てきすとぽい
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【BNSK】2016年7月品評会
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処理業
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2016.07.03 18:08
字数 : 1845
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処理業
茶屋
「ふわあ
~
ぁ
あ
~
~
~
」
先輩のわざとらしく長い欠伸が静かな車内に響く。いかにも怠そうな目をして前を向いているが、車のヘ
ッ
ドライト越しに見えるのはさ
っ
きから代わり映えのしない山のカー
ブだ。そんな光景にいかにも飽き飽きしているとい
っ
たご様子だ。
「後輩ち
ゃ
~
ん、もうこの辺で良くない?」
そうい
っ
てすぐ先輩は怠けようとする。これは仕事だ
っ
ていうのに、そういう自覚が足らないのだ。こんな適当さでもこの業界は俺より長いというのだから驚きだ。
「駄目ですよ先輩。ち
ゃ
んと指示通りにやらないと」
「ま
っ
たくお堅いな
ぁ
後輩ち
ゃ
んはー
、バレやしない
っ
て」
「駄目です。そういう問題じ
ゃ
ないですから。もう少し我慢してください」
「そんなに神経質だとまい
っ
ち
ゃ
うよー
」
先輩の暢気さに呆れながらも俺は運転を続ける。
「つきましたよ先輩」
「んあー
ご苦労」
山の中の廃材置き場についたのは深夜二時を過ぎたぐらいだ
っ
た。昼間にあらかじめ重機で掘られた穴の近くに車を止める。
リアドアを開けて、手袋をはめ、事務所の鍵を開けて照明をつけるとや
っ
と先輩が車から降りてきて伸びをしながら唸
っ
ている。
「あー
疲れた疲れた」
そういいながら胸ポケ
ッ
トからラムネ菓子を取り出し頬張る。
パリポリパリポリと小気味よい音が響く。
儀式のようなものだろうか、先輩は仕事にとりかかる前にラムネ菓子を食べるのだ。
「ほいじ
ゃ
、と
っ
とと済ませますか」
先輩は女だが、この業界では女は珍しい。大体の場合は訳ありだ
っ
たり社会からドロ
ッ
プアウトした男が流れつく職業だ。
力仕事が伴うというのもあるけれど、この業界の周辺が圧倒的に男社会であることも大きいだろう。
先輩がなんでこの業界へたどり着いたのかはわからない。
仕事仲間の素性は問わない。それがこの世界の暗黙のルー
ルだ。
お互いに氏素性の知らない、仕事だけの関係。
俺は先輩の事を「先輩」と呼び、先輩は俺のことを「後輩ち
ゃ
ん」と呼ぶ。
先輩も俺も名無しだ。
そしてこいつも名無しだ。
先輩は頭のほうを持
っ
て俺は足のほうを持
っ
て車から降ろす。振り子の要領で反動をつけ「せー
っ
の!」の掛け声で穴の中に放り投げてやる。
あとは重機で穴を埋める作業が残
っ
ているが先輩は早々に車の中に引き上げようとしている。
ま
っ
たくやる気がないにもほどがある。
ハヤシさんと組んだ時、こんな話を聞いた。
ハヤシさんというのはもちろん仮の名で、この業界ではかなりベテランである。
「兄ち
ゃ
ん最近姉ち
ゃ
んと組んでんだ
っ
て?」
ハヤシさんは器用な包丁裁きで名無しの骨と肉をはがしながら話しかけてきた。そのとき俺は砕いた骨をミキサー
にかけていた。
「そうですね。最近は多いですね」
「気
ぃ
つけなよ」
「何をですか?」
「姉ち
ゃ
んよくラムネ食
っ
てんだろ」
「は
ぁ
」
「あれラムネじ
ゃ
なくてな
ぁ
」
その時、骨の塊が引
っ
掛か
っ
たのかミキサー
がゴリ
ッ
と大きな音を立てて止ま
っ
た。
「名無しの骨だ
っ
て噂だよ」
お互いに氏素性の知らぬ業界でも仲間内での噂はある。
あいつは借金から逃げて来ただの、あいつは人を殺した事があるだのは珍しくもないし、あり得る話だ。
けれども猟奇趣味な噂が立つのは意外と少ない。
「ど
っ
たの後輩ち
ゃ
んそんな怖い顔して」
そう言
っ
て先輩は俺の背中をバシバシ叩く。今日は工場のタンクの中に名無しを捨てるの段取りだ。何の工場かは知らないし名無しがどんな運命を辿るかは俺は知らない。
いつものように先輩は胸ポケ
ッ
トからラムネ菓子を取り出し食べる。
パリポリパリポリ。
それをじ
っ
と見ている俺に気付いた先輩はこう言
っ
た。
「ん? 後輩ち
ゃ
んも食べる?」
名無しの処理方法には色々ある。埋めるのはもちろん、燃やす、酸で溶かす、豚に食わせる、バラバラに砕いて撒くなどなど。
処理方法はその時その時によ
っ
て指示が決ま
っ
ていて、俺たちはその指示に従
っ
て名無しを処理するだけだ。
理由はもちろん聞かない。
時折、珍妙な支持がや
っ
てくることもある。俺たちの技術では難しいこともあ
っ
て、その時は専門家の手伝いをしたり、下処理だけをすることがある。
今回は名無しの下処理を手伝い、ごみを処分する。
剥製でも作るのだろうかと、ぼんやり考える。
今回の名無しは二体。
二体分の剥製を作るのだろうか。いや、もしかしたら二体を組み合わせた剥製を作るのかもしれない。
聞けば名無しの骨をアクセサリー
やナイフに加工したりすることもあるらしい。
本当にいろいろな処理方法があ
っ
て、色々な専門家がいる。
だとしたら。
パリポリパリポリ。
先輩は相変わらずラムネ菓子を食べている。
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