我ながらホレボレする文体を自慢する大賞
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チイちゃん
投稿時刻 : 2013.05.04 22:31
字数 : 1121
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チイちゃん
如月恭介


 抜けるような青空の拡がる、さわやかな秋晴れの日。

「なんというかね、とてもブルーなんよ、おじちん。朝から猫はうるさいし、鼻はかゆいし。わかるかな、おじちんの気持ち?」
「あれでし、けんたいきていう」
「ちと違うかも……でもまあいいや、それでね、おじちんは決めたのよ」
「なにをきめたの、おじちん?」
「カエルを飼うことにしたの」
「かえる?」
「そう、カエルちん」
「どうしてかえるなの?」
「カエルは嘘をつかないからね。車に轢かれればペチンコに潰れちうし、餌をやらなき死んじうでし
…………
「どうしたの、チイちん?」

 難しそうな表情をして黙り込んだチイちんをみて、僕は昨日のことを想い出していた。うだるような暑さの真夏日、一歩外へ出ると凍てつくような冷気が吹き付け、陽気にすかりのぼせた僕を、たちまち厳冬の彼方へと押しやた。
 はてしなく拡がる純白の雪原、遠くに米粒のように小さく見えるのはライオンかもしれない。いやもしかしたら狸かもしれないぞ……
 僕はそうと足を踏み出した。気づかれないように、忍び足で、一歩、二歩、三歩。
「あ!」
 僕は思わずのけぞた。目と鼻の先にいるのは、キリンではなかた。人間だ。それもとても愛くるしい、幼い女の子だ。
「こんなところで何してるの?」
「タマをさがしてるの。きのうからいなくなたの」
「タマ? タマて、もしかしてゾウのことかな?」
「ちがうよ、おじちん。タマはタマだよ」
「あ、そうか。そうだよね、タマはタマだ。で、お嬢ちんの名前は何ていうの?」
「ちいだよ。でもいとくけど、小さいからチイじねえからな。そこんとこよろしく!」
…………
 僕は言葉を失た。なんて可愛らしい女の子なんだろう。ひたいの中心にでんと構えた大きな口、その奥に見える丸い球体は、おそらくつぶらな瞳に違いない。
「ところでチイちん、ここはどこかな? おじちん、迷子になたみたい」
 チイちんは、少し哀しい目をして呟いた。
「いい年してぶこいてんじねえよオヤジ。ここはゆめのせかいなの。思たことが、なんでもかなうんだよ」
「何でも?」
「だからさきから言てるだろうが、おじちん」
 なんということだろう、僕は素晴らしい世界に足を踏み入れてしまたようだ。
「どうすれな夢が叶うのかな?」
 チイちんは、その雪のように白い手を伸ばして僕の胸を殴た。そして優しく言た。
「こころにおもうだけでいいの。て、さきも言ただろうがよ、くそジジイ!」

 チイちんに教えてもらて、僕は心の中で念じた。
(明日は天気になりますように……

 チイちんの言たとおりだた。翌日は、朝から抜けるような秋晴れだた。
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