お題リレー小説
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投稿時刻 : 2016.04.10 16:20 最終更新 : 2016.04.10 16:25
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- 2016/04/10 16:25:46
- 2016/04/10 16:23:32
- 2016/04/10 16:20:32
- 2016/04/10 16:20:01
ちかみち
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


 ユーキくんはいつまでもあたしの隣にいてくれるんだと思ていた。だて、あたしたちがうんとうんと小さい、お互い物心がついたようなときから、ずと一緒だたんだもの。あたしがクラスのいじめこのサトミちんに嫌なことを言われて泣いてたとき、ユーキくんはあたしが泣き止むまで黙て隣にいてくれたし、ユーキくんがお母さんに叱られて家を飛び出して来たときも、お母さんたちが心配して近所を探し回ている間、あたしたちは公園の木陰で息を殺してた。
 だから4年生になて集団下校のグループが解散になても、あたしたちは一緒に家まで帰るんだと思ていたのに、途中で突然高学年の男の子たちに交じて、ユーキくんがいつもと違う道を行こうとしたときは、泣きそうになた。
「だめだよ、そちは先生に決められた道じないよ」
 小声でそう言たら、ユーキくんは少し迷うようなしぐさをして、
「平気だよ、おいでよ」
 と言たのだけど、そうしたら、名前の知らない6年生の子が、
「おい、女子は連れて行かねーぞ」
 と言たので、ユーキくんはそれ以上何も言わないで、あたしに背を向けて行てしまた。あたしは遠くなていくユーキくんの黒いランドセルをじと見つめて立ち尽くした。いつもの大通り沿いの道は、横を車が沢山走ていて、うるさくて、ユーキくんたちの行た道は、一度も足を踏み入れたことのない静かな住宅街の細い道だた。こちの方が近道なんだ、と上級生は言ていて、確かに、学校に決められた通学路は本当は遠回りなんだと前にパパとママが言ていたけど、でも、学校で決められていない道を通てはいけませんと言われていたから、あたしは怖くて、行く気になれなかた。でも車の通りの多いうるさい大通り沿いの歩道を一人ぽちで歩いていると、とても胸がきうとなて、一人ぽちでいるのは、知らない道を誰かと行くよりももと怖いと思て、あたしは慌てて、来た道を引き返して、さきユーキくんたちが曲がた角を曲がた。
 細い道は曲がりくねていて、もう誰もいなかた。あたしは泣きそうになりながらそこを走た。知らない道を走ていると、どきどきして、息が上がて、目の前がかすんできた。とうとう路地が突き当りになて、あたしは立ち止また。アスフルトの道が途切れて、背の高い雑草が生えていて、その向こうに大粒の茶色い石が敷き詰められていて、それからその先に、どこまでも真直ぐに伸びているレールが現れた。線路だた。踏切じない線路を渡たことはなかた。多分、ここを横断するのはいけないことなんだと思たけど、多分、ユーキくんたちはここを渡て、その先のまた別の知らない住宅街の小道を抜けたんだ、と思たので、あたしは、この線路を渡りたかた。
 握た拳が震えて、滲んできた目元をぬぐうと、あたしは雑草をかき分けて、前に進んだ。ゴム製の靴底越しに、線路の砂利の、ごつごつした感触が伝わて来て、足が震えた。電車が来るかもしれないから速く渡てしまわないと、と思たけど、歩きづらいし、怖くて足が思うように動かなかた。もたもたしているうちに、レールに躓いて、あたしは転んだ。レールの下の木の部分に手を突いた。ちと湿たような感覚がした。その時、さと、あたしの上に影が落ちたのでびくりして顔を上げた。
「大丈夫?」
 中学校の制服を着たお姉さんが立ていた。知らない人だた。長い髪の毛をポニーテールにしていた。あたしが答えられずに黙ていると、しがみこんであたしに目線を合わせた。太陽の光がお姉さんの背中の向こうにあるから、ちと暗くてはきり見えないけど、とてもきれいな人に見えた。
「こんなところにいたら、電車が来ちうから危ないよ」
 お姉さんの口調は怒ている風ではなかたけど、自分でもわかていることを言われて、あたしは少しだけ悲しい気分になた。でも、お姉さんが右手を差し出してきて、ほら、起きて、と優しく言てくれたので、少しだけ嬉しい気分になた。
 セーラー服を着たお姉さんはとても大人に見えた。私は生まれたばかりの妹がいるだけで、家族にも親戚にも、セーラー服を着ている人がいないので、そんな歳のお姉さんと身近に接したことがなかた。早く大人になて、大人みたいな服を着たいと夢見ていて、そんな夢見ていた大人みたいな人とお話していると、なんだか、ドキドキするような、むずがゆいような気持ちだた。
 差し出された手を掴んで、起こしてもらうと、お姉さんはその手を離さなくて、あたしたちは手を繋いで線路を渡た。おうちはどち、と聞かれて、たぶんこち、と指さした方へ歩き出した。歩きながら、お姉さんは、あたしに名前を聞いたり、お姉さんの名前を教えてくれたり、いつもこの道を歩いているの、と聞かれて、あたしは、ううん、ユーキくんを追いかけてきたの、と答えたりした。
「お姉さんは、いつもここを通て中学校から帰るの」
 とあたしが聞くと、お姉さんは
「この近くに住んでいるの。でも、あの線路は渡らないよ。ちんと踏切のところを通るよ」
 と言た。それから、あたしにも、もう二度とあの線路は通だめだよ、と言た。あたしが黙て頷くと同時に、はたと前に目をやたら、ユーキくんがいた。あたしの名前を呼んで、それから、何かを言おうとしたようだたけど、その前に、お姉さんの方へ視線をやて、それから、何故だかもじもじと口ごもるようにして、黙り込んだ。あたしは、ユーキくんの視線を追て、お姉さんの方を見た。肌が白くて、鼻が高くて、まつ毛が長くて、髪の毛も長くて、黒いポニーテールの先が、ちらちらと揺れて、太陽の光で髪の毛が少し光てとても綺麗に見えた。そのとき、あたしはなんだか急に、さきユーキくんを追いかけようと決める前に、道路を一人で歩いていた時よりももと、胸がきとなるような感じがして、ユーキくんにようやく追いついたのに、何故だか一人のときよりもずと寂しいような気分になて、よくわからないまま、お姉さんと繋いでいた手を放した。お姉さんは不思議そうな顔をしたけど、あたしはそこから目を逸らした。
「こんにちは」
 とお姉さんはユーキくんに向かて笑てから、もう一度あたしに視線を戻した。
「お友達が迎えに来てくれたから、二人でおうちまで帰れる?」
 優しく言われて、なんだか余計に悲しくなたけど、あたしは辛うじて頷いた。さようならも言わずに、あたしはお姉さんから走て逃げるようにした。ユーキくんは困たような顔をして、お姉さんとあたしの顔を見比べた後、歩き出した。あたしたちは黙て歩いた。ずとうつむいていたから、その後おうちに帰るまでの道を自力で覚えることができなかた。

