第33回 てきすとぽい杯
 1 «〔 作品2 〕» 3  7 
外的刺激遮断アパート
投稿時刻 : 2016.06.18 23:23
字数 : 1392
5
投票しない
外的刺激遮断アパート
松浦(入滅)



梅雨時期の、下宿で聞いた音だ。
いや、寝ていたら聞こえてきた音、と訂正しよう。

その日もまあ、長雨のために自転車では通学できず、バスに揺られて学校に行た。
運動不足解消と、家賃節約のために、交通の便が悪いアパートにしたのだが、今のところ割高なバスばかり利用していて、運動不足に加えて金銭的にも苦しい状態だ。
バイトなどもこなしつつ、華麗に交友関係を築ければいいのだが……
大学のふわとした空気は、マンガやアニメの中にしか存在せず、やたらごつごつとした授業を受け、ごつごつした硬い学食を食べて、特に何もイベントは発生させられず帰宅した。
かろうじて、ふわと浮上しようと試みているのか、サークル棟からは軽音楽のギターの音がしていたけれど、帰るころにはざーと強雨となていたから、そんなものもすぐに雨音にかき消されてしまた。

問題のひとつは、この運動不足である。
当然、体力を使ているわけではないからそうそう眠れるものではない。
もうひとつの問題が、この無限の孤独だ。
高校まで、ずと口やかましく世話をしてくれていた親はもうここにはいない。
この暗い天井を見上げて、これから残りの人生を過ごしていくのだ。
それは大変不安にさせられる問題で、やはり安眠を妨げている。

そこにきて、き、だ。
ゴムマトの上で、おろしたてのスニーカーで踊たらこんな音がするかもしれない。
そういう音だ。

何だろう……
危険なものでなければいいのだが。

正直なところ、怖かた。
不安であるということを、互いに確認するような相手がいない。
つまり声にだして、若干の客観性をもて状況を認識することがない生活が、これほどタフだとは思わなかた。

雨粒が軒を叩く音なら、羊をかぞえる代わりになる。
しかしこれは正体不明だ。



生き物の鳴き声にも聞こえてくる。
そうだそうだ。
子どもの頃は、ウシガエルの鳴き声だて怖かたじないか。
これだて、真相がわかればたいしたことじない。……はずだ。

…………
……
…。

それにしても眠れないな。
不規則に聞こえてくる、きのせいなのだが、とにかく目が冴えてしまう。
そういえば、遠くで原付のエンジン音がしている。
50㏄の単気筒のエンジン音だ。
もう新聞配達の時間なのだろうか。

ぼすん!

急に大きな、そしてリアルな音がして、体がビクとなる。
大丈夫だ。今のはドアポストに新聞が投げ込まれた音だ。
さあ、いよいよ早く寝付かないと、明日――。というか今日が大変だ。

   ◇

うん。
見事に寝坊してしまたな……

当たり前というべきか、翌朝は重役出勤をすることになた。
を過ぎたバス停に立ていると、ギリギリで減速をするバスがプシと派手な音を立てて目の前に止また。
そうだ。
リアルな音とはこういうやつだ。
鼓膜を揺さぶるだけじない。体の表面でも感じられる。本当の音だ。
それに比べたら、昨晩のきなど、本当に空気が震えていたのか怪しいものだと思う。

あまり、ひとりで無音にいるべきではないな。
幻聴というやつかもしれない。
以来、部屋では作業BGMを欠かすことはないのだが、最近気になる音源があ――
曰く、「ラプ音・妖怪・怪談集」というのだが、それによると、きという音は、その、なんだ。まあ……いるらしい……
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない