てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
我ながらホレボレする文体を自慢する大賞
〔
1
〕
…
〔
5
〕
〔
6
〕
«
〔 作品7 〕
»
〔
8
〕
〔
9
〕
…
〔
12
〕
チイちゃん
(
如月恭介
)
投稿時刻 : 2013.05.04 22:31
字数 : 1121
1
2
3
4
5
投票しない
感想:6
ログインして投票
チイちゃん
如月恭介
抜けるような青空の拡がる、さわやかな秋晴れの日。
「なんというかね、と
っ
てもブルー
なんよ、おじち
ゃ
ん。朝から猫はうるさいし、鼻はかゆいし。わかるかな
ぁ
、おじち
ゃ
んの気持ち?」
「あれでし
ょ
、けんたいき
っ
ていう」
「ち
ょ
っ
と違うかも
……
でもまあいいや、それでね、おじち
ゃ
んは決めたのよ」
「なにをきめたの、おじち
ゃ
ん?」
「カエルを飼うことにしたの」
「かえる?」
「そう、カエルち
ゃ
ん」
「どうしてかえるなの?」
「カエルは嘘をつかないからね。車に轢かれればペチ
ャ
ンコに潰れち
ゃ
うし、餌をやらなき
ゃ
死んじ
ゃ
うでし
ょ
」
「
…………
」
「どうしたの、チイち
ゃ
ん?」
難しそうな表情をして黙り込んだチイち
ゃ
んをみて、僕は昨日のことを想い出していた。うだるような暑さの真夏日、一歩外へ出ると凍てつくような冷気が吹き付け、陽気にす
っ
かりのぼせた僕を、たちまち厳冬の彼方へと押しや
っ
た。
はてしなく拡がる純白の雪原、遠くに米粒のように小さく見えるのはライオンかもしれない。いやもしかしたら狸かもしれないぞ
……
僕はそう
っ
と足を踏み出した。気づかれないように、忍び足で、一歩、二歩、三歩。
「あ
っ
!」
僕は思わずのけぞ
っ
た。目と鼻の先にいるのは、キリンではなか
っ
た。人間だ。それもとても愛くるしい、幼い女の子だ。
「こんなところで何してるの?」
「タマをさがしてるの。きのうからいなくな
っ
ち
ゃ
っ
たの」
「タマ? タマ
っ
て、もしかしてゾウのことかな?」
「ちがうよ、おじち
ゃ
ん。タマはタマだよ」
「あ
っ
、そうか。そうだよね、タマはタマだ。で、お嬢ち
ゃ
んの名前は何ていうの?」
「ちいだよ。でもい
っ
とくけど、小さいからチイじ
ゃ
ねえからな。そこんとこよろしく!」
「
…………
」
僕は言葉を失
っ
た。なんて可愛らしい女の子なんだろう。ひたいの中心にでんと構えた大きな口、その奥に見える丸い球体は、おそらくつぶらな瞳に違いない。
「ところでチイち
ゃ
ん、ここはどこかな? おじち
ゃ
ん、迷子にな
っ
ち
ゃ
っ
たみたい」
チイち
ゃ
んは、少し哀しい目をして呟いた。
「いい年してぶ
っ
こいてんじ
ゃ
ねえよオヤジ。ここはゆめのせかいなの。思
っ
たことが、なんでもかなうんだよ」
「何でも?」
「だからさ
っ
きから言
っ
てるだろうが、おじち
ゃ
ん」
なんということだろう、僕は素晴らしい世界に足を踏み入れてしま
っ
たようだ。
「どうすれな夢が叶うのかな?」
チイち
ゃ
んは、その雪のように白い手を伸ばして僕の胸を殴
っ
た。そして優しく言
っ
た。
「こころにおもうだけでいいの。
っ
て、さ
っ
きも言
っ
ただろうがよ、くそジジイ!」
チイち
ゃ
んに教えてもら
っ
て、僕は心の中で念じた。
(明日は天気になりますように
……
)
チイち
ゃ
んの言
っ
たとおりだ
っ
た。翌日は、朝から抜けるような秋晴れだ
っ
た。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:6
ログインして投票