第32回 てきすとぽい杯
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飲酒変身
茶屋
投稿時刻 : 2016.04.16 23:45
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飲酒変身
茶屋


「私はこう見えてもヒーローをやてたんですよ」
 暖色の光に照らされたグラスをぼんやりと揺らしていると、隣の男がそんなことを話し始めた。
 酔ているのだろう。顔が赤い。男のグラスに注がれた酒も度数の高いものだ。
「ほう、この街じ珍しいですね」
 寂れた街だ。ヒーローに出会うのはことは少ない。
「ご存じないですか。この近くに秘密結社の基地があて、意外と怪人のでる確率は高いんですよ」
 確かに寂れた街にしては怪人が紙面を賑わす比率は高いほうだ。
「でもね。もう数年も前の話になりますか」
 男は遠い目をしながらグラスの中身をあおり、マスターに同じものを頼むと、淡々と語り始めた。
「ご存じだと思いますが、酔ぱらたヒーローが変身してある街を破壊してしまた。それからですね。飲酒変身に規制ができたのは。アルコールを摂取した後に変身すると罰せられる。飲んだら変身するな。そんなわけで酒を控えるヒーローも多くなたご時世ですが、私はどうも酒を止める気になれなかた。
 ある日のことです。馴染みのバーで飲んでいた時です。そしたら悲鳴が聞こえてきて。そう、怪人が現れたんです。こんな街でも飲み屋街にはそれなりに人が集まる。他のヒーローを待ていれば被害は広がる。だけど飲酒変身は……、そんな思いが駆け巡りましたが、気づいたらもう変身してましたね。どうも私はそう言う性分で、放ておけないんですよ。ええ、それで、ええ、変身ベルトを失効したんです。
 つらかたな。私にはヒーロー以外のことができなかたから。でもね見てくださいよ」
 そう言て男は腰につけたベルトを指した。
「変身ベルトですね」
「ええ、今日やと再取得できたんです」
 その時、店の外から闇夜を切り裂く悲鳴が聞こえてきた。
 男は泣きそうな顔をしながら笑ている。
「全く私はつくづく運が悪い」
 彼はそう言て一気に酒をあおると紙幣をカウンターに置くと店の外に消えた。悲しげなドアベルの音を残して。
「いいんですか? 手伝わなくて」
 嫌味な笑みを浮かべたマスターが俺にそんなことを言てくる。
「俺は法令順守ヒーローさ」
「あんたも人が悪い」
「ヒーローて24時間臨戦態勢じないさ。マスターて黙てたじないか」
「私も大事なお客が来なくなると困るんでね」
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