てきすとぽい
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初! 作者名非公開イベント2016秋
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「きずなめ」
(
二人目のさとり
)
投稿時刻 : 2016.08.10 00:07
字数 : 1429
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「きずなめ」
二人目のさとり
ぼお
っ
と両親の喧嘩を見ている。そのうち、こちらに飛び火してくることは分か
っ
ている。それまで、ただただじ
っ
と座
っ
て待
っ
ている。怒られる、それも理由もなく。しかし、それさえ終わ
っ
てしまえば暗黒の時間が待
っ
ている。
殴られた。蹴られた。罵られた。何も言い返せなか
っ
た。なにもやりかえせなか
っ
た。しかし、毎日毎日なにかを言い返せるほど両親に期待をすることもない。期待していることがないのだ。朝食に始まり、給食を我慢し、夕食まで食つなぐ間、それまでの間世話をしてくれたらそれでいい。
学校では両親に付けられた痣の事を聞く学友はいない。奇妙奇天烈なものを見るような、化け物を見るような目で見られる。それだけだ。それだけである、ということが救いか。学友は殴
っ
たり悪口を言
っ
てきたりしない。
「あんたはどうしてそうなの!」
「あんた
っ
てほんとドン臭いわね!」
「あんたがそうだからアタシまでこうなの
っ
!」
「あんたのせいでアタシがかわいそう!」
「かわいそう、かわいそう、かわいそう、かわいそう、かわいそう!」
「あんだのせいで!」
ここまで悲惨だと、涙も出ない。最後に泣いたのは、いつだ
っ
ただろうか。母を見ても父を見ても学友を見ても、何も感じられなくな
っ
てしまう程度には、傷ついていた。
しかし、我慢しなければならない。本にそう書いてあ
っ
た。き
っ
といつか報われる。そんなことが書いてあ
っ
たのだ。
図書室で一人、本を読む。昨晩はいつもよりも多く殴られた、たまにこういう日があり、それは父が賭け事で大負けした時だ。いつもは酒を買うので賭け事をするお金がない。
「タ
っ
ち
ゃ
ん?」
「ん
…………
?」
「や
っ
ほ。僕もサボり」
ユウジと仲良くな
っ
たのは、この時だ
っ
た。これからこの先、二人はず
っ
と仲良くや
っ
ていくことになる。中学、高校、大学。悪い事も良い事も楽しい事も辛いことも二人で過ごしていた。
タカシには、ユウジに言えない悩みがあ
っ
た。大抵の苦しみは経験したはずだが、タカシ自身、どう表現していいか分か
っ
ていない。ただ、ユウジを見ていると苦しいのだ。どうして、あんなにも「ふつう」のユウジが自分なんかと、と、そう考えてしまう時に苦しむ。
そうして、そう考えたときは必ずカ
ッ
ター
ナイフを用意する。腕に、腿に、脛に。赤い線が流れていくのを見ると安心する。これが正当な評価だ、まともとつきあ
っ
ていくためには、こうするしかないと思
っ
ていた。
大学の講義、その空き時間にタカシはぼんやりと構内を歩いていた。すると、ユウジが知らない女と歩いているのが見えた。やたらと楽しそうだ
っ
た。タカシは、いてもた
っ
てもいられなくな
っ
た。
自宅に戻り、カ
ッ
ター
ナイフを握りしめた。今日は多くなりそうだ、そう思
っ
た。
がち
ゃ
がち
ゃ
とドアノブが音を立てる。まだ「最中」なのだが、面倒になりドアを開ける。ユウジだ
っ
た。
「お前、一緒にヒルメシ決める
っ
て言
っ
てたろ、泣きながら帰
っ
た
っ
て聞いて
……
」
「え、俺
……
泣いてた
……
?」
「血も出てる。傷、そういうことだ
っ
たんだな」
「悪い。こういうことだ
っ
た」
ユウジが緊張した面持ちから、気の抜けた顔になる。ユウジが、タカシを抱きしめた。大学を抜けたときには気づけなか
っ
た涙が、今この時は気づけた。
「笑えよ。笑
っ
ててくれよ。ダチだろ」
「
…………
」
「前から思
っ
てたぜ、そのリスカ、イケてる。ヘンなタト
ゥ
ー
みたいだし、もう隠すなよ」
タカシは、永遠に残る傷とともに、永遠に残るキズナと笑顔を、手に入れられたのだ
っ
た。
(了)
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