初! 作者名非公開イベント2016秋
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「きずなめ」
投稿時刻 : 2016.08.10 00:07
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「きずなめ」
二人目のさとり


 ぼおと両親の喧嘩を見ている。そのうち、こちらに飛び火してくることは分かている。それまで、ただただじと座て待ている。怒られる、それも理由もなく。しかし、それさえ終わてしまえば暗黒の時間が待ている。

 殴られた。蹴られた。罵られた。何も言い返せなかた。なにもやりかえせなかた。しかし、毎日毎日なにかを言い返せるほど両親に期待をすることもない。期待していることがないのだ。朝食に始まり、給食を我慢し、夕食まで食つなぐ間、それまでの間世話をしてくれたらそれでいい。

 学校では両親に付けられた痣の事を聞く学友はいない。奇妙奇天烈なものを見るような、化け物を見るような目で見られる。それだけだ。それだけである、ということが救いか。学友は殴たり悪口を言てきたりしない。

「あんたはどうしてそうなの!」
「あんたてほんとドン臭いわね!」
「あんたがそうだからアタシまでこうなの!」
「あんたのせいでアタシがかわいそう!」
「かわいそう、かわいそう、かわいそう、かわいそう、かわいそう!」

「あんだのせいで!」

 ここまで悲惨だと、涙も出ない。最後に泣いたのは、いつだただろうか。母を見ても父を見ても学友を見ても、何も感じられなくなてしまう程度には、傷ついていた。

 しかし、我慢しなければならない。本にそう書いてあた。きといつか報われる。そんなことが書いてあたのだ。

 図書室で一人、本を読む。昨晩はいつもよりも多く殴られた、たまにこういう日があり、それは父が賭け事で大負けした時だ。いつもは酒を買うので賭け事をするお金がない。

「タん?」
「ん…………?」
「やほ。僕もサボり」

 ユウジと仲良くなたのは、この時だた。これからこの先、二人はずと仲良くやていくことになる。中学、高校、大学。悪い事も良い事も楽しい事も辛いことも二人で過ごしていた。

 タカシには、ユウジに言えない悩みがあた。大抵の苦しみは経験したはずだが、タカシ自身、どう表現していいか分かていない。ただ、ユウジを見ていると苦しいのだ。どうして、あんなにも「ふつう」のユウジが自分なんかと、と、そう考えてしまう時に苦しむ。

 そうして、そう考えたときは必ずカターナイフを用意する。腕に、腿に、脛に。赤い線が流れていくのを見ると安心する。これが正当な評価だ、まともとつきあていくためには、こうするしかないと思ていた。

 大学の講義、その空き時間にタカシはぼんやりと構内を歩いていた。すると、ユウジが知らない女と歩いているのが見えた。やたらと楽しそうだた。タカシは、いてもたてもいられなくなた。

 自宅に戻り、カターナイフを握りしめた。今日は多くなりそうだ、そう思た。

 がちがちとドアノブが音を立てる。まだ「最中」なのだが、面倒になりドアを開ける。ユウジだた。

「お前、一緒にヒルメシ決めるて言てたろ、泣きながら帰て聞いて……
「え、俺……泣いてた……?」
「血も出てる。傷、そういうことだたんだな」
「悪い。こういうことだた」

 ユウジが緊張した面持ちから、気の抜けた顔になる。ユウジが、タカシを抱きしめた。大学を抜けたときには気づけなかた涙が、今この時は気づけた。

「笑えよ。笑ててくれよ。ダチだろ」
…………
「前から思てたぜ、そのリスカ、イケてる。ヘンなタトみたいだし、もう隠すなよ」

 タカシは、永遠に残る傷とともに、永遠に残るキズナと笑顔を、手に入れられたのだた。


(了)
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