我ながらホレボレする文体を自慢する大賞
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Dog(短編さらっと系)
投稿時刻 : 2013.05.05 23:08
字数 : 1686
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Dog(短編さらっと系)
伝説の企画屋しゃん


(ボクちんは主催者なので、この投稿は投票対象外でよろー

 冗談じないぜ、と相棒が珍しく語気を荒げて言た。
 彼はそのまま、ハエでも追い払うかのようにネクタイを乱暴にむしり取り、くしくしに丸めて鞄に放り込んだ。まるで離婚届を破り捨てる、哀れな夫のようだた。
「ネクタイぐらいで、そんなにイライラするなよ」
 缶ビールを飲みながら、僕は言た。
「ネクタイぐらい? よせよ、俺は犬ころじないんだぜ。レセプシンだか何だか知らないけど、こんな首輪みたいなもんしてて、よく平気でいられるな」
 またく冗談じないぜ、と相棒はもう一度吐き捨てるように言た。
 彼は僕の仕事上のパートナーである。僕たちは比較的大きな広告代理店に勤める制作部員で、僕がコピーを書き、彼がデザインをする。相棒はデザイナーとしてかなりの力量を持ているし(印刷所の尻を叩くのは天才的にうまい)、人間としても温厚な性格といえるだろう。つまり僕のまわりでは数少ないまともな人間の一人なのだ。だが、たた一つだけ理解できないところがある。彼は異常にネクタイを憎んでいるのだ。理由は聞いたが、僕にはよく分からない。相棒の言葉をそのまま借用すれば、ネクタイは奴隷制度の延長にある俗悪な習慣なのである。デザイナーになたのも、ネクタイをしないですむからだと聞いている。
 しかし、僕と相棒は数日前、デレクターにあるレセプシンに出席するよう命じられた。そのレセプシンには、新製品の発表のため、クライアントの外国企業から遠路はるばるお偉いさんがくることになていて、デレクターは僕たちにネクタイくらいはつけていけ、と言た。本当なら僕たちごときがそんなところに呼ばれることもないのだが、テレビCMで使た外国人タレントも来ていたり、新しいテレビCMが流されたり、もののついでといた感じで招待されることになたのだ。
 何はともあれ夕食代が浮くので僕には異論はなかたが、もちろん、相棒は黙ていなかた。理由は簡単だ。ネクタイをつけていけ、と言われたからだ。相棒は人が変わたようにデレクターの意見にことごとく逆らい、オフスにはピリピリとした空気が漂た。相棒の姿はまるで、政治家に抗議する市民運動家のようだた。実際、彼にとては、ネクタイは麻薬や性犯罪と同じくらい悪質なものなのだ。
 でも結局、激しい攻防が繰り広げられた末、上司と世間体には逆らえず、彼はネクタイを買い(一本ももていなかたから)、スーツまで来てレセプシンに出席したのだが。
「まあ、落ち着いてビールでも飲めよ」
 僕は下に置いた紙袋から缶ビールを取り出し、相棒に渡した。
 僕と相棒はレセプシンが終わた後、バーで一杯飲んで、それから歩道橋の上で飲みなおしていた。
 いつものことだ。何軒かまわて、近くに歩道橋があれば、僕たちはそこで酒を飲んでしめることにしていた。ときおり歩道橋を通る人々が僕たちを奇妙な目つきで見るのをのぞけば、街の灯りと夜空と自動車の騒音に囲まれて飲むのも悪くない。
「首輪ていえば、あのヘンな癖はどうした?」
 僕は以前、相棒に聞いた話を思い出して言た。
「癖? あれは癖なんかじないぜ。溺れてる人を助けるようなもんだよ」
 相棒の話によれば、彼は犬と交信できる能力を持ていた。といても、交信する相手はある環境下に置かれた犬に限る。散歩に連れて行てもらえないとか、まずい食事ばかり与えられるとか、そういう不遇な状況で飼われている犬だけだ。だから相棒は、自分の惨めな境遇を訴える犬たちの声を察知すると、飼い主に気づかれないように首輪をそと外してやるらしい。
 首輪を解き放たれた犬たち。
 首輪を外すとき、一つだけ約束してもらうんだ、と相棒はクスと笑て言た。
 何だい?
 現実は厳しい、誰にも迷惑はかけるなてさ。それと、自動車と保健所に気をつけろて。
 その話を聞いたのも、歩道橋の上だた。寒い二月の夜なのに、僕たちはジンパーの襟を立てて、おまけにビールを飲みながら、そんな訳の分からない話をしていた。
 お人よしだな、と僕は凍えた声で言た。
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