 その3日後、ユーキくんはまた下校途中に上級生に会て、あたしを置いて「近道」を行てしまた。
 あたしはその場に立ち尽くして、どうするか考えた。お姉さんのことを思い出して、線路を渡だめだよと言われたことを思い出して、そうしたら、何故だか急に悲しい気持ちになて、あたしはまた、線路に向かて走り出した。背中のランドセルの中でかちかちと、筆箱と教科書がぶつかり合う音がして、そのリズムに合わせて胸がどきどきしてくるような気がした。それから、線路にたどり着いて、あたしは草をかき分けて、レールの上を歩いていたら、
「こらー!」
 と、冗談めかしたお姉さんの声がした。
「また来たの。危ないて言たのに」
 お姉さんはにこにこ笑て、あたしを手招きした。あたしは線路の上にいるのが怖かたので、慌ててそちらに走た。とても自然に手を差し出されて、あたしは思わずそれを握た。
「今日は、一人? 道、わかる?」
 と、お姉さんが聞いた。あたしは首を振た。
「じあ、あのお友達、迎えに来てくれるかな」
「わかんない」
 とあたしは答えた。
「ユーキくんは、また、あたしを一人ぼちにしたの」
 そう言葉にすると、泣き出したい気持ちになた。お姉さんが小さく笑たような気がした。

「ユーキくんのことが好きなんだね」
 あたしはびくりして、激しく首を横に振た。
「ちがうもん!」
「そうなの? でも、ユーキくんはあなたのことが好きだと思うな」
「それもちがうもん、ユーキくんはあたしのこと置いていたもん」
「そういうこともあるよ」
 とお姉さんは言た。あたしはよく意味がわからなくて、お姉さんの横顔をじと見つめた。
「お姉さんは、好きな男の子、いる?」
「うん、いるよ」
 お姉さんはあさりそう答えたけど、あたしと目は合わせないで、どこか遠くを見ていて、もうすぐオレンジ色になりそうな太陽の光を浴びてる頬を見ていると、なんだか落ち着かない気分になた。
「どんな人?」
 と聞くと、お姉さんは今度は照れたように笑て、あたしの方を見た。
「野球部で、背が高くて、とても優しいひとだよ」
 そのすぐ後に、ユーキくんはあたしを迎えに来た。

