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初! 作者名非公開イベント2016秋
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本に挟んで忘れた押し花
(
浅黄幻影
)
投稿時刻 : 2016.09.17 21:01
字数 : 1022
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本に挟んで忘れた押し花
浅黄幻影
久々の休日に、私はガレー
ジの掃除をしようとしていた。排気ガスが積も
っ
たようなガレー
ジ特有の埃
っ
ぽい空気は、吸
っ
ているとしばらくして咳が出た。これが一番嫌いだ
っ
た。この咳には私が次第に年を取
っ
ていることを感じさせる年寄りくさい咳の仕方がからま
っ
ていて、それが何より自分で自分をいらつかせた。
このガレー
ジの空気には前々から納得がいかなくて、今日こそは駆逐してやるぞと思
っ
ていたのだけれど、そこに眠
っ
ている家族の思い出に触れると自然、そちらに目が向か
っ
た。どんな家庭のガレー
ジにも思い出というものが眠
っ
ているのだ。そう、つい目にしてしまう魅惑の思い出たちであふれている。
ガレー
ジはまず、入り口に冬用のタイヤやジ
ャ
ッ
キが積まれていて、その奥へ進むのを阻んだけれど、息子が子供時代に使
っ
たもうサイズの合わないスキー
や夏場に挑んで結局、あきらめたスケー
トボー
ドを見つけたりすると、私の心は若い頃の父親のそれに戻
っ
た。
それから妻が若い頃に描いて、おそらく本人も忘れていただろう絵が見つか
っ
た。当時、彼女は自慢げに額に入れて見せてきたものだ
っ
た。あのころは、額の方が立派じ
ゃ
ないかと私は笑
っ
て彼女をいじめてや
っ
たものだ
っ
た。しばらく眺めていると、なるほど、今なら私も納得がいく作だと思
っ
た。
かつては妻も私も若く、彼女があんなことになるなんて思
っ
てもいなか
っ
た。しかし彼女との思い出は、もちろんず
っ
と昔のことだ
っ
た。今更思い出しても
……
。私はセンチメンタルになり、また彼女の絵を眺めた。しばらく掃除をしようとする手が止ま
っ
てしま
っ
た。
それから隣に、本が詰ま
っ
た段ボー
ル箱を見つけた。一冊なんとなく手に取
っ
てみて開いてみると、しおりがはらりと落ちた。このしおりについても私は覚えていた。ふたりで草原に行
っ
たとき、彼女が見つけたクロー
バー
を押し花にしたものだ
っ
た。
ガレー
ジのコンクリー
トに無惨に舞い降りて埃にまみれたクロー
バー
を見て、私は思
っ
た。なんと人生は儚いものだろう! ときの流れは残酷だろう!
あのとき愛した君はもう、いない。戻らないあの日の笑顔、二人の時間。私はず
っ
と君を忘れはしない。私の心の押し花は、あの日にこのペー
ジに挟んだまま、そのままだ
……
。
「ねえあんた、今日こそはガレー
ジの掃除をする
っ
て言
っ
てなか
っ
たかい?」
──そうだね、ごめんよ母ち
ゃ
ん──
私は年老いて太
っ
て横暴にな
っ
た妻にへこへこと愛想笑いをして、自分の空想旅行から生きた現実へと帰
っ
てきた。
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