っ
ていた。だ
っ
て、あたしたちがうんとうんと小さい、お互い物心がついたようなときから、ず
っ
と一緒だ
っ
たんだもの。あたしがクラスのいじめ
っ
このサトミち
ゃ
んに嫌なことを言われて泣いてたとき、ユー
キくんはあたしが泣き止むまで黙
っ
て隣にいてくれたし、ユー
キくんがお母さんに叱られて家を飛び出して来たときも、お母さんたちが心配して近所を探し回
っ
ている間、あたしたちは公園の木陰で息を殺してた。
だから4年生にな
っ
て集団下校のグルー
プが解散にな
っ
ても、あたしたちは一緒に家まで帰るんだと思
っ
ていたのに、途中で突然高学年の男の子たちに交じ
っ
て、ユー
キくんがいつもと違う道を行こうとしたときは、泣きそうにな
っ
た。
「だめだよ、そ
っ
ちは先生に決められた道じ
ゃ
ないよ」
小声でそう言
っ
たら、ユー
キくんは少し迷うようなしぐさをして、
「平気だよ、おいでよ」
と言
っ
たのだけど、そうしたら、名前の知らない6年生の子が、
「おい、女子は連れて行かねー
ぞ」
と言
っ
たので、ユー
キくんはそれ以上何も言わないで、あたしに背を向けて行
っ
てしま
っ
た。あたしは遠くな
っ
ていくユー
キくんの黒いランドセルをじ
っ
と見つめて立ち尽くした。いつもの大通り沿いの道は、横を車が沢山走
っ
ていて、うるさくて、ユー
キくんたちの行
っ
た道は、一度も足を踏み入れたことのない静かな住宅街の細い道だ
っ
た。こ
っ
ちの方が近道なんだ、と上級生は言
っ
ていて、確かに、学校に決められた通学路は本当は遠回りなんだと前にパパとママが言
っ
ていたけど、でも、学校で決められていない道を通
っ
てはいけませんと言われていたから、あたしは怖くて、行く気になれなか
っ
た。でも車の通りの多いうるさい大通り沿いの歩道を一人ぽ
っ
ちで歩いていると、とても胸がき
ゅ
うとな
っ
て、一人ぽ
っ
ちでいるのは、知らない道を誰かと行くよりもも
っ
と怖いと思
っ
て、あたしは慌てて、来た道を引き返して、さ
っ
きユー
キくんたちが曲が
っ
た角を曲が
っ
た。
細い道は曲がりくね
っ
ていて、もう誰もいなか
っ
た。あたしは泣きそうになりながらそこを走
っ
た。知らない道を走
っ
ていると、どきどきして、息が上が
っ
て、目の前がかすんできた。とうとう路地が突き当りにな
っ
て、あたしは立ち止ま
っ
た。アスフ
ァ
ルトの道が途切れて、背の高い雑草が生えていて、その向こうに大粒の茶色い石が敷き詰められていて、それからその先に、どこまでも真
っ
直ぐに伸びているレー
ルが現れた。線路だ
っ
た。踏切じ
ゃ
ない線路を渡
っ
たことはなか
っ
た。多分、ここを横断するのはいけないことなんだと思
っ
たけど、多分、ユー
キくんたちはここを渡
っ
て、その先のまた別の知らない住宅街の小道を抜けたんだ、と思
っ
たので、あたしは、この線路を渡りたか
っ
た。
握
っ
た拳が震えて、滲んできた目元をぬぐうと、あたしは雑草をかき分けて、前に進んだ。ゴム製の靴底越しに、線路の砂利の、ごつごつした感触が伝わ
っ
て来て、足が震えた。電車が来るかもしれないから速く渡
っ
てしまわないと、と思
っ
たけど、歩きづらいし、怖くて足が思うように動かなか
っ
た。もたもたしているうちに、レー
ルに躓いて、あたしは転んだ。レー
ルの下の木の部分に手を突いた。ち
ょ
っ
と湿
っ
たような感覚がした。その時、さ
っ
と、あたしの上に影が落ちたのでび
っ
くりして顔を上げた。
