てきすとぽい
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初! 作者名非公開イベント2016秋
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笑うアルバイト
(
ゆきな(根木珠)
)
投稿時刻 : 2016.07.23 19:49
字数 : 1219
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笑うアルバイト
ゆきな(根木珠)
給料明細を見て、男は愕然とした。
これでは、家賃を払
っ
たらもうおしまいじ
ゃ
ないか。
ワンルー
ムでの一人暮らしをし始めたのが半年前。貯金を切り崩すもアルバイトではやりくりが難しく、どんなに切り詰めても月末は苦しか
っ
た。
ある日のこと、アパー
トの集合ポストにチラシが入
っ
ていた。
「未経験者歓迎!」
ああ、これだ。アルバイトを掛け持ちしよう。
男はそう決意し、チラシにある番号に電話した。
(笑うことが仕事のアルバイト
っ
てどんなだろう)
コー
ル音が鳴り続いている間、男は考えていた。
「はい」
電話の向こうから声が聞こえた。
男は慌てて
「あの、少しお伺いしたいことが」
と問うた。
「なんでし
ょ
う」
電話の声は無愛想に応える。
「笑うアルバイト
っ
てチラシを見たのですが
……
」
具体的にどのような仕事なんですか。
「小一時間、笑
っ
ていただくだけのアルバイトです」
やはりぶ
っ
きらぼうに電話の声は言う。
この人がもう少し笑
っ
たほうがいいのではないだろうか。
男はそんなことを思いながら、聞いていた。
詳細を尋ね、面接の日取りが決まると、男は通話を終えた。
面接当日。
指定されたオフ
ィ
スビルの前に男はいた。
コンクリー
ト打ち
っ
ぱなしの建物は、どこか寒々しか
っ
た。
士気を鼓舞するように男は腹に力を入れて、建物の中に入
っ
た。
本で読んだ面接官とのやり取りを頭のなかで反芻しながら、面接室の扉を開ける。
するとそこには、能面のような顔をした女性がひとり、いるだけだ
っ
た。
「かけてください」
「え、あ、はい」
パイプ椅子が目の前にあ
っ
た。最初からここにあ
っ
たのだろうか、と男は訝しんだ。
まるで突然そこに現れたように見えたからだ。
能面顔の女性は言
っ
た。
「笑
っ
てください」
は、と男は訊き返した。
しかし女性は無言で男を見つめるだけだ
っ
た。
「は
……
あははは
……
」
男は引きつりながらも、笑い声のようなものを口から出した。
能面顔の女性は、ふう、と溜息をつくと、
「もう一度」
と言
っ
た。
これはなんなのだ。男は思
っ
た。どんな状況でも笑えるようにする訓練なのか。
しかし背に腹は代えられない。家賃を滞納して追い出されでもしたら大変だ。なんとしてでもこのアルバイトは受からなければ。
「はは、ははははははは」
極力、大きな声で笑
っ
た。
男はそ
っ
と、能面顔の女性を見る。
どのような表情も浮かんでいない。
「まあいいでし
ょ
う。明日から来てください」
は、と男は訊き返した。女性はまたも、なにも応えてはくれなか
っ
た。
翌日、男がそのアルバイト先へ行くと、指定されたような建物は無か
っ
た。
電話が鳴
っ
た。
「あなたの笑い声を、いただきました」
どういうこと、と訊こうとして、男はハ
ッ
とした。
声が出ないのだ。
以来、男は声を失
っ
てしま
っ
たという。
#改ペー
ジ
私は、声泥棒の手口について書き記された文書を読んで、そんなことがあるわけないと嘲笑
っ
た。
その文書の最後にはこう書いてあ
っ
た。
──だから私は「書く」しかないのです。だからどうか、御社で私を雇
っ
てください。
(了)
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