第32回 てきすとぽい杯
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インフォメーションボム
投稿時刻 : 2016.04.16 23:30
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犬子蓮木


 0時爆弾が爆発した。
 火柱と煙が吹き上がり、あたりには悲鳴が響いているだろう。
 一番はやかたのはネトだた。近くにいた人間が写真や動画を撮てアプロードした。遅れてメデアがカメラを出す。テレビ局に近いところに仕掛けたので、テレビで放送されるまでさほど時間はかからなかた。
 さらに遅れて、テレビ局が予告状に気づく。
 はじめは悪戯だと思ていたのだろう。
 あまり具体的にかかなかた文面は一発目が現実になるまで、そう取られても仕方がないように書いた。だが、今はもう違う。現実に悪意ある人間が爆弾を用意していることがわかた。だから、予告状の文章を理解できるはずだ。
 ひとつめから24時間後に次の爆弾が、より被害を出す形で仕掛けられていると。
 本来は報道規制がしかれるようなものかもしれない。
 しかし予告状は各所に送られており、一部の軽いネトメデアが予告状を完全に公開したため、もう隠す意味はないほどに広がていた。それによてテレビも追随し、より広範囲に情報が広げられていき、混乱が広がていく。
 要求は海外サーバを通じて公開していた。
 自動で現れるようすでに設定してあるので、もう何をすることもない。
 要求は金ではない。
 否、目的は金銭ではあるのだけど、直接、国や国民からもらおうとは考えていない。必要なのは混乱だた。世界を混乱させれば、それによて利益を得る人間がいる。そして、そこから報酬をもらうことができるというわけだ。
 だからいくらでも情報をばらまいた。
 嘘に差別に、そして正義までも。
 情報は拡散されていく。
 しかし、そこに冷静さはない。
 広がる情報は悪意も善意もどちらもただパニクの餌になるだけなのだ。そのことに気付かない愚か者たちが意味のない情報をいくらでもいくらでも生み出して世に垂れ流していく。
 時間は過ぎていく。
 24時間。
 開始は0時。
 この条件がより人から思考力を奪う。
 人間は弱い生き物だ。
 夜に眠るという古代からの弱点をいまだ克服できていない。これほど明るい夜の街を作れるのに、人間の体はまだ多くのブラクボクスと弱点を抱えている。
 警察に政治家、官僚に消防、自衛隊。
 夜のシフトもあるだろうが、やはりそれは一部の備えでしかなく、本来の全開からは欠けていると言えるだろう。ぐすり8時間睡眠をとて、冷静に考えるという時間は与えていない。
 そして、広がる情報がさらに混乱に拍車をかける。
 誰もが冷静に考えることなく考え、平時であれば選ばないような愚かな答えに手を伸ばす。マニアルに従ていればいいところを、臨機応変という都合のいい言葉で、乗り越えて、踏み外す。民衆のすべてがハリウド映画の主人公だたならば救われていたかもしれないけれど。自覚してほしい。多くの人間はゴジラに踏み潰される配役なのだと。
 朝が来た。
 まだ爆弾は見つかていませんとテレビが報じている。
 本当に仕掛けられているのか。
 ひとつだけであとはないのではないかというコメンテーターがいた。
 冷静なつもりなのだろう。
 しかし残念なことにそれは希望的観測でしかない。
 10時。ふたつめの爆弾が爆発した。
 あわせてメセージが公開される。
 これもただのデモンストレーンでしかなく、次は本当に大きく被害が甚大なものになるというメセージだ。
 ひとつめは東京で、ふたつめはある地方都市で爆発させた。さらにメセージから人が多くいそうなところになるだろう、という予想をするものが増えたため、多くの人間は家に引きこもり、情報を食べ続け、そして排泄することだけを選んだ。観客に徹しようと、観客は攻撃しないでくださいと祈りながら。
 閑散とする都心。
 上の人間たちは一部の重要施設を警戒するようにと動きはじめた。
 人々が外にでず、そして深夜ならば、ライフラインが重要であるという考えからだろう。
 それもいい。
 しかしどうしたて考えは足りない。それは考えている人たちが無能なわけではない。どうしようもないことだ。時間がないのだから。人間は時間を奪われれば思考力が落ちる。そういうふうにできているのだ。
 夕方。テレビは繰り返し臨時ニスを流しているが、事件になんら進展がないため苦しそうだた。注意を喚起する、そんな言葉だけで24時間もたせることはできないのだろう。たぶんいくらかの人間は進展、つまり次の被害を望みはじめたかもしれない。真面目にメデアの人間も、正義を持た人も、悪が存在しなければ吠える理由が失われてしまうのだ。
 夜。あと3時間で予告の時間がやてくる。
 家族らと身を寄せ合い、きと大丈夫だろう、ここは都会ではない、と考えながら、それでも不安に怯えていることと思う。
 自動的に動くように設定されているサーバが、最後のメセージを送付した。
 都心の駅ビルに爆弾が仕掛けらているという情報だ。
 これで世界がエンターテイメントに変わる。自分たちが安全になたとわかた人間たちは完全に観客へと代わり、メデアもその言葉の意味通りにヒーローの活躍を報じるようになる。
 爆発物処理班が出動し、日本中がその活躍を見守るようになた。
 残り二時間。
 爆弾が発見される。
 人はいないのだからこのまま爆発させてしまてもいいが、駅が壊れることを考えると人の命をはかりにかけて、処理という選択をしなければならないのだろう。
 みんな、また明日から学校や仕事にいくのだ。電車が動かなければ都市機能が麻痺してしまう。そんなことのために命をかける人間たちがいる。
 残り1時間を切た。
 テレビはビルの外、離れたところから警察の発表を待ている。一般の人間たちはさらに離れたところから画面越しの情報を待ている。もしかしたら爆発するのかしら。そんな不安とささやかな期待、そしてやぱりそんな危険から離れた平穏を待ち望む。
 キスターの表情が喜びを含んだものにかわた。
 爆弾が解体されたとの報告がはいたのだ。
 残り30分だた。
 まだ詳しいことはわからないとのことだが、危険は去たと報じている。それから多くの人間が0時を待ち、そして0時過ぎても爆弾が爆発しなかたことで不安が安心へと変わた。
 歓喜の情報が日本中をかけめぐる。
 残念だ。まことに残念だ。
 期待通りではあたが、期待はずれだたとも言える。過剰に期待してしまうのが悪い癖なのだ。
 わたしはテレビを消して寝ることにした。
 すべてはオートマチクに実行されるように準備していた。
 だからわたしが昨日のうちになにかの事故で死んでいたとしてもすべては実行される。そう、だから寝ていても。
 明日の朝7時に多くの路線が同時多発に爆発する。
 この24時間、電車が長時間停められている間に手配のものが線路付近に爆弾を仕掛けた。
 どうしてみんなこれで終わりだと考えてしまうのか。
 誰も幕をおろしていないのに。
 めざめたときに世界はどう変わているだろうか。
 あるいは人は。
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