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初! 作者名非公開イベント2016秋
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エンジュ
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2016.09.11 16:25
字数 : 1495
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エンジュ
住谷 ねこ
「叔母さん い
っ
し
ょ
に散歩行かない?」
35を過ぎて実家に戻
っ
てから一
ヶ
月。毎日々、着替えもせず寝癖のついたままリビングのソフ
ァ
に突
っ
伏してのたくたと暮らす私に声をかけてきたのは母でもなく、今やこの家を仕切る兄でもなくその嫁のマリ
ッ
サでもなく姪
っ
子のエンジ
ュ
だ
っ
た。結婚して10年。
思えば辛くも
っ
たいない10年だ
っ
た。
辛か
っ
たのは不妊治療で、も
っ
たいなか
っ
たのは私の
……
なんだろう。
「行
っ
てもいいけどあんた学校は?」
今日は平日で今は午後の一時でエンジ
ュ
は小学6年生だ。
「私、登校拒否だから」
「なんで登校拒否なのよ?」
「叔母さんこそなんで毎日ごろごろしてるの?」
「ママに聞けば?」
「聞いたけど
……
ほ
っ
ときなさい
っ
て。叔母さんは、かわいそうなんだから
っ
て」
「へー
。じ
ゃ
あ、ほ
っ
とけば?叔母さんは本当かわいそうなんだからさ」
そうか。私はかわいそうなのか。
子供が出来なくて追い出されたかわいそうな
……
かわいそうな娘。かわいそうな妹。かわいそうな義妹。かわいそうな叔母さん。傷が癒えるまで暫くそ
っ
としといてあげまし
ょ
う。好きにさせておいてあげまし
ょ
う。
母と兄と兄嫁と、皆でそんな相談をしたんだろう。
「エンジ
ュ
が案内してくれるの?」
「案内
っ
て叔母さんも子供の時はここに住んでいたんでし
ょ
?」
「まあね
ぇ
」
そういいながら一月ぶりに服をまともなものに着替え寝癖をなでつけて外に出た。エンジ
ュ
が「ど
っ
ちへ行く?」と聞くのには答えず私は自分から道を選んで歩き出した。
「公園に行こう。ほら学校の裏にあるでし
ょ
?大きな公園」
「?え
っ
ないよ。それに学校は逆方向だよ」
「逆?なんで?こ
っ
ちでし
ょ
う」
「そ
っ
ちは桂北小だよ。私は桂南だもの」
「そうなの?いつからそんなことにな
っ
たの?」
「いつ
っ
て、ず
っ
とだよ。ず
っ
とそお」
「へー
」
「叔母さん、桂北小だ
っ
たの?」
「私の頃は桂南はなか
っ
たよ」
桂北小に向か
っ
て歩く。所々変わ
っ
てはいるが基本的には同じだ。
「前はここに八百屋があ
っ
た」
今は新しいごく普通の一軒家にな
っ
ている。もしかして店をたたんで新築したのかと思
っ
て表札を見たけど全然関係のない名前だ。
「同級生の家でね。樋口さん
っ
ていうの」
「ふ
ぅ
ん」
樋口さん。樋口和美さん。頭がよか
っ
た。それで綺麗だ
っ
た。いつもいい匂いがした。シ
ャ
ンプー
の。
でも腋臭だ
っ
た。
「いまね
ぇ
、桂北小は隣の中学もだけど建て直し中だよ。だからねみんな教室はプレハブなの」
「そうなの?いつできるの?」
「来年かな
ぁ
。今の6年生がきれいにな
っ
た最初に入れるから桂北の中学に入りたい
っ
て言
っ
てたから」
そうすると、私が通
っ
ていた頃の校舎はもうなくなるんだ。
「エンジ
ュ
は中学はどこになるの?」
「私立」
「え?!そうなの?受験するの?」
「う
っ
そー
ー
ん。桂南からは大抵、桂台中学だよ」
ま
っ
すぐ前を向いて歩くエンジ
ュ
を盗み見る。綺麗な顔立ちをしていると思う。少し色が黒いかな。
「中学行くんでし
ょ
?」
いつもへらへらしているエンジ
ュ
から笑いが消えて眉間に皺を寄せて下を向いたまま呟く。
「お父さんがさ、いつも笑
っ
てなさい
っ
て。そうしたら何もかもうまくいくんだ
っ
て」
「へー
」
「おばさんも、そう思う?」
「まあ、しかめ面よりはいいんじ
ゃ
ないの?」
建直し中の学校敷地をぐるりと回りながら、卒業式の日に「笑わない方がかわいいよ」と何人かの女の子たちに言われたことを思い出していた。私は笑顔の似合わない女の子だ
っ
たのだ。
「笑
っ
てても、ぶす
っ
としてても何も変わらなか
っ
たよ。鉛筆は無くな
っ
たし、教科書の落書きもあ
っ
た」
「へー
」
「へー
っ
て叔母さんの口癖だよね」そう言
っ
てエンジ
ュ
は笑
っ
た。
すごく綺麗だ
っ
た。
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