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初! 作者名非公開イベント2016秋
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「夏休み一直線」
 投稿時刻 : 2016.08.09 23:45
 字数 : 1473
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「夏休み一直線」
二人目のさとり


 じりじりと陽の光が道路を焼いている。汗を流しながら二人の高校生が歩いていた。鞄には何も入ていない。全てを学校に置いて、余白を詰め込んだ。その余白に夏休みの思い出を詰め込んで学校に帰るつもりでいた。

「あ
「あな」
「駄菓子屋でラムネ買わねえか」
「しりとりで俺に勝てたら」

 タカシが「しりとりの、り、から」というと、しりとりには既に興味を失たようで、汗を袖で拭いながら田んぼ道をにらみ始めた。陽炎がたていて、辺りからは虫の鳴く声が聞こえる。

「り? り、か…………
「あの駄菓子屋いつもラムネぬるいんだよな」
「リンゴ飴」
「メカリンゴ飴」
……珍しいリンゴ飴」
「めでたいリンゴ飴」
「メガネ付きリンゴ飴」
「綿棒機能付きリンゴ飴」
「メガトン級リンゴ飴」

 時速3キロメートルのしりとりは、田んぼ道が途切れ、町中に入ても続いた。実にくだらない時間を過ごしている。

 いつまで経ても夏が終わらない。冬では「いつまで経ても雪が溶けない」とぼやいていたはずなのだが、そんなことは若い二人には些細なことだ。今の時期から次の時期になたとき、すでに「その次の季節」を思い描いている。二人には未来があるからだ。

 結局、ラムネはタカシがおごることになた。二本分の代金を支払い、一本をユウジに手渡す。いつもの温度であるラムネは、どこか優しさを感じることができる。

「やぱぬるい」
「あのババアはワカてねーからな。冷やしとけよラムネくらい」
「聞こえてるよ、今度は温めとくからね!」
せーな、もう十分温まてるつーの!」

 けけけけ、と駄菓子屋の主人が笑う。つられてタカシたちも笑た。ここまでがいつもの光景である。主人が笑た後、けほけほとせき込んだ主人のことを、なぜか愛おしく思てしまう。この幸せが、いつまでも続けばいいと、二人は思た。

 ラムネを飲み終え、主人に礼を言う。笑て別れたあとは、また歩かなければならない。泥臭い話題が二人の頭をよぎる。

「進路どうすんの」
「さ
「リンゴ飴シリトリなんかやてる場合じねーんだよな」
「ま

 それからしばらく、タカシたちは無言で歩いた。大学がどうの、出席率がどうの、と、考えるべきことはたくさんある。終業式を終えたばかりだというのに、やはり「次の季節」を考えてしまう。これは、やはり若いからだ。

 どちらからともなく、二人は公園に向かていた。ベンチに座ると、主人の存在しない自動販売機でコーラを買う。二人、それぞれ自分のお金を使た。

「いつか、こうなるんだろうなとは思てたけどさ」
「俺たちも働くんだよな」
「分かんねえよ、これから先の事なんて」
「そうだよなあ」

 二人は、少しずつ温くなていくコーラを片手に、公園に佇んでいた。公園の近くを、元気な小学生が走ていく。アサガオの鉢植えが重たそうだた。もとも、タカシたちは別の鉢植えを抱えており、それが重圧になていたのだが。

「おい、あれ」
「あれ……DVDか?」
「CDかも」

 タカシが円盤型の光るものに近寄た。拾上げると、市販されている焼き増し用のDVDだた。二人はそれをタカシの家で鑑賞することに決めたのだた。

 ほどなくして、深夜。二人はタカシの部屋でDVDを再生した。くだらない映画だたとしても、何かを忘れられるのなら、それでいい。しかし。

「これ、エグいな……
「う、うおお……これ持て帰ていい?」

 ユウジが、下卑た笑いを浮かべた。夏休み、希望に満ちた時間。目先の幸せに囚われている、愚かなものだたとしても、温いラムネのような優しい時間が必要なのだ。

(了)
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