「大丈夫?」
中学校の制服を着たお姉さんが立
っ
ていた。知らない人だ
っ
た。長い髪の毛をポニー
テー
ルにしていた。あたしが答えられずに黙
っ
ていると、し
ゃ
がみこんであたしに目線を合わせた。太陽の光がお姉さんの背中の向こうにあるから、ち
ょ
っ
と暗くては
っ
きり見えないけど、とてもきれいな人に見えた。
「こんなところにいたら、電車が来ち
ゃ
うから危ないよ」
お姉さんの口調は怒
っ
ている風ではなか
っ
たけど、自分でもわか
っ
ていることを言われて、あたしは少しだけ悲しい気分にな
っ
た。でも、お姉さんが右手を差し出してきて、ほら、起きて、と優しく言
っ
てくれたので、少しだけ嬉しい気分にな
っ
た。
セー
ラー
服を着たお姉さんはとても大人に見えた。私は生まれたばかりの妹がいるだけで、家族にも親戚にも、セー
ラー
服を着ている人がいないので、そんな歳のお姉さんと身近に接したことがなか
っ
た。早く大人にな
っ
て、大人みたいな服を着たいと夢見ていて、そんな夢見ていた大人みたいな人とお話していると、なんだか、ドキドキするような、むずがゆいような気持ちだ
っ
た。
差し出された手を掴んで、起こしてもらうと、お姉さんはその手を離さなくて、あたしたちは手を繋いで線路を渡
っ
た。おうちはど
っ
ち、と聞かれて、たぶんこ
っ
ち、と指さした方へ歩き出した。歩きながら、お姉さんは、あたしに名前を聞いたり、お姉さんの名前を教えてくれたり、いつもこの道を歩いているの、と聞かれて、あたしは、ううん、ユー
キくんを追いかけてきたの、と答えたりした。
「お姉さんは、いつもここを通
っ
て中学校から帰るの」
とあたしが聞くと、お姉さんは
「この近くに住んでいるの。でも、あの線路は渡らないよ。ち
ゃ
んと踏切のところを通るよ」
と言
っ
た。それから、あたしにも、もう二度とあの線路は通
っ
ち
ゃ
だめだよ、と言
っ
た。あたしが黙
っ
て頷くと同時に、はたと前に目をや
っ
たら、ユー
キくんがいた。あたしの名前を呼んで、それから、何かを言おうとしたようだ
っ
たけど、その前に、お姉さんの方へ視線をや
っ
て、それから、何故だかもじもじと口ごもるようにして、黙り込んだ。あたしは、ユー
キくんの視線を追
っ
て、お姉さんの方を見た。肌が白くて、鼻が高くて、まつ毛が長くて、髪の毛も長くて、黒いポニー
テー
ルの先が、ちらちらと揺れて、太陽の光で髪の毛が少し光
っ
てとても綺麗に見えた。そのとき、あたしはなんだか急に、さ
っ
きユー
キくんを追いかけようと決める前に、道路を一人で歩いていた時よりもも
っ
と、胸がき
ゅ
う
っ
となるような感じがして、ユー
キくんにようやく追いついたのに、何故だか一人のときよりもず
っ
と寂しいような気分にな
っ
て、よくわからないまま、お姉さんと繋いでいた手を放した。お姉さんは不思議そうな顔をしたけど、あたしはそこから目を逸らした。
「こんにちは」
とお姉さんはユー
キくんに向か
っ
て笑
っ
てから、もう一度あたしに視線を戻した。
「お友達が迎えに来てくれたから、二人でおうちまで帰れる?」
優しく言われて、なんだか余計に悲しくな
っ
たけど、あたしは辛うじて頷いた。さようならも言わずに、あたしはお姉さんから走
っ
て逃げるようにした。ユー
キくんは困
っ
たような顔をして、お姉さんとあたしの顔を見比べた後、歩き出した。あたしたちは黙
っ
て歩いた。ず
っ
とうつむいていたから、その後おうちに帰るまでの道を自力で覚えることができなか
っ
た。