 朝の会で、中学生が電車に撥ねられた事故が起きたから、気を付けるように、と言われたのはその一週間後だた。
 指定された下校のルートを通るように、踏切のないところで線路を渡らないように、と、怖い顔をして先生が言たので、あたしは、ひやりとして、縮こまていた。でも、あれからずと、あの線路は渡ていなかた。この一週間上級生に会うことがなくて、ユーキくんとあたしはちん決められた下校の道順を通て帰ていた。
 その日は、クラスの子とか、近所の人とお母さんが、死んだ中学生のことについて、たまに噂をしていた。学校ではよそ見をしていて電車に気付かなかたらしいと言われていたけれど、実は中学生は学校でいじめにあていて、線路の上でわざとうずくまていたらしいとか、そういう噂だた。見ていた人がいなくて、よくわからないらしかた。
 あたしは、もしかしたら、死んだ人はお姉さんの知り合いかもしれない、と思て、好奇心で、お姉さんに話を聞いてみたくなて、お夕飯の前に、家を抜け出して、あの線路まで歩いて行た。二回目の帰り道は、ちんと顔を上げて歩いていたので道をはきりと覚えていた。それから、お姉さんに会たあの線路まで来たら、その近くの電柱に、花束が沢山立てかけてあて、それから、その中に色紙が一枚あてそこに書いてある名前を見て、あたしは、その時に初めて、事故現場と被害者が誰であたかを知たのだた。
 息が止まて、足が震えて、それから、辺りを見回したけど誰もいなくて、あたしは怖くなて、慌てて走ておうちまで帰て、でも、おうちに入る前に、ユーキくんの家に寄て、インターホンを押した。
「どうしたの」
 と、困惑気味に聞いた。あたしもなんでユーキくんを訪ねたのか自分でわからなくて、何か言わなくち、と思て、そうしたら、ちと泣きそうになた。
「あのね」
 というと、ユーキくんは頷いた。
「あの中学生の事故、ユーキくんたちの「近道」で起きたて、知てた」
「さき母さんから聞いた」
「もうあそこは通だめだよ」
 少し、ユーキくんは考えているように沈黙してから、頷いた。最初のときみたいに、大丈夫だから一緒に行こうなんて、ユーキくんは言わなかた。それから、自分も行かないから、あたしも行かないように、と言た。あたしは頷いて、バイバイと言た。また明日ね、と言て、それから、あたしは、もう二度とあそこを通らないということについて考えた。そうしたら、お姉さんとは二度と会えないのだ。お姉さんは死んでしまたから。
 あたしは来た道をもう一度走た。お母さんたちがしていた噂について考えた。お姉さんは死にたくて、電車が来るのをレールの上でうずくまて待ていたなんて、なんだか変な感じがした。走ていると息が上がて、胸がどきどきして、学校に帰り道にユーキくんを追いかけたときと似たような気分になた。夕焼け色の太陽もだいぶ暗くなてきた。事故現場には沢山の花ばかりが何も言わずに風に吹かれていた。あたしは辺りを見回して、レールの上に立てみたけど、当然だけど、お姉さんが現れて「危ないよ」なんて言てくれなかた。でもあたしの知ているお姉さんはあたしが事故に遭わないか心配して手を差し伸べて、好きな人がいるよと笑う綺麗なお姉さんで、色紙に書いてある名前はあたしが教えてもらたのと同じ名前だけど、なんだか同じ人のような気がしないのだた。
 あたしはお姉さんが現れないから線路から降りた。電柱にかけられているのは色とりどりの、お花屋さんに売られている綺麗な花で、一日中日に晒されていたからか少し花弁や葉ぱに張りがないような気がした。それから、自分の足元に視線を移すと、茶色いごろごろした石の隙間から、たんぽぽが顔を出しているのに気づいた。薄暗くなてきた中で、それをじと見つめていると、黄色い花びらに、ほんのちとだけ、赤い色で汚れている部分があて、あたしはそのとき、お姉さんはやぱりここにいたのかもしれない、と思て、胸がぎと掴まれるような気分になた。
 あたしは自分の指先に唾をつけて、その汚れをとろうとこすた。


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