労働の夏!職場小説大賞
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ラボラトリー・フード phase 3
投稿時刻 : 2016.08.06 22:57
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ラボラトリー・フード phase 3
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 研究員ルカ=モガは悩んでいた。締め切りの迫っている課題の進捗が芳しくないのだ。

 彼女の所属する、人類食餌学研究室は、現在、ちょっとした危機にあると言えた。長い間ラボのボスであったドクター・シャンが突然引退を宣言し、後任にまだ若手のシェリーが就いてから、資金不足の状態にあるのだ。研究室の所属する法人が、あまり実績のない若手女性研究員がリーダーのラボにはこれまでのようには出資できないと言い出したのである。
「次の予算委員会で、上層部を納得させられる新しい企画を提示したい。どんなものでもいいので、何かアイディアがあったら提案してほしい」
 ルカはラボに入局してまだ一年ほどだ。ほとんど入れ違いになってしまった研究室の創始者ドクター・シャンよりも、入局して最初に指導してもらった先輩であり、現在の直属の上司であるシェリーのことを、心底尊敬し、憧れている。シェリーのためにも、この危機を乗り越えるプロジェクトを立ち上げ成功させたかった。
 だが一か月ほど色んな公園に通ったりヨガをしながらうんうんうなったが、良いアイディアは生まれなかった。そうしているうちに8月6日は気付いたらやって来ていた。
 ハルト=ツカハラに相談するしかない、と思いついたのはアイディア提出締切の当日の午後になってからだ。異界の人間に研究室の弱みを打ち明けるのは気が進まなかったし、ルカは彼が正直苦手だったが、背に腹は代えられないと、決断し、宿舎に向かった。
 ハルトというのは、まだドクター・シャンがラボのトップだった時代に、研究の一貫で平行世界から呼び寄せた異界の人間だ。十四歳、ルカと同じ歳の若い男子である。

 ルカたちの住むこの世界と違い、彼の世界は「食事」という行為を日常的にする慣習が残っていると言う。そのせいか、概ねルカたちの世界の人間と変わらない容姿をしているものの、ハルトはかなり背が高い(特に胴が長い、腸がルカたちより長いせいだと思われる)、顎が大きい(咀嚼と言う行為を日常的に行っているためだ)など、少し特徴的な部分も持っていた。
 だから、初めてシェリーにハルトを紹介されたとき、ルカはとても緊張した。未知の人間のように見えたし、非常にたくましく見える容姿で、そしてそう見えて案外優しくて――
「なんだ、ルカ、顔を赤くして。まさかハルトに惚れたか?」
「ち、ち、ち、違います! なに言ってるんですか!」
 シェリーに茶化されて、ルカは反射的にそう叫んでから、目を丸くしているハルトとそれ以上一緒にいられなくて、部屋を飛び出したのだった。
 本当に、シェリーは何を言っているのだ、あくまで研究材料の生体であるハルトに恋をするなんてありえない。それは、例えるなら実験用のモルモットやハムスターに恋をするようなものじゃないか。そんなことはありえない。あ、でも、隣のラボのサルだかネコだかロボットだかよくわかんない研究員が飼っているハムスターはめっちゃ可愛くて恋に落ちそうだ、しかも名前が――
 いやいや、そんなことはどうでもいいのだ。とにもかくにも、研究費である。

* * *

「そういうわけなんです。ハルトさん、何かいいアイディアありませんか?」
「うーん、そうだなあ、お金になりそうな、アイディアか……」
 ハルトは元の世界について思いを馳せた。が、すぐには思いつかなかった。そもそも、ハルトはどこにでもいるただの中学生だ。
「俺の元の世界では、美味しい食べ物は高い値段がつくと思うけど、ここの世界の人は食べ物を食べないから美味しい食べ物を作ってもしょうがないよね」
「そうですね、食べることが前提の価値は価値にならないと思います」
「そうだ、じゃあ、こういうのは?」
 ここで、ハルトは画期的なアイディアを口にする。が、しかし、投稿締め切りは無情にも目前に迫っているのであった。


phase 4に続